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オルガ神殿廃墟(1)

オルガ神殿とは、イリオス王国側の国境付近に存在する太古の神殿であるらしい。

その歴史は神話の時代まで遡ると言われ、謎も多い廃墟である。

どんな神を信仰し、いつごろ建てられ、そもそも何故建築されたかさえ分かっていない。

いくつかの推測はあるが、あまりに歴史が古いため推論の域を出ないのだ。

今では建物の外観と、神秘性に惹かれて訪れる観光客が多くなった場所だ。

加えて、冒険者のダンジョンとしての一面も有している。


「この様に、観光名所とダンジョンとしてのあり方、それがオルガ神殿なのです。」


晴れた青空の暖かい空気の中、木々の隙間に伸びる細い道を、一台の小馬車が進んでいく。

小刻みに揺れ、硬い木板に座る尻が少し痛い。

屋根付き荷馬車には荷袋や木箱も積まれて、俺たちは使われていない空場に腰を下ろし、ヘンゼルの説明に耳を傾けていた。


「時代も目的も、神さえ分からない神殿なんて何か怖いな。」


「はい、そうかも知れません。しかし、たとえ廃墟といえども建築技術は大変に素晴らしく、その外観の美しさから人を集めるのです。それに、国としても観光地として売り出したいらしいのです。」


「ねぇ、ダンジョンとはどういうことかしら?遺跡に魔物がでるのかしら。それなのに観光地なの?」


ルリが人差し指を顎に当てて、首を傾けてきく。


「正確には遺跡ではなく、遺跡の近くにダンジョンがあるのです。おそらく本殿の横にある施設だと考えられていて、地下にも石の通路や部屋があり、主にアンデット系の魔物が出没することから墓地ではないかと推測されています。」


墓場と聴いて、目的地の事情を知っているはずのユーリアが両手と握り、目を強く閉ざして小声で何かを呟いている。


「死霊なんて怖くない。死霊なんて怖くない。死霊なんて・・・」


そこで俺は思い出す。

アンデット系の魔物は控えめに言ってもグロテスクである。ゾンビは人間の内蔵や顔の一部が腐り落ち、スケルトンは目を赤く光らせ骨を鳴らしながら襲ってくるのだ。さらに出没範囲が墓地や廃墟といった、死者や怨念が存在しそうな場所である。

ゲーム内でもアンデット系は嫌われ、特に女性からの圧倒的な不人気を集めていた。

そんなことを思い出しながら、ふと、ユーリアは大丈夫だろうか?と思う。


「ユーリア大丈夫よ。死霊なんて所詮は魔物の一種ですもの、倒せるわよ。しょせん私の敵ではないわ、本当に怖いのは人間ですもの。」


俺と同じように呟きを聴きつけたらしいルリが彼女を見つめ、言い聞かせるように話しかける。

『本当に怖いのは人間』・・・か

その言葉には深く重みがあり、妙に説得力のあるものだった。

なんともルリらしい言葉だとも思ったが、しかし、俺は見てしまった。

ルリが何気ない顔で話をしながら、足を小刻みに踏んでいる姿を。

よし、今のは見なかったことにしよう、と俺は外に視線を移した。


「そろそろ目的地が見えてくる頃だと思います。」


皆の顔が馬車の前方、そこから見える外の景色に集中する。

馬車はもう直ぐ林道を抜けようとしているようだ。視界の先に、立ち並ぶ木々の奥に出口が見えている。

そして、林道を走り抜けると、目前には森に囲まれた、ひらけた野原が存在していた。

古い大きな屋敷が半壊したような白い建物、未だ幾つかの高い塔が健在している。

その麓には所々に大小の瓦礫が散乱している。


「あれがオルガ神殿か。ヨーロッパの大聖堂みたいだな。」


「えぇ、また随分と綺麗な建物なのね。それに、想像以上に大きくて少し驚いたわ。」


大壁都市の壁城ほど巨大では無いが、細かい建築容姿は確かに見所がある。

よく見ると、神殿より少し離れた場所に、木造の建物が存在している。

ログハウスみたいな見た目は、神殿とは対象的である。


「あの建物は何だ?誰か住んでいるのか?」


「あの小屋は観光客や冒険者のための休憩所です。さらに少数ではありますが、保全のために兵士が常駐しているらしいです。」


なるほど・・・

街から離れた森の中にある観光地なだけに、問題が起きても速やかに対処出来るよう対策がされているのだろう。

その為に物資や人の運搬が行われ、だからこそ、この馬車のように定期便も走っているのだろう。


「それで、俺たちはどうすればいいんだ?護衛をして欲しいとのことだったが、ダンジョンに潜るのか?」


「そうですね。コウ様方に手伝って頂きたいのはダンジョンを進む手助けです。私たちがまず目指す場所はダンジョンの最下層です。」


「ちょっとまって。さっきのヘンゼルの話では、最下層には何も無いって言っていなかったかしら。」


「そうです。何も無い場所、まずはそこへ向かいます。。」


ヘンゼルがその大きな青い瞳を細め、真剣に何かを考えている様子に、俺たちはただ首をかしげるしかなかった。


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