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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第一章 転生魔王(仮)の異世界奮闘記
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第二話 魔界の生活は今日も大変だ!④

――魔界生活三日目。

昨日、俺はギルドの冒険者登録をし、晴れて兼業冒険者となったわけだが、今日はギルドの簡単なクエストを請けることになった。

もちろん、リムを除いてだが魔王軍四天王と一緒に。

確かにリムはダークウィザードというジョブを持っているが、ギルドの本登録は十三歳からなので、リムはクエストに参加できない。

四天王の中で、唯一の常識人であるリムが居ないのはかなり心配だ。

そもそも、何で魔王や魔王軍四天王が冒険者になったりクエストを請けるんだと疑問に思ったが、ハイデルが言うには他の国の王族でも冒険者登録をしているヤツもいるし、モンスター討伐も立派な国王の務めなのだと。

何より、まず俺には金がない。

一応魔王城の一室とパンなどの食い物は貰っているが、流石に金はもらえない。

かといって城から金を盗むというわけにもいかない

半年前の人間軍との戦争で、半分以上魔王城の資金がなくなったらしい。

だから魔王城やアイツらから金を頂いたりするのは何だか申し訳ない。

なので、アイツら付き添いの元、少しでもこの世界の金を手に入れるために、クエストを請けたのだ。

……請けたのだが。


「うわあああああああああああああ! 来るんじゃねええええええええええ!」

「リョータ様、何逃げてるんですか!? 早く撃退してください!」

「むうううううううううううりいいいいいいいいいいい!!」


俺は討伐依頼のあったバルファストを出てすぐの森の中を叫びながら全力疾走していた。

そんな俺に、ハイデルが遠くからそんなことを言ってくる。

撃退って無理! 超怖い!!

逃げる俺の後ろには、もうすぐそこまで奴らが迫っていた。

鋭い牙にギラついた目。錆び付いた鉈を振り回しす最悪な奴らに――!


「無理って、たかがゴブリン三匹ですよ!」


そう、今俺は異世界の代表的雑魚モンスター、ゴブリンに追いかけられていた。


「怖いんだよおおおお! ゴブリンって確かに雑魚モンスターの筆頭って感じのモンスターだけど、実際見るとメッチャ怖いんだよおおおおおおおおおおおお!!」

『ギャー! ギャー! ギー!』


世界最強である魔王(仮)が世界最弱のモンスター、ゴブリンに追いかけられ、立場が逆転しているこの状況である。

俺の腰には魔王城の武器庫に残ってたショートソードが刺さっているが、ゴブリンとは言え人型モンスターを殺すのには心の準備が必要だ。


「リョータちゃん、危ないッ!」


と、その時、俺の後ろからローズの切羽詰まった声が聞こえた。

その声に反射的にしゃがむと、俺の頭の数センチ上をゴブリンが投げた鉈が通り過ぎ、そのまま木の幹に突き刺さった。


「危ねええええええええ!?」


俺は身体を起こすとハイデル達に飛びついた。


「ま、魔王軍四天王の皆様あああああ! どうかッ! どうかお助けおおおおおおおおおおお!」

「はあ……ゴブリンに追いかけられるどころか、魔王軍四天王の我々に命乞いをするとは……次期魔王として情けないですよ?」


何かハイデルが俺が魔王になることは確定しているみたいな言い方だった気がするけど、今はそんなこと言ってる場合じゃない。

ゴブリン達がもうすぐそこまで迫ってきている。


「うわあああああああああハイデル様あああああああああああああ!!」

「はあ……しょうがありませんね。リョータ様、下がっていてください!」


ハイデルは泣き叫ぶ俺を自分の背に隠すと、掌を天に向けた。

すると突然、その掌から黒い炎が燃え上がった。

アレって、ハイデルが悪魔の姿に変身したときに出た……!

