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初日の死神さん 後編

デパート三階のカフェ。俺は抹茶フロートとチョコレートパフェを店員に頼む


俺の向かいには、チョコンと座る女の子


「………………」


「………? なんだ、ジロジロと」


「あの……死神さん?」


「なんだ?」


俺は頭がどうかしてしまったのだろうか?


「お待たせしました~」


ウェイターのお姉さんがパフェと抹茶フロートを持って来た


「パフェのお客様は?」


「あ……。そ、そっちの子です」


「はい」


お姉さんは何の躊躇も無く、パフェを女の子の前に置く


「や、やっぱり見えてるんだ」


と言う事は彼女は俺が生み出した妄想では無く、本物で……


「……何だこれは」


お姉さんが置いていったパフェを、女の子は首を傾げながら見つめている


「あ、それパフェです。スプーンでアイスとかをすくってお食べ下さいませ」


敬語になってしまう


「…………む!」


死神? さんは疑心暗鬼な表情で一口目を食べた後、黙々とパフェを食べ始めた


「お、美味しいですか?」


「……中々どうして侮りがたし」


長い髪をかきあげて一生懸命パフェを食べている姿は普通の女の子に見える。しかし何だろう、どこと無く迫力が……


「おい」


突然顔を上げた女の子。吊り目の瞳がギロリと俺を見据えた


「は、はい!」


「…………おかわりはありか?」


「ど、どうぞ、どうぞ!」


「ふむ」


気に入ったのだろうか、若干機嫌が良くなった気がする


「すみませ~ん」


「はい、ただいま~」


店員を呼ぶと、さっきのお姉さんが伝票を片手にやって来た


「えっと、パフェの……」


「すとろべり」


「え?」


「す、すとろべり!」


「ス、ストロベリーパフェを追加でお願いします」


「はい、かしこまりました」


注文を取って、厨房に向かうお姉さん。それにしても――


「あ、あの」


「何だ」


「死神さん?」


「ああ」


「…………本当に死神さんなんですか?」


「ああ」


「本当に、本当?」


「ああ」


「実は冗談とか……」


「私は余り冗談を言わないぞ。根が真面目なのだ」


死神? さんは仕方ないなと呟いた後、立ち上がって右手を軽く振った。すると、右手にさっきのデカイ鎌が!?


「どいてろ」


「は、はい?」


女の子は鎌を肩に担いで構えた


「な、なにを!?」


「別にどかなくても良いが」


「どきます、精一杯どきます!!」


慌てて椅子から立ち上がると、すかさず大鎌が振られた!


「ギャー!?」


か、掠った? 腹に掠った!?


「お前には当たらん」


つまらなそうに言い、女の子は何事も無かったかの様に椅子へ座る。その手に鎌は無く、代わりにスプーンが握られていた


「い、今のは一体……」


喉がカラカラだ。俺も座り直し、水を飲もうとコップを持つ


「えっ!?」


持った瞬間、コップは半分に割れた。そして水がこぼれる


「こ、これは?」


手の内にある半分となったコップを見ると、何かとんでもなく鋭い物で切られた様な跡があった


「お待たせしました~。あっ! 大丈夫ですか、お客様?」


「は、はい。すみません」


慌てる店員を尻目に、死神さんは落ち着いてパフェを受け取って食べ始める。そして一言


「納得出来たか?」


「…………」


納得はまだ出来ない。ただ少なくとも普通じゃ無い


「……死神さんは俺を殺しに来たって言ってましたよね?」


それって寿命なのか?


「ああ。お前の魂が欲しくてな。私とお前は相性が良いんだ、喜んで良いぞ」


「…………」


「む。……そうだな、正確に言えば私はまだ死神では無い」


「そ、そうなんですか」


「死神になる為には現世での実習と、自分が使い魔にしたい死者の魂が必要なんだ。その使い魔に私はお前を選んでやったのだ」


「つ、使い魔?」


「ああ。相棒の事だ」


「使い魔……死者……」


「む?」


そんな設定で俺は殺されなくちゃいけないのか?

 ……嫌だ


「む~」


俺が黙っていると、死神さんは不満そうに唇を尖らせて、


「嬉しくないのか?」


「嬉しくないよ! てか文句しかないよ!!」


「そ、そうなのか? 中々なれるものじゃないのだが……。しかしもう父に書類を出し、許可も取ってある。一つ願いを叶えてやるから諦めろ」


「ち、父?」


しかも書類って……


「願いは何でも良いぞ、頑張って叶えてやる。だからその後は一緒に地獄へ行こう」


地獄!?


