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分身だよ死神さん 中編

「…………」 


落ち着かない。ホームルーム中、椅子の座り心地が悪くて何度も座り直したけれど、全然落ち着くことができなかった


本当にこのまま授業を受けても良いのだろうか。分身さん(仮称)を放っておいても良いのだろうか 


いっそもう帰ろうか、いやいや彼女を信頼しよう。そんな事を延々と考えている内に1時間目の授業は始まり、帰るタイミングを失ってしまった


「……まぁ、大丈夫か」


死神さんよりしっかりしてそうだしね。テストも近いし授業に集中するか


一度そうと決めたら意外と集中出来るもので、4時間目の終わりまでしっかりと勉強することが出来た


「ふぅ……さて」


雨も上がったし、早く帰って昼飯の支度でもしよう


「お疲れ〜」


「ああ、お疲れ」


声をかけてきた太郎は、ほんとに疲れた顔をしていた。また徹夜でゲームでもやったのか?


「帰り飯でも行かねーか? 給料入ったし牛丼ぐらいなら奢るぞ」


「悪い、今日は真っ直ぐ帰らなきゃならないんだ。て訳でジュースでも奢ってくれ」


「ちゃっかりしてんな〜」


苦笑いの太郎に笑みを返しつつ、帰宅の準備を済ます


「よし、帰ろう」


「あいよ」


太郎と教室を出て、来週のテストのことなんかを話しながら下駄箱へ行く。昇降口で靴を履き替えていると、急に強い不安が俺を襲った


「でよ……どうした? 顔色が悪いぞ」


「……例えば火のついたコンロに、ヤカンを置いたまま家を出てたら焦るよね」


「そ、そりゃ焦るな」


「今の状況はまさにそれだ! ごめん、先に帰る!!」  


「き、気をつけてな〜」 


ヒラヒラと手を振る太郎に軽く頷き、俺は走る

 

土手を越え、トンネルを飛び出してアスファルトの道を全力で駆け抜けた

 

何んでこんなに不安なんだ? 知らない人を部屋に入れているからか? 違う、そうじゃない。この不安の原因は……


『土曜日学校終わったら宗介の部屋にいくね? 勉強のお礼にご飯作ってあげる』


これだ! 何で忘れてた俺!!


「……早く」


少しでも美麻よりも先に帰らなくては! 


流れる汗や途切れる息を無視して、俺はがむしゃらに走った。そしてアパートへ続く最後の分岐点を曲がった時、俺は見た。買い物袋を持った美麻の姿を!


「美麻!!」


「あ、宗介。ちょうど部屋に行く所だったんだよ」


スカートのポケットから鍵を取り出し、おかえりと微笑む。ま、間に合った……


「すごい汗。走って来たの?」


「あ、ああ。美麻を待たせたら悪いと思って……荷物持つよ」


「ありがと。よーし、腕によりをかけて作るよー!」


やる気満々の美麻から荷物を受け取り階段を上る。当然だけど、美麻はしっかり着いてきた


「……あ! そう言えばしょう油切れてた! あちゃー買って来ないとないなー」


「そうなの? もう、仕方ないなぁ。普段自炊してないからだよ? 家から取ってくるね」


「あ、ありがとう」


美麻は急いで行ってくると、階段を駆け下りて行った


「……美麻」


騙してごめんね……。俺も急がなきゃな


ズボンから鍵を取り出してドアを開ける。ただいまと言いながら部屋に入ると、台所で料理を作っていたらしい分身さんと目があった


「…………」


「ただいま。……どうしました?」


分身さんは小皿と箸を持ったまま硬直している


「分身さん?」


もう一度声を掛けると、分身さんは今にも泣き出してしまいそうな顔と声で


「宗介様がご帰宅なされる前に食事を用意することが出来ませんでした。まことに申し訳ございません」


深々と頭を下げた


「え? い、いや! いいですよそんなの! むしろ作ってくれただけでも感謝感激で……て、それより!」


「は、はい!」


「作くろうとしてくれた物って、夜でも食べれます?」


「は、はい、それは大丈夫ですが……」


「ごめん、じゃあそれは夜に食べよう。実は今から友達が来て飯を作ってくれるらしいんだけど、それが……」


なんて言えば良いんだ。大家の娘で分身さんが見つかるとヤバイから隠れていてくれって? それはなんか酷くないか?


「う~ん」


「……あの、宗介様?」


「はい?」


「その方は女性の方ですか?」


「え、ええ、そうです」 


分身さんはやっぱりと頷き、死神さん様がおっしゃった通りですと顔を綻ばせた

 

「分身さん?」


「分かりました。私、お部屋から出ていけば良いのですね?」


「え? あ、はい。申し訳ないのですがそうして、頂けると……」


ピンポーン


「っ!?」


遅かった!


「お、押し入れに隠れています!」


「あ、は、はい! 冷蔵庫から氷枕と水持って行って!!」


「はい!」


ガチャ。回るドアノブ、そして開くとびら。間に合わ――


「お待たせ。…………どうしたの宗介。鳩が鉄砲豆を食べたような顔して」


「微妙に間違ってるよ……」


分身さんは、ギリギリのところで押し入れに飛び込んでくれたようだ


「お邪魔します。……あれ? 伊藤君はいないの?」


「う、うん。夜まで帰れないらしい」


「そっか。じゃあ夜はカレーでも……」 


美麻はコンロの上にのった鍋を見て、訝しげな顔をする。それはそうだろう作りかけの肉じゃがが、美味しそうに湯気をたてているのだから 


「肉じゃが?」


「つ、ツマミにね! 最近料理に凝ってて暇つぶしに作ってみたんだよ」


「でもさっき、しょう油が無いって」


「もうほとんど無かったから! ほら!!」


幸いにも、本当に残り少なかった


「……ふぅん」


あ、疑いのまなざし……


「ま、いっか。じゃあ作るから……手伝ってね、せんぱい」


「ああ、もちろん」


なんとか誤魔化せた……とは言い難いね

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