忘れられた街(4)
背後から突然投げかけられた声は、二人にとって余りに吃驚であった。この場所の位置も、まして存在すら知っている者など大陸でも数名、片手で数える程である筈だ。
(それが何故?)
二人の思考は喫驚と混迷に染まる。
機械的に煌く洞窟の入口から、静かに歩み寄ってくる彼らの目は、こちらをジッと凝視しており、思考が読み取れない。
(もしかして、付けられたのか?決して注意は逸らしていなかったはずだが。)
「あ、あらコウさん。奇遇ですね。こんなところで出会うなんて。」
隣で、咄嗟に努めて普段通りな口調で話しかけようとするユーリアだが、言葉の内容に機転は無く態度にまで動揺が出てしまっている。
私は努めて平然を装い、一旦は剣を鞘にしまうが、柄を握ったまま手に力が入る。
「そうだ。こんなとこで合うなんて奇遇だな。どうしてここへ・・・」
「なに、二人が気になって探しに来ただけだよ。まぁ、それに聞きたいことも出来たしな。」
依然、私たちのことを凝視し続けているコウ達だが、ゆっくりと話しながらも、瞳孔が私の剣やユーリア、そして背後の石像に動いているのが分かる。
「よく、ここがお分かりになりましたんね。」
それは私たちにとって現状、一番の疑問点である。
本来ならここに彼らが居合わせることなど有り得ないはずだ。
そんな思考を知ってから知らずか、近くに立つコウが悪戯に口の端を釣り上げながら、徐ろに腕を伸ばす。
反射的に身体が警戒するが、直ぐに返答が差し込む。
「あぁ、俺たちは冒険者だからな。これを持っているんだ。」
そ言って彼は、手に握っていた白石を見せる。
それは丸型の小さい石、その中には針が付いている。冒険者なら誰しもが一度は目にしたことがあるものだ。無論、ユーリアやヘンゼルでさえ、旅の途中で何度か目にしたことがある。
しかしユーリアは訳が分からないという顔で答える。
「・・・【方位磁針】ですか。確か、それは登録の時に相手の血液、それも新鮮なモノを垂れ流す必要があるはずでしたが。コウ様に私たちの血を分けたことがあったでしょうか。」
「ユーリアの言う通りだ。しかも新鮮な血でも数秒のモノしか使えないから、意外に不便なとこもあるしな。まぁ、少し悪いと思ったけどな。ここへ来る戦闘の途中、ユリに治癒を受けたことがなかったか?」
二人は息を飲んで思い出す。
今回のパーティー編成ではユリが回復役をしていた。そして、アンデットの戦闘において、擦り傷を負ったことが碓かにあった。
ユリは溜息をつき、うなだれながら言う。
「ごめんなさいね。本当は血の採取は他の用途に使うつもりだったのよ。ほら血って、魔法的な使用の目的が沢山あったものだから、もしもの時に【ある空間】に保存していたのよ。それを、コウが乙女の秘密を暴くがごとく、一方的に貴方たちをストーキングしたのよ。」
「いや待て、その言い方では俺が完全に悪者のようではないか。」
「ほっほっほ、コウ殿、乙女の秘密を暴いて垣間見ようとは、紳士の風上にもおけぬ変態の所業ですな。」
「・・・いや。二人も黙認していなかったか?」
こんな時でも普段通りに振舞う彼らに、警戒心を少し緩めながらもヘンゼルは思考する。
(なるほど、迂闊だった。しかしまだ、彼らはここの存在意義を知らないはずだ。だったら・・・)
「ねぇ、ユーリア、その剣【真実の剣】でしょ?」
「えっ!?」
「なっ!!」
ユーリアはこれ以上見開くことが出来ない程に大きな目でユリを見つめる。
他方、ヘンゼルは口を大きく開て目が点になる、がそれも一瞬、右手に力を入れ腰を低くして叫ぶ。
「なぜお前たちがその名を知っているんだっ!!一体お前たちは何者だっ!!」
言い放つヘンゼルの形相は、いつ斬りかかるか分からない程に強ばり、警戒態勢を崩さない。
そんなヘンゼルの顔を、しっかりと優しい目で見つめながら、穏やかな口調でユリが間に入る。
「まって、私たちに争う気はないわ。まずは話し合いましょう。私たちも自身の事情を話さなければ
ならいと思うから。ことはそこまで来ているのよ。それに、この場所で貴方たちのこともある程度予想が出来ているのよ。ユーリア、そう貴方王族よね。より正確に言えば・・・・・ワルキア王国第一王女殿下かしら。」
「くっ!」
「待ちなさいっ!ユーリア、剣を抜いてはだめよ。」
瞬く隙に腕をあげ、今にも襲いかからんばかりのヘンゼンをユーリアが制する。彼女は意識をヘンゼルとコウ達の両方向に向け、慎重な姿勢で問う。
「貴方たちはそこの【剣】が【何か】を知っている、ということで間違いないですか?」
「あぁ、その【真実の剣】は、偽りを言う者には危害を与え、真実を言う者には決して害を与えることが出来ないという、宝剣の一種だろ。かなり貴重性の高いアイテムだったと思うが。」
「そう・・そこまで知っているなんて、あなた方は本当に一体・・・」
「ユーリア様!お気おつけを!もしかしたら我々を陥れる罠かもしれません。」
「いえ、ヘンゼル。彼らの人柄は既に知っているでしょう。彼らの知識に警戒するのは分かるけど、どうやらお互いに本当のことを話した方がよさそうだわ。どうやらコウ様方にも深い事情がある様に感じますし。」
「えぇ、そうしてくれると私たちも助かるわ。」
少しだけ緊張を崩し微笑みを浮かべるユーリアに手を伸ばすユリ。
その手を掴んだ後、ユーリアは数歩下がると、スカートを軽く摘み腰を下げて三人に向かって言う。
「改めて名乗らせて頂きます。私はワルキア王国第一王女ユーリアス・グレイス・フォン・ワルキアです。そしてこれなるは、私のそば仕え筆頭、ヘンリエッタ・ルー・ヘイゼルです。」
つづく!
PV2300以上、有難うございます。
処女作品であるため、現在執筆中の小説の実験的な作品でありましたが、想像以上に読んで下さる方が多いことに驚きと感謝を感じます。
時間があればまた、投稿をします。




