死神さん二日目 前編
ピピピ、ピピピ
目覚まし時計の音がする
もう朝か、起きなくちゃと思っていても、中々体は動かない。このマッタリ時間が堪らないんだよね
ピピピ、ピピピピ
「…………む」
シュルシュルシュル、ストン
ピ…………
あれ? 音が止まった。ならまだ起きなくて良いのか……
「…………んん?」
目を開き、布団脇に置いてある時計を見ると……
「ひ、ひいぃ!?」
目覚まし時計は大鎌によって真っ二つになっていた。鎌はそのまま床へざっくり刺さっている
「うるさいぞ、全く。まだ寝足りんというのに」
恐怖の悲鳴を上げていると、押し入れから不機嫌そうな声がした
見ていると襖が開き、中から出て来たのは、不機嫌顔な女の子
女の子は俺のワイシャツを着ていて、チラチラと見える白い太ももと、第二ボタンまで外した胸元が刺激的だ
「……やっぱり夢じゃ無かったんだ」
カフェから出た後、強引に俺のアパートへついて来た死神さん。部屋に入って直ぐに、彼女は押し入れを占拠した。逆らえばきっと首が飛ぶ(そのままの意味で)
「起きたら夢だったってオチを僅かに期待したんだけどな……」
改めて彼女を見たら現実以外なにものでも無い
「…………む~」
眠いのだろうか、彼女は立ったまま目を閉じた
「…………」
極力刺激しないでおこう
俺は音を立てない様に立ち上がり、布団を畳む。そして忍び足でキッチンへと……
「くしゅん!」
「わぁ! か、風邪ですか?」
「む……水浴び」
「はい?」
「鼻が埃っぽい。水浴びをする」
「あ、ああ、風呂ね。ちょっと湧かすからまっ」
ワイシャツを脱ぎ、死神さんはトランクス一枚の姿に!
「き、きゃ~!?」
俺は慌てて目をふさぐ
「水浴び場は何処だ?」
「へ、部屋を出た台所の左側!」
「む」
死神さんは頷き、部屋を出ていく
「……驚いた」
しかし服を着ている時は余り胸がなさそうに見えたけど、脱げば中々……
「おい」
ひょっこりドアから顔だけ出す死神さん
「申し訳ございませんでした!」
「む? ……水が少ないぞ」
「はい?」
少ない?
「洗濯機の横にあるタオルを体に巻いて貰っていい?」
「む?」
「タオルって分かる? 体を拭く大きな布で……」
「馬鹿にするな、巻く理由が分からなかっただけだ。ちょっと待ってろ」
そう言ってドアを閉める死神さん
「いいぞ」
「あ、はい」
ドキドキしつつ、ドアを開けると
「……ああ、よかった」
俺が言った通り死神さんは体にバスタオルを巻いていた
それにしても真っ白で、きめ細やかな肌だ。まんじゅうみたい
「ぬ? 私の体が見たいのか? なら何故わざわざタオルを……ああ、あれがやりたかったのか。全く、面倒臭い奴だな」
そう言って死神さんは巻いてあるタオルの端を掴み、俺に持たせる
「ほら」
「…………はい?」
「回すのだろ? 確か、お代官だったか?」
「そんな事しないよ!」
何でそんなマニアックな事を知ってるんだ!?
「そ、それより水が少ないって?」
「む、ほら」
そう言って死神さんは、左奥のユニットバスに入り、トイレの便器を指差した
「…………」
「これでは顔も洗えん」
「…………」
俺は無言でトイレの横にあるカーテンを開ける
「こ、こちらがお風呂でして」
「ふむ」
「こちらはトイレとなっていて……」
「といれ? ……っ!? 」
死神さんの顔が真っ赤になった! 何か勝った気分だぜ!!
「ふ、風呂と便所が一緒とは……」
カルチャーショックを受けているようだ
「……余り気は進まぬが水は浴びたい。しかし風呂にも水が無いようだがどうすれば良いのだ?」
「えっとですね、こちらの左コックを右に捻るとお湯が出まして、右コックを捻ると水が出ます。それで、この下のこれでシャワーと蛇口が……」
俺は実践しつつ、説明をしていく
「ふむ……なるほど」
死神さんは、もう大丈夫だと自信満々に頷いた
「よかった。それじゃ何かありましたら呼んで下さい」
「うむ。ご苦労」
何か既に主と召し使いって感じなんだけど……
ユニットバスを出て、直ぐ手前の狭い台所に立つ
朝食の準備をしよう
「…………はぁ」
何か朝から疲れたよ
「…………熱っ!?」
「ん?」
「…………冷たっ!?」
「苦戦してるなぁ」
どうしようかな……
「……ほっとこう」
ガチャ
「うん?」
鍵が外れる音?
「…………あ!?」
もうそんな時間か!
「おはよー宗介!」
玄関のドアを開け、勢い良く入って来たのは美麻だ
「み、美麻!!」
「ん? おはよ、宗介」
いつもと変わらないヒマワリの様なニッコリ笑顔
「……美麻」
そうだ、もしかしたら俺は後一年の命かも知れないんだ。そしたらこの美麻の笑顔も二度と……
「どしたの?」
俺は美麻の前に立ち、首を傾げる美麻をギュッと抱きしめた
「にゃ? …………な、なぁー!?!」
「うわ!?」
美麻は暴れ出し、俺から間合いを取る
「な、なに! なに、なに!?」
「わ、悪い! ちょっと寝不足で混乱してた!」
「フ~~!」
「ほんと悪かった!」
「…………もういきなりしない?」
「しない!」
「ごめんなさいは?」
「ごめんなさい!」
「……なら許す」
「あざーす!!」
「……もう、びっくりしたよ」
「本当、ごめん」
「うん……」
静かになったアパート内に、シャーとシャワーの音が響く
「あれ? 誰かお風呂入ってるの?」
「え? ええ!?」
「わ!? な、何?」
「誰もいないっすよ、誰もいないっすよ、誰もいないっすよ!」
「………………」
あ、久々に見る美麻の疑いの眼差しだ
「じ、実はいとこが昨日来て……」
「いとこ? あ! もしかして花音ちゃん?」
「かのん? ……あ!」
しまった! 美麻も従姉妹じゃないか!!
「久しぶりだなぁ」
「いや、違うんだ!」
「違う?」
「ええと、そう! クラスメートの伊藤が来てるんだよ!!」
「………………」
あ、また疑いの眼差し
「伊藤……さん?」
「ああ! 伊藤……君」
「……ふ~ん」
「な、何?」
「そっか! じゃ美麻は先に学校行くね」
「え? あ、ああ」
信じてくれたらしい
それにしても美麻を騙す日が来るなんて……
ガチャリ
「え?」
「え?」
「む?」
台所とユニットバスを分かつドアが開き、そして時が止まった