「い、嫌だよ!」


「む、とにかくお前の死は決定だ。ほら、早く願いを言え」


「ひ、酷すぎる………うん? 願い?」


「うむ」


「何でも?」


「うむ」


「なら俺を見逃して」


「駄目だ」


「……………」


「願いを増やせとか、長生きをさせてくれとかの寿命関係も駄目だぞ。願いの期間は、今日より一年間だ」


「い、一年?」


「死にたくなさそうだから一年は殺さん、実習もあるしな。お前も一年あれば整理付けられよう」


「たった一年……」


「人の命は短い。その短い命の中で、己の願いを叶えられるのは極々一部だ。それが苦もなく叶うと言うのだぞ? 一年で十分ではないか」


「頼んで無いよ!」


俺は伝票を乱暴に掴み、椅子から立ち上が……れない!


「何で!?」


「魂縛だ。先程鎌を振るった時、お前の魂に刻んでやった」


「刻む!?」


「ああ、お前の主が誰なのかをな。主の命には逆らえまい」


「相棒じゃないのかよ!」


なんだよ主って!?


「とにかく願いを言え。地位か? 金か? それとも女か? ……むうスケベめ」


「そ、そんな。まさか本当に死神……」


俺、死ぬの? たった後一年で? そんな……


「む? ……っ!? な、泣くな! 私が悪い事をしているみたいじゃないか!」


「う、うぅ……し、死にたく無い、死にたく無いよ……」


「……むう。人間は欲の固まりだからアッサリ願いを言うと聞いていたのに」


「どんなに欲深くても、代わりに一年で死ぬって言われたら誰も願いなんか言わないよ!」


「……ぬ。そ、そうか、叶えてから言うべきだったのか」


「うぅ、ぐず……バ、バーカ、バーカ」


「むぅ……しかしもう遅い。願いが無いのなら仕方がないな。私にとってもお前にとっても残念な事だが、適当な願いを叶え、お前の魂を強制的にもらいうける」


死神さんは立ち上がり右手を振る


「残念だ」


鎌を出し、構えた死神さんは本当に残念そうに呟いた


「それではお前の願いを叶えよう」


ほ、本気だ。死神さんは本気で俺を!


「そうだな、お前スケベそうだから――」


し、死ぬ? 俺が? 嫌だ、死にたくない、まだ死にたくない!


「願いは……」


願い、俺の願い、俺の願いは!!


「父秘蔵のスケベ本を」


「満足させてくれ!」


「………………ん?」


「死んでも後悔が無いぐらい満足した一年を俺にくれよ!!」


「願いは一つだ。お前が何に満足するか知らないが、そんな曖昧な……」


「あ~もう! なら俺の彼女になってくれ!! めっちゃ好みだ、こんちくしょう!!」


もうどうにでもしろ! 殺すなら殺せ!!


「か、彼女?」


死神さんは目をパチクリとさせ、困り顔をする


「出来ないのか! なら諦めて別の所へ行けよ!」


「ぬ、ぬう、彼女か……しかしお前ら人間がする様な精行為などは出来ないと思うぞ? 私は女では無いからな」


「ええ!?」


今日一番驚いた


「お、男の方?」


「男でも無い。そもそも私は人間では無いのだ。今はただ、人間と同じ形をとってるだけなのだ」


「はぁ、そうなんですか」


よく分からないけど、ビックリし過ぎて逆に落ち着いて来たよ


「む~。……む、意外と強い……いや、かなり強い願いだな」


「え?」


「お前の魂が輝きを放っている。よし、いいだろう、その願いを叶えてやる。今日から一年、私はお前の物だ。喜べ」


「わ、わ~い……」


パチパチ、パチパチ


聞いていたのか、カフェ内に居たお客さんや店員が拍手を送ってくれた


「おめでとう!」


「良かったね、感動したよ告白」


「………あ、ありがとうございます」


正直、まだ何が何だか分からない。夢オチって可能性も捨ててない


「あいす溶けた」


「お、おかわりする?」


「む。……してやる」


「す、すみません、注文の追加を!」


何はともあれ、俺にも初めての彼女が出来たらしい。ただ


嬉しく無いです


「はい、ご注文は~」


「ぶるべり」


「パフェのブルーベリーを、お願いします」


心底、嬉しく無いです


「はい、ご注文のブルーベリーパフェです」


「……む。ぶるべり侮りがたし」


「…………はぁ」


ため息しか出ないや

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