三人の爺さん(2)
イリオス王国の隣、山脈を挟んで反対側にはワルキア王国が存在する。
最近では第一王子が執政をとるその国の王都は他国にもひけを取らないほど広く立派である。
そんな王都は、中央の王城を軸として貴族区、商業区、居住区などに大分類され、さらに各区画は細かく分類される。そして王都の外側に位置している数多くの居住区の一区、多くの下級市民が行き交う道に面して『小さな酒場』があった。
その酒場の中は、お世辞にも広いとは言えないがカウンターとテーブル、幾つかの