死神さんとオムライス
レストランへ入り、俺達は一番奥の端っこの席に座った
「えっとオムライスとハンバーグ、後ライスを一つお願いします」
お冷やとメニューを持って来た店員に直ぐ注文をし、水を一口飲む
「ふー。今日も暑いねー」
「ぬ……むう……」
正面に座った死神さんは、キョロキョロと辺りを伺っていて何だか落ち着かない
「どうしたの死神さん?」
「どうも落ち着かん。場所を変われ」
言われるままに俺は死神さんと場所を入れ換えた
「どう?」
「…………ふむ」
どっしりと腰を下ろす。どうやら落ち着いたみたいだ
「……鏡苦手なのかい?」
この席と、今、死神さんが座っている席の違いは、真横にある壁鏡ぐらいしか思い付かない
「む…………ふむ。言われてみればそうかも知れぬ。見ようと思い見るのは構わぬが、勝手に姿を写されるのは気にくわん」
「なるほど」
色々こだわりがある人だ
「お待たせしました」
「あ、はい」
店員はオムライスとバンバーグをテーブルに並べて、店先へと戻って行く
「さ、食べよう」
「………………」
「ん? どうしたの?」
「む~」
スプーンを持ったまま、死神さんの動きは止まってしまった。もしかして……
「食べ方分からない?」
「馬鹿にするな、と言いたい所だが分からぬ」
「え! そうなの!?」
自分で聞いておいてアレだけど、まさか本当にそうだとは思わなかった
「うむ。私は分からぬ事は素直に聞く死神なのだ」
何だか得意げな死神さん
「そっか……えっと先ず、一緒に出てきたソースかケチャップをかければ良いんじゃない?」
「ふむ?」
知らないのかな?
「ソースはこの黒っぽい奴。ケチャップは赤い奴」
「死界の沼を思い出す濁った黒と、はねた首から噴き出た血の様に艶やかな赤……迷うな」
「す、凄い迷い方だね」
「お前ならどちらだ? 聞いてやる」
「俺はケチャップかな。そっちの方が馴染み深いし」
「ふむ。ではそうしよう」
死神さんはケチャップをオムライスにかけ、再び固まった
「し、死神さん?」
「………………どこから食べるのだ?」
オムライスの上でスプーンを泳がす死神さん
「え、えっと、端っこからかな多分」
「む。……けちやぷは広げた方がいいのか?」
「え? う、う~ん。そうだね、広げた方が味が統一していい……かな」
「うむ」
死神さんは、スプーンでケチャップを広げ、
「ククク、赤く染まりおったわ」
不気味な笑みを浮かべた
「し、死神さん?」
「では食するとしよう」
そう言って死神さんはオムライスの右端にスプーンを入れ、一口食べる
「むぅ……ぬっ!?」
「ど、どうしたの?」
驚きの声をあげた死神さんに、俺は恐る恐る尋ねた
「……ふわふわ」
しかめっ面だった顔はとろけ、幸せそうに呟く
「し、死神さん?」
「これがおむらいすか。……覚えた」
「はい??」
「お前……感謝してやる。感謝しろ」
「そ、そう? あ、ありがとう?」
さっぱり意味が分からないけれど、夢中になって食べている様子を見ると、どうやら死神さんはオムライスを気に入ったらしい。それなら良いや
「死神さん、ほっぺにケチャップ付いてるよ」
「む。……拭いてくれ」
「はいはい」
死神さんのほっぺや口の廻りをティッシュで拭いて、俺もハンバーグを食べる事にした