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死神さんと死神 後編

「ただいま」


たこ焼きを食べた後死神さん達は、用事があると何処かへ行ってしまった


ちゃんとアパートに帰ってこれるか少し心配だったけれど、こうして玄関に女物の靴が二つ並んでいる所を見ると、どうやら無事に帰ってくれたみたいだ


買い物袋を台所に置き、居間へ続くドアを開ける


「ただいま~」


「む」


「おかえり、少年」


居間で二人は、何故か正座でトラえもんを見ていた


「どうだ、長島。ここが最高の場面なのだ」


「す、凄いですね~。……何度同じシーンを見せる気よ」


巻き戻し、停止、コマ送り。どうやら使い方を完全にマスターしたみたい


「今、お茶入れるよ」


台所へ行く前にふと見た壁時計は、針は6時30分を差していた。うん、丁度夕食時だ


「はい、どうぞ」


死神さん達に冷たい緑茶を出す。すると死神さんは、コップを持ったまま固まってしまった


「……お茶」


「あら、死神さんはお茶嫌い?」


お子さまね。そんな声が聞こえて来そう


「あ、ごめん。お茶嫌いだった?」


コーヒーも駄目だったし、苦い物が苦手なのだろうか?


「む……。そんな事はないぞ、昨日こっそり飲んだ」


そう言ってゴクリと一口


「…………うむ。良いお茶です」


なんて言って頷いてるけど、表情は渋い


「死神さん、オレンジジュース飲む? 買って来たんだ」


「ぬ」


死神さんは、お茶と俺の顔を見比べて、


「……飲んでやる」


「うん。じゃあ持ってくるよ」


今度からはミネラルウォーターでも用意しておこうかな


「……ふ~ん」


「?」


感心した様に俺と死神さんを見るユマさん。その目に見送られながら、俺は台所へと向かった



「よし、完成」


午後7時。ちゃぶ台にガスコンロを乗せて、俺達は鍋を囲む


「もう煮えてるよ、死神さんと長……ユマさん」


い、今、恐ろしい目で睨まれた……


「……この卵に浸ければ良いのか?」


さっき食べ方を説明したのだけど、どうやらまだ疑心暗鬼らしい。死神さんは鍋から肉を取り、恐る恐る卵につけた


「むう……ぬ!?」


震える箸先で、目をつぶりながら肉を口に含む死神さん。その死神さんの目が、カッと見開いた!


