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夜中の死神さん 前編

チックタック、チックタック


「……遅いなぁ」


もう何度見たか分からない壁時計。時間は夜の10時を過ぎていた


死神さんは、まだアパートに帰って来ていない。朝、通学路で別れたっきりだ


もしかして警察に捕まっていたり、迷子になってたりしているのでは?


「…………」


探しに行ってみよう


アパートを出て、夜の町に飛び出す。ぬるい風が肌に纏わり付いた


「う~ん」


何処を探せば良いのだろう。取り敢えず、あちこち行ってみよう


大通り、小道、駅前、公園のそれぞれ見て行く。この町は田舎では無いけれど、基本的には何もない


だから夜に行く場所なんて限られているし、人通りも少ない。死神さんみたいに目立つ人は、見付けやすいはずだけど……


「……何処に行ったんだろ死神さん」


全然、見付からない


「駅裏の方に行ってみるか」


その後も必死に探したけど、やっぱり見付からなくて……


「参ったな」


「おーい!」


駅裏の小道で途方に暮れていると、数十メートル先から呼び声がした


「うん?」


知り合いだろうか


「こっち来てよ!」


人影は俺に向かって大きく手を振っている


「何だろう?」


人影の方へ向かって行くと、相手もこちらに向かって来た


「うぃー」


片手を上げ、挨拶してきたのは多分俺と同い年ぐらいの金髪の人。そしてその後ろに、ニヤニヤ嫌らしく笑う眼鏡の人が居る


「何?」


知らない人だと思うんだけど……


「金ちょーだい」


「はい?」


「金ちょーだい」


「………………」


カツアゲか


「出せよ」


「嫌だ」


「あっそ。じゃ、無理矢理取るの方向で……」


「おい」


どうやって逃げようか思案していると、突然後ろから苛立った声を掛けられた。まだ仲間が? 俺は慌て振り返る。すると


「し、死神さん!?」


仏頂面の死神さんが仁王立ちしていた


「あ? 何? 死神? つか、彼女? 可愛いじゃん。その服は彼氏の趣味?」


「お前らか。人の物を奪おうとした馬鹿者は」


「はあ? いきなし説教ですか? この不景気に金稼ぐ手段を選んでられねーのよ」


「金? ふん」


死神さんは鼻で笑う


そんな死神さんの側に行き、耳元でコソコソ声


「死神さん。どうやってあいつらから逃げる?」


「む?」


「それとも、死神さんが二人を倒してくれるのかい?」


必殺の死神アタックとかで


「……お前は、この貧弱な私に何を期待しているのだ」


「え? だ、だって死神さん、強いんじゃ?」


「体を見て分からんか? 強い訳が無かろうに」


「ええ!? じゃ隠れていれば良いのに! な、何か必殺技みたいの無いの?」


「あるにはあるが、あいつら必ず死ぬぞ?」


本当に必殺!?


