死神さんと死神 前編
織り姫と彦星が出会う日。今日は晴れているけど星は見えるだろうか
「さて、買物、買物」
学校帰り、デパートに寄って夕飯の買物をする。今日はすき焼きだ、死神さんは喜んでくれるかな
デパートの一階で材料の買物を終えた後、まだ時間があったので二階の服売場へ行く。仕送りも入ったし、何か死神さんの服を買おう
少し気まずいが、女性服コーナをうろついていると、目を引く美女が展示服を見ていた
スラリとしたモデルの様な体形に肩まである輝く金色の髪。その髪をハーフアップにした女性
その女性は、その長身に良く合う、とても大きな黒鎌を肩に担いで…………え!?
「し、死神!?」
「っ!?」
鎌をかついだ女性は体をビクッと震わせた後、振り返って俺をギロリと睨んだ
そして、近付いて来る女性。俺は咄嗟に視線をそらす
「………見えてるね、君」
感情を感じさせない淡々とした声だ
「ら、らら~。き、今日はすき焼き~」
「見えてるよね、君」
「あ、明日はドラ焼きにしよ~」
「見えてるんでしょう! 無視しないでくれる!?」
「はい、バッチリ見えてます! 申し訳ございません!!」
「ちょ~っとお姉さんとお話しようね、ボク」
「うぅ」
なんでこんな事に……
そしてデパートの屋上。鎌をしまった女性とベンチに座り、買った缶コーヒーを二人で飲む
「そう、貴方の所に死神候補生が」
渋々ながら事情を一通り説明すると、女性は同情するかの様にそう言った
「え、ええ」
「それはツイてないわね」
「やっぱりそうですよね」
死神さんは本当に可愛いし、出会ったのは嫌じゃ無い。だけど魂を取られるのは嫌だ
「あたしの様に美人で優しく、尚且つ教養もある死神にならともかく、今年もそんな候補生はいないしね。本当ツイてないわ」
「い、いやそれは別に」
死神さんの方が好みだし
「で、誰よ? 君の所に行った子は」
「え? 名前は知りませんよ」
死神さんって、それが名前なんじゃ?
「知らない? 契約の時に名乗らなかった?」
「え、ええ」
「変ね。……どれどれ」
女性は俺の体を、そっと抱いた
「ち、ちょっと!」
「う~ん? この波長、どこかで……なっ!! あが!?」
「うげ!」
突然起き上がった女性の後頭部が、俺の顎にクリティカル!
「く~~っ何するのよ!」
「それは俺が言う台詞ですよ!!」
顎がビリビリと痛い!
「それより君! 君についてる方は死神さんじゃないの!!」
「はぁ、そうですけど」
「ほへ~そうですねぇ~あぽぉ~じゃないわよ! 死神さんよ、あの死神さん!?」
そんな馬鹿そうな言い方をしたか俺?
「そんなに驚く事なんですか?」
「はあぁ? テメェ馬鹿か! 死界の支配者にして、最強のキング・オブ・デス、死神様。そんな死神様の呪われし六六六番目の子、通称プリティ死神さんの事だぞこら!?」
「き、急に口調が変わりますね。それにプリティって……」
この人の方がちょっと馬鹿っぽい
「文句あんのか!?」
「あ、ありません! 申し訳ございませんでしたぁあ!!」
こ、この人の目、これは人を殺せる目だ! 逆らったら殺られる!?
「……あ、あら、ごめんなさい。ついヤンチャだった頃の癖が。おほほ」
頭を下げた俺に、女性はおしとかとも言える口調で謝った
「…………」
ヤンチャってレベルの迫力じゃなかったけど……
「おい、長島」
そんな時、突然後ろの方から声がした
「ああ!? あたしをその名で呼ぶんじゃねぇ! 細切れにす………し、死神さん!?」
「え!?」
驚く女性に釣られ、慌てて振り返る。すると屋上にあるフェンスの上に、鎌を担いだ死神さんが仁王立ちで立っていた
「何をしている」
「そ、そんな事よりそんな所に居たら危ないよ死神さん!」
「ふむ」
フェンスの高さは5メートル以上ある。そのフェンスから死神さんは何の躊躇も無く飛び降りた
「死神さん!」
「大丈夫よ」
慌てて死神さんを下で支えようとした俺を、女性が止めた。死神さんはストンと軽い音で着地する
「か、かっこいい」
「む。……もう一度やるか?」
まんざらでも無さそうな顔で、死神さんは再びフェンスを上ろうとする
「や、やらなくていいよ」
「そうか?」
少し残念そうだ
「で、何をしているのだ長島」
長島? さんを見据える死神さん。気に入ったのか、今日も中学の制服を着ている
「し、死神さん、あたしにはナー・エルテ・ユマって名前が……てか前と後しか合って無いし」
「お前が死界で私に付けたあだ名が気にくわん。浸透させおって」
もしかして“プリティ”の事なのだろうか。やっぱり長島さんが付けたのか
「それより質問に答えろ長島」
「う……分かったわよ。でも別に何って事は無いのよねぇ。珍しくあたしの事が見える人間が居たから話を聞いてみただけだし」
「だが、そいつの魂が怯えていたぞ? 人がトラえもんを見ていたと言うのに助けを求めおって、全く」
トラえもん。死神さんのお気に入りだ
28世紀とかその辺りから来たトラでニートの生き物が、勤労少年と暮らしながらトラウマを克服する、自分で説明していて訳が分からなくなって来たそんなアニメ
押し入れで寝る所に親近感が湧いたらしい
「ご、ごめんね」
「む。……まぁ、でーぶぃでーだから構わんがな」
「操作覚えたんだ」
昨日、夜中まで教えたかいがあったぜ
「うむ。再生、停止、早送りに巻き戻し。全てこなせるぞ」
そう言って、自信満々な顔で頷く。う~ん、次は録画と予約を教えてみようかな
「……あ、あの~、あたしはそろそろ」
「ぬ、まだ居たのか長島」
「ぐぐっ! ……そ、それじゃあたしは引き上げますね」
「あ、長島さん」
「誰が長島だ!!」
「すみません!」
や、やっぱり怖い
「……何よ」
「ゆ、夕飯一緒に食べません? 材料も一杯買ってあるし」
死神仲間だ、きっと死神さんも話したい事の一つや二つあるだろう
「夕飯ねぇ」
「良いかな、死神さん」
「私は構わんぞ。それよりアレが気になる」
死神さんが指を差したのはタコ焼きの屋台だ。此処のは結構美味しいと評判
「……まぁアレぐらいの食べ物なら良いかな。はい、400円。試しに食べてみたら?」
「ぬ……。変わりにコレをやる」
そう言い、死神さんはポケットからキラキラ光る石を取り出した
「凄く綺麗な石だね、ありがとう」
もらった無色透明の結晶は、中で光が幾重にも反射し、とても綺麗な光沢を放っている
「うむ。では行ってくるぞ!」
「行ってらっしゃい」
屋台へと小走りで行く死神さん。嬉しそうで何よりだ
「ふ~ん。意外とやるじゃない、君」
「はい?」
「タコ焼きでダイヤゲットなんて中々出来ないわよ普通」
「え…………ダイヤ!? だ、駄目だって死神さん!!」
ダイヤを片手に、俺は急いで死神さんの後を追い掛けた
「全くもう!」