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オアシス  作者: 小川百閒
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籠からの一歩

「砂漠・・・だよな?」


 振り返って外扉を確認する。大丈夫、まだそこに存在する。でも足が動かない。

降り注ぐ陽光は変わりない。しかし周りの風景を目にした瞬間に汗が吹き出し体感温度も一気に20度ぐらい騰がった気がする。

 無人の砂丘は何度も行ったことがある。海の側だから暑くはなかったし海藻や漂流物、多少の雑草とちょっと離れたところには防風林もあった。しかしここは見渡す限り砂、砂、砂・・・写真や絵で見た砂漠そのものだった。砂丘もある。


 もう一度振り返って外扉を見る。立っている場所は砂丘の中腹で扉だけが砂から立ち上がっている。外枠は無い。外枠がないと言うことは壁についている開錠するためのセキュリティカードの端末は無い。幸いなことに扉についているキーホールに自宅のディンプル自錠のキーを差し込んで回せばロックは解除される。そしてそのキーは車のキーと共に革のホルダーに付けて右手に握っている。


 大きく深呼吸をして足を動かしてみる。大丈夫だ。

 ゆっくり、慎重に扉の横に回り込んでみる。そして扉の裏側を覗いてみると本来ならばオートロックのノブが付いた扉の裏側が見えるはずなのだが、何故か扉の表側がまたあった。ご丁寧に開錠の為のキーホールも経年劣化で付いた傷もそのままに。

 もう一度回り込んで出てきた側に戻る。そして右手のキーホルダーから自宅のキーを抜き出し急いでキーホールに差し込む。オートロックの開錠するカチャンという音がするのももどかしく扉を押し開けて転がり込む。


 そこはいつものマンションのエントランスホールだった。エレベーター扉が前にあり、出てきたときと同じく、節電のために籠の電気は消えているが1階に籠は留まっている。

幻覚でも見たか、それとも昨夜のウイスキーが残っているのか、そう考えながらもう一度外扉を押し開ける。そしてそこには砂漠が広がる。


「一旦部屋に戻るか」

 そう考えてエレベーターの昇降ボタンを押す。籠の電気が灯り引き分けドアが開く。急いで乗り込んで6階のボタンを押す。2階、3階と表示が進み6階に着く。自宅の鍵を開け玄関に転がり込んで、初めて息をつく。呼吸を止めていないと自宅に帰れないような気がしたからだが、暗示が利いたのか、そもそも意味がなかったのか無事に自宅には帰られた。

「ナー」

 どうして帰ってきたのかが判らないような顔をして飼い猫のポロとジャンが玄関で見上げてくる。出かけるときと帰宅したときは律儀に玄関で出迎えてくれるこの猫たちも、帰って来るなりいきなり大きく息をつく飼い主は不審以外の何物でもないようだ。


 異世界、並行世界、次元ワープ、ワームホール、どこでもド・・・。とにかくあの扉の外は砂漠らしい。暑いし晴れているし砂が一杯だった。それはさっき迄だったのか、それともこれから続くのか?

 もう一度降りて確かめてみる必要がある。もしかすると今度は宇宙空間かもしれない。開けた途端に大海原のど真ん中かもしれない。密林の首狩り族の真ん前だったらどうしようか。

 まずは自分とドアをつなぐ生命線を確保しなければならない。ドアの内側のノブに丈夫なロープ状のものを括り付けその端を持って出てみるとするか。確か納戸の中に登山用のザイルがあったな。登山なんかしないけれど車に荷物を固定するのに使ったきりで放り込んであったはずだ。

 そう考えてザイルを取り出すと、予備の鍵を持つ。何らかのアクシデントで一つを失っても予備があれば安心できる。それと冷蔵庫から冷たく冷えた500mlのペットボトルに水を取り出す。飲んでも頭からかぶっても冷静になれるはずだ。


 自宅から出るとエレベーターの籠は1階に下りていた。利便性の為に一定時間経つと自動的に降りるのだ。そこでもう一度昇降ボタンを押す。1階から2階へ、2階から3階へ、表示階は上がる。籠に乗り込み一息ついて1階のボタンを押す。


6階、5階、4階、3階・・・カウントダウンは進む。


 籠から改めて踏み出すと外扉はまだ真白く陽光が差し込んでいる。そして型ガラスから見える歪んだ外の景色は、まだ砂漠だった


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