「ねぇ、何ゴチャゴチャ言ってんの? 取り敢えず金出せば行って良いっつーのに、無視されんとムカつくのよ」


金髪の人が怠そうに近付いて来て、三白眼の目で俺を上から睨みつけた。……本当に同い年ぐらいか? 恐すぎるぞ


「……仕方ない」


財布は渡さない。だから喧嘩するしか無いのだろうけれど……。流石に殺されはしないだろう


「……死神さん。鎌出して消えてて」


「む」


「だから無視すんなよってさ? つか、もう面倒臭いしやっちゃうよ? なんか調子にのっちゃってっから? 少し教育してやんねーと」


「ふん、教育か。同感だがお前らにしてやる程、私は暇では無い」


死神さんは振り返り、歩き出す


「帰るぞ」


「待てよ!」


「汚い手で、私に触れるな!」


死神さんは肩につかみ掛かった金髪の手を払い、そのまま右手を振る


振った後、死神さんはいつの間に手に何かを持っていた。よく見ると、それは黒くて無骨な形をした鈴のようだ


チリン、チリン、チリ――ン


その鈴は振ってもいないのに、数回音が鳴った。闇を切り裂く涼やかな音色


その鈴の音を聞いていると、なんだか急に体が重くなり、ズブズブと足元が地面に沈んで行くような感覚に包まれる


「影黄泉。少し死を体験して魂でも磨いて来い」


周りの景色がタイルの様に剥がれ、剥がれた所から赤い肉が現れた。それは地面や天井、左右の壁全てを侵食し、肉で出来たトンネルを作り出す


響く苦しげなうめき声と腐った肉の臭い。いつ現れたのか、腐った人間達が長い列を作り、トンネル内を真っ直ぐ歩いて行く


此処は呪われた肉体が、清浄なる黄泉へと向かう道


肉体は一歩毎に滅び、昇華され、ただただ純粋な魂に変わる!


「いやだああぁぁ!!?」


「む。お前は逝かなくていいのだ」


バチン。頬に走る鋭い痛み


「………………あ?」


その痛みで俺は我に返る事が出来、普通の、いつもの駅裏へと戻った。腰は抜けているのか、地べたに座ったまま立てない


「ひやあ、ひゃあ!?」


「来るな、来るなぁぁあ!」


地面に倒れ込み、泣いて暴れる二人の男達。それを、俺はただ茫然と見ている


「………………」


あれが死?


「心配するな、死は意識の無い世界。お前ら人間が死してあの場所を通る時は、何も感じぬよ」


「………………」


「うむう……刺激が強すぎたか。道具を使うと成績が下がると言うのに」


ぶつくさ言いながら、死神さんは再び腕を振る。すると死神さんの手から鈴は消え、代わりに数匹のコウロギに似た虫が止まっていた


「……10分ぐらいでいいな」


虫の一匹を選ぶと、それを死神さんは俺に向かってポンと投げる


ブーンと虫の羽音。その虫は俺の目の前に飛んで来て、口を自らの体より大きく開た


「う……うわぁあ!?」


その口からは、赤い目をした小蝿みたいな虫が数十匹出て来て!


「若干気持ち悪いが、害は無い。大人しく受けとけ」


そいつらはピョンと跳ね飛び、俺の頭へ落ちる。早くて避ける事すら出来なかった


「ううぅ!?」


半分パニックになりながら頭をゴシゴシ掻くと、ちくちくとむず痒い痛みがした。そして、思考はだんだんと空白に……


「………………あれ?」


此処は?


「ふん」


顔を上げると死神さんが不機嫌そうに立っていた


「……あ! 探していたんだよ、死神さん!!」


「む? ならば呼べば良いでは無いか」


「呼べって……」


「僅かだが、私達は魂が繋がっている。強く呼べば応えてやらないでも無い」


「……魂で?」


いつの間に……


「うむ。喜んで良いぞ」


「わ、わーい」


全く喜べない


「うむ」


死神さんは満足げに頷き、駅前の方へ歩き出す


「何処行くの?」


「帰るのだ」


「あ、な、なら俺も帰るから」


慌てて立ち上がり、死神さんを追う


「あひゃ……あひャャ」


「で、でくち、でくち……うっく、ううあ……あ」


「……ん?」


声の方に顔を向けると、泡を噴きながら倒れている金髪の人と、ヨタヨタはいずっている眼鏡の人が居た


「ど、どうしたんだろ、あの人達」


「む、忘れていた」


パーンと、死神さんが手を叩く。張り詰めた風船が割れた時に出る、小気味よい音だ


「ひゃ……ひはゃ…………………あ」


「で、でく、で……く…………」


二人は虚ろな目で辺りを見回し、そして動かなくなった


「だ、大丈夫ですか?」


「…………ひ、ひゃああ!?」


「あああああ!!」


奇声を上げながら、二人はフラフラと逃げていく


「何なんだろ?」


変な人達だ


「……立ち上がって逃げれる分、あいつらの方がお前より根性があるようだな」


「え?」


「だが、魂が汚すぎる。事もあろうに私の物を奪おうとしおって」


「は?」


「……ふん」


死神さんは俺を一瞥し、再び歩き出す


何故だか死神さんは、とても機嫌の悪いようだ。どうしよう……そうだ


「し、死神さん!」


「む?」


「パフェ食べに行こう!」


これしか無い!

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