そして、その黒炎は巨大な球体の形となり、三匹のゴブリンのウチの二匹が飛びかかった瞬間。


「『ヘルファイア』ッ!」


ハイデルがそう叫びながらゴブリンに向けて黒炎の球体を投げつけた。

黒炎は真っ直ぐゴブリンに向かっていき、ゴブリンの身体に当たった瞬間、黒炎の球体がゴブリンの身体を包み込んだ。


『ギャアアアアア!?』


黒炎の渦に囚われたゴブリン達は、耳障りな叫び声を上げる。

そして、数秒も経たないうちに、二匹のゴブリンは真っ黒な燃えカスになった。


「ふう……これが、地獄の業火を呼び出す私のユニークスキル、《ヘルファイア》です」


ハイデルはそう言って俺に笑いかけた。


「…………」


驚愕の表情を浮かべ絶句する俺を見て、ハイデルは少しドヤ顔を決める。

怖い! ゴブリンなんかよりもずっと怖い!!

そんでユニークスキルが格好いい! 何この中二心くすぐる格好良さ!?

そうだった……コイツは一応魔王軍四天王、ドジでバカだけどやっぱメッチャ強いんだ。

今後コイツを怒らせないようにしよう。

そう思いながら、俺がハイデルから少し距離を置いていると、残ったゴブリンの一匹が今度はレオンに向かってきていた。


「おいレオン、そっちに一匹向かってるぞ!」

「フッ……たかが子鬼ごとき、我の相手にもならんわ!」

「いや、お前ガキ共にボコボコにされてたんだから、変なこと言ってないで逃げろって!」

「そうよ、そんなレオンちゃんがゴブリンに勝てるはずないでしょ!?」


俺とローズがそう忠告したが、レオンは構えずに迫ってくるゴブリンに歩み寄っていく。

そしてゴブリンが飛び上がり、レオンの頭部に木の棍棒を振り下ろした瞬間。


『ギッ!?』


フッと、レオンの姿が一瞬にして消えた。

先程まで目の前に居た標的を見失い、ゴブリンは辺りをキョロキョロと見回す。

いや、消えたって言うより、


「地面に沈んだ!?」


一瞬しか見えなかったが、攻撃が当たる瞬間、どういう仕組みかレオンは地面に沈んだように見えた。

そして、混乱しているゴブリンの後ろから、今度はレオンが地面から浮き上がってきた。


「何だあれ!? 地面に潜ったり出たり出来るユニークスキルか!? だとしたらコイツが前々から言ってた闇の力とかは一体何なんだよ!?」


俺がそんなどうでもいいことを大声で言うと、隣からハイデルが説明を始めた。


「アレは地面に潜ったのではなく、『影』に潜ったのです。レオンのユニークスキルは《シャドウ》と言い、影の中に入ったり、影から影に自由に移動できたり出来る能力なんです」


確かによく見ると、レオンはゴブリンの影から出てきていた。

畜生、何でハイデルといいレオンといい何でそんな中二心くすぐる能力持ってんだよ!?

俺にもそんな能力くれよ!

そんなやりとりの間に、標的が背後に居ることにいまだに気付かないゴブリンに、レオンは拳を振り上げる。


「フッ、油断したな。これで終わりだッ!」

『ギッ!?』


後ろから聞こえたレオンの声にゴブリンが反応する前に、レオンが拳を振り下ろした――!