「ど、どうだい?」


「うまいぞ! たこやきも中々だったが、これもうまい!」


「そう、良かった」

死神さんは殆どの食べ物を喜んでくれるなぁ


「どれどれ……うん、イケるわね。酒のツマミに最高よ」


そう言ってユマさんは、にやりと日本酒を抱き抱える


すき焼きに入れる酒だしワンカップで良かったんだけど、結構使うのから1リットルのパックを買って来た。でもこの分だと、直ぐになくなりそうだ


「…………プハー! 酒に男にすき焼き! たまんないねこりゃ」


「む? そんなにうまいのか、それ」


酒を指差す死神さん


「ん? 飲んでみる?」


「ち、ちょっと、長……ユマさん」


「大丈夫、大丈夫。死神さんは成人だから」


「そうなんですか?」


思わず死神さんの顔を見る


「…………」


どうみても15、16にしか見えないけど――


「うむ。私は成人だぞ」


「う~ん。……ちょびっとだけだよ?」


「うむ。注いでくれ長島」


オレンジジュースを飲み干し、死神さんはコップをずいっとユマさんへつき出した


「長島じゃないってのに……」


ユマさんは酒をコップの四分の一ほど注ぐ


「はい、どうぞ」


「うむ。どれ、一口………………」


少し飲み、机にコップを置いた死神さんは、いきなり横にコテンと倒れ込む


「し、死神さん!?」


慌てて死神さんを見ると、顔は真っ赤にしていたが、すーすと穏やかな寝息を立てていた


「あらま、弱いわね」


なんか嬉しそう


「びっくりしましたよ」


押し入れからタオルケットを取り出し、死神さんへかける。ムニャっと寝返りをうった死神さんは、気持ち良さそうだ


「起きるの待つ?」


「後でもう一度作りますから、食べちゃいましょう」


材料を多めに買っておいて良かった


「酒、注ぎましょうか?」


「あら……ふふ。子供が寝ている横で女を酔わせて何をするつもりなのかしらね」


「そうですね、ユマさんの秘密でも聞きだしましょうか」


「素敵な返しね。何が聞きたいの?」


「お歳は幾」


「馬鹿かテメェ! 今の流れで何でいきなり歳の話になんだよ!?」


「す、すみません」


「ったく! 他には無いの!?」


「ほ、他に……そ、それじゃあ――」


それから数十分。色々な質問をしながらの、楽しくも和やかな食事は終わった。ユマさんは部屋の窓を開けて、風を楽しんでいる


「ふぅ。久々のお酒と御馳走でちょっと、はしゃぎ過ぎたかな」


「久々なんですか?」


「ええ、半年振り。普段は仕事だけを済ませて直ぐに帰るから」


「仕事……ですか?」


「そう、死神の仕事」


「……この近所の方なのでしょうか?」


「あたしの担当はこの町だから。駅前の田所一三さん92歳、大往生」


「そう……ですか」


知らない人だ、良かった。……いや、喜んじゃ駄目だよな


「…………」


死神さんが本当に死神なら、彼女もいずれ……


「死は必ず訪れるものよ」


視線を下げた俺に、長島さんは独り言の様に言う


「長島さん?」


「あたしは……あたし達はその死を迎えに行き、迷わぬ様に死の世界へと送る案内人。君達人間にとっては忌む者達だとは思うけれど、出来れば仲良くしてあげてね」


そう言って長島さんは、優しく死神さんを見つめる


「ところで……」


「はい?」


「あたしは長島じゃないって言ってんだろ!」


「す、すみません!」


やっぱり怖いな、この人!


「たく! 普通なら細切れよ? ほんっと子供は直ぐ変なアダ名を付けるんだから」


「誰が子供だ」


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!!」


「…………弱っ」


死神さんは起き上がり、ぺこぺこ謝るユマさんを目を擦りながら見下ろす


「……喉渇いた」


そう言って目の前にあったコップを死神さんは手に取り……


「ってちょっと! それは」


「む? どう………し…………」


再びコテンと倒れる死神さん


「全くもう……」


さすがに俺もユマさんも苦笑いだ


「……安心しているのね、死神さん」


「安心?」


「ええ、良かった。……あ、そうだ大切な事を忘れてたわ。君、赤い鎌を持った死神には話かけちゃ駄目よ」


「赤い鎌ですか?」


「赤い鎌を持つ死神は、汚れた魂を刈り殺す者達。奴らには死神様の威光が余り効かず、暴れ者が多いのよ」


「え? 死神様って死界の支配者なのでは?」


「死界も一筋縄じゃないから。奴らには別のリーダーがいてね、ソイツは死神様に近い力を持っているわ」


「……どこでもそういう事はあるんですね」


物騒な事だ


「死を運ぶ大切な仕事をしている者としては、恥ずべき話なんだけどね。とにかく、奴らは仕事の邪魔をする者に厳しいから、下手に関わるとマズイ事になるかもしれない」


「……分かりました。気をつけます」


赤い鎌か。今度こそ鎌を見ても反応しない様にしないと


「ま、いざとなれば死神様が黙っちゃいないけどね。勿論あたしも」


「……ユマさんは死神さんの事、大切にしているんですね」


「まね。死神さんが生まれた頃から見ているから。自分の子だと思っちゃうぐらい大切よ」


「ええ!? それってまさか死神様の」


「言っとっけど愛人とかじゃねーぞ!?  あんなジジイに誰が抱かれるか!!」


「す、すみません!」


「ったく。……今日町をうろついていたのは、死神さんの居る町を見たいって思ったからなのよ。今回の死神研修がこの町だって事は、知っていたから。でもまさか一発目で死神さんに会えるとは思わなかったわ」


「これからも会いに来てあげて下さい」


「ありがと。さてと、そろそろ帰るとしますか!」


立ち上がり、ユマさんは伸びをする


「もうですか? ……死神さん、ユマさん帰ってしまうよ」


「いいわよ、寝かせてあげて」


そう言ってユマさんは軽く腕を振った。すると手には大鎌が現れる


改めて見ると死神さんの鎌より大きくて、柄や刃の部分にも、様々な模様や文字が刻まれている


「死神は鎌を持つ事で能力が飛躍的にアップするの。この紋章や呪文が力を引き出すのよね」


「……なるほど」


「よく見ておいて。この町には居ないと思うけど、あたしの鎌より大きな物を持っている相手を見かけたら絶対に近付いては駄目よ。これは色に関係無くね」


「はい」


「よし。それじゃまたね」


そしてユマさんは窓の前に立ち、そのまま飛び出した


「ユ、ユマさん!?」


窓に駆け寄り、ユマさんの姿を探す。ふと明るさを感じて見上げると、空には見事な天の川が流れていた


その天の川の下で、踊るように飛ぶユマさんの姿


「…………」


人々が恐れ、忌み嫌う死神。だけどその姿はとても神々しくて、とても綺麗だ


「ぬ……う。すきやき……」


「ん?」


モゾモゾと寝返りをうつ死神さん


「……ふふ」


ズレたタオルケットをかけ直して、俺は新たにすき焼きの下ごしらえをする事にした



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