忘れられた街(1)
道の先は、今までの割と綺麗に並んでいた石造りとは違い、歪な大きな岩を組み合わせて、無理やり道が作られているようであった。
まるで、見た目を捨て強度だけを考えた造りだ。それを裏付けるように、道幅や天井も狭く、少し屈まなければ進めない。
「これでは魔物が現れたら大変ね。最初に犠牲になるのは間違いなく貴方よね。」
「なぁ、もしかして、まだ根に持っていることでもあるのか?だったら先頭変わってくれるか?」
「違うわ、コウは頼りになるわって言う話よ。あなたが犠・・・助けてくれるから安心という話よ。頼りにしているわよ。」
「そうですぞ、我々はコウ殿を信頼しているのですぞ。」
「そうです!私もコウ様を信じています。」
「・・・そうだな。私もそうだ。ここまで色々世話になったからな。」
別に俺を褒めなければならない伝言ゲームでもないだろうに、後ろからついてくる皆が、歩く順番に沿って言い放つ。
幸運なことに魔物の出る気配は無い。
どうやら無事に最終地点まで到着出来そうである。
ただ、少し不安なのは道がずっと下り坂であることだ。先ほどの最終到着地点でさえ、地上から見るとかなり深い位置であったはずだ。
今俺たちがいるのは更にその地下で、未だに下っている最中なのだ。
このままいけば何処までいくのかという不安が大きい。
果たして先に待つものは冥府か異界か・・・
「んっ、何か先に出口が見えてきたか?」
薄暗い中、先の方に大きな空間があるのが分かる。
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「うそっ・・・・なによこれっ・・・」
「ふむ、これは驚愕ですな。」
二人が驚いたように目を開き固まっている。
その横で、俺もあまりの光景に思考が停止していた。
どうしてこんなものが地下にあるのか。ここは本当に地下なのだろうか。
「本当に、何だよこれ。まさか地下に『街』があるとは・・・」
そう、俺たちの視界に広がるのは有り得ないぐらい巨大な空洞。東京ドーム数個分はあるだろうか。
様々な植物に飲み込まれた地面が広がり、遠く、空洞の中心辺りに小さな街が存在している。
「それに、何故地下なのに明るいんだ?」
その空洞は地下にあって、遠くの端、いや、全体が薄ら見える程度に明るい。
まるで日が昇る前の薄暗い青空のようである。
「凄いわヘンゼルっ!これが『忘れられた街』なの!」
「そうです。間違いないでしょう。」
小さなその会話に俺たちが振り向く。
ヘンゼルもユーリアも驚いた顔で前を眺めている。
「ここが目的地なのか。」
「・・・先に行きましょう。まずはあそこに見える街まで。」
ヘンゼルは神妙な表情のまま、質問には答えなかった。
しかし、ここについてある程度の情報を持っているのは間違いないだろう。
今度はヘンゼル達を先頭に俺たち三人が後ろをついて行く形であった。
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街の付近まで近づくと、建物の細部まで見えてくる。
どの建物も損害は少なく、昔のままの形を保っているようである。
ただ、流石に壁は汚れ、所々に小さなヒビや欠けた跡がある。
そして、目の前に街の入口が見えてきた。
「・・・ふむ・・・不思議ですな。どうも私、この光景を知っているような気がするのですが・・・」
爺さんが不思議な事を言う。
「あらっ、爺もそうなの。実は私も何となく似たような場所を知っている様な気がするのよ。」
ルリも同調することを言う。
そしてなにより、俺も同じような親近感を感じていた。
しかし、それがどこであるのか、感覚的なものであるため分からない。
それは、西洋の国に行き、日本家屋を見つけた時のようなかなり曖昧な感覚であった。
なんとなく知っている雰囲気がするだけ。
何かに似ているように感じがするだけ。
もしかしたら、勘違いかも知れない程度の些細な感覚である。
「きっと勘違いかも知れないわね。こんな場所はあの世界にも無かったもの。」
結局ルリは勘違いと判断したらしい。
街の入口近くに到着し、歩みを止め、当たりを見渡しているユーリアたち。
そんな二人よりも、どうも先ほどから街が気になって仕方ない俺がいる。
ふと、何気なく視線を向けた先、辛うじて道と分かる場所の両端には朽ちた石柱が門を表すように立っていた。
そして、その左側の石柱に何かの文字が掘られているのが辛うじて分かる。
あれは一体なんだろうか。
それはちょっとした好奇心であった。
俺は柱に近づき、石柱の表面のホコリをそっと払った。
「えっ?」
その字を俺は【読んで】何も考えられなくなった。
思考が追いつかない。
何を見ているか理解できない。
なぜ、こんな【もの】がここに存在するのか。
そこには、
『 リークリットの街 』
と【日本語】で掘られていた。
それは、俺の・・・俺たちの知っているゲームのスタート地点の街の名である。