――ポスンッ。


「……………………え?」


レオンの右ストレートがゴブリンの顔面に当たった瞬間、ゴンッとかドスッという音ではなく、そんな柔らかい感じの音が聞こえた。


「『………………』」


固まるレオンとゴブリン。

そして、数秒間この空間に静寂が包み込んだ後。


『ギッ!』

「ガッハ……ッ!」


ゴブリンの棍棒によるアッパースイングがレオンの急所にジャストミートした。

そして、レオンは両手で股間を押さえると、そのまま顔面から地面に倒れ込んだ。


『ギャー! ギー!』


そんなレオンの頭をゴブリンがげしげしと踏み付ける。


「…………って、おおおおおおい!? 何やられてんだよお前ええええ!?」

「レオン! 大丈夫ですか!? 気をしっかり!」

「だから勝てるはずないって言ったじゃない!」


ハッと我に返った俺達はゴブリンに踏み付けられるレオンに口々に言葉を浴びせる。

レオンは股間が痛いのかゴブリンにやられたことを恥じているのか、地面に顔を付けたまま動かない。

くそ、この距離からゴブリンの所までかなり距離がある。

今から剣で斬りかかろうとしてもゴブリンがトドメを刺そうとするだろう。

そう考えた俺は瞬時に先程ゴブリンが投げた鉈を木の幹から抜く。


「リョータちゃん、何を……!?」


ローズが戸惑いながら俺に訊くが、俺は答えずに鉈を後ろに構える。

そして、ゴブリンが棍棒を振り上げた瞬間。


「『投擲』ッ!」


覚え立てのスキルを叫びながら、俺は鉈をゴブリンに向けてぶん投げた。

鉈は空気を切り裂く音を立て、回転しながら真っ直ぐゴブリンに向かっていく。

そして、俺が投げた鉈はゴブリンの頭を叩き割った。

今俺が使った投擲スキルは少し前、ハイデル達がギルドで手頃なクエストがないか探していた時に、ローズの胸は棒で押したら一体どのくらい埋るんだろうという話題で仲良くなった冒険者達の一人の盗賊職のお兄さんに教えて貰ったスキルだ。

投擲スキルはその名の通り、物を投げるのが上手くなるスキル。

投げナイフをはじめとし、小石や木の棒だって、何でもプロ野球選手宛らのコントロールで投げることが出来、コントロールは器用度によって比例する。

まさか鼻紙をゴミ箱にポイするのに便利そうという理由で獲得したスキルがこんな所で役に立つなんて。

鉈が眉間に突き刺さったゴブリンは声も出さす後ろに倒れる。


「おお、凄いじゃないですかリョータ様!」

「ふいぃ……危なかった……」


俺は額を袖で拭うと、レオンの元に駆け寄った。


「お前、ぶっちゃけ俺より弱いかもしれないんだから、後ろに下がっててもいいぞ……?」

「ふん、我が本気を出していたらあんな子鬼なんて瞬殺だったのだ……」


俺に助けられたのが気にくわないのか、レオンはうつ伏せのままそっぽを向く。

格好悪い、レオンさん超格好悪い。

流石他の四天王とかに『アイツは四天王の中でも最弱。四天王の面汚しめ』とよく罵られるでお馴染みの四天王最弱キャラだ。


「そういえば昨日リムが言ってたけど、やっぱヴァンパイアって昼間になると弱体化するのか?」


俺は昨日ギルドに向かう際、レオンが子供達にボコボコにされていた時リムが言っていたことを思い出しながらレオンに訊く。


「我らがヴァンパイア族は生まれながらにして呪われた定めがあり、その呪いを解くためには世界中のどこかに存在すると言われる七つの秘宝……」

「そういう妄想いいから、ちゃんと説明してあげなさいよ」

「……ヴァンパイア族は貴様の言うとおり、昼になると弱体化し、普段の半分の力しか出せなくなる。逆に夜になると、普段の二倍強くなるのだ」


なるほど、夜になるとパワーアップして、しかも影の能力だからコイツの決め台詞は闇を司り影を操る夜の王なんだな。

それにしたって子供数人、ましてやゴブリン一匹にも負けるとは、レオンの元の強さもあまり強くないのだろう。

しかし、あのシャドウとかいうスキルは結構強そうだった。

夜になれば強くなるって言うし、コイツは時間帯によってだが、かなり強くなるんじゃないか……。


「…………ちょっと待ってくれ」

「? どうした?」

「お前影を操るユニークスキル持ってて、昼になるとになると弱体化するんだよな?」

「さっきからそう言っているだろう。それがどうしたというのだ?」


俺はあることを思いだした。

おそらく小学校低学年でも知っているであろう常識中の常識。

服に付いた土汚れを払いながら立ち上がるレオンに、


「影って……昼間しか出ないよな?」

「……………………」


俺の指摘に、レオンはそれだけは言われたくなかったという表情を浮かべた。

つまり、コイツのユニークスキルはゴブリンよりも弱い時にしか使えないって事だ。


「……四天王の面汚しめ」

「貴様、その台詞は他の四天王だけに許された禁句だぞ!」


四天王に言われることは認めてんのかい……。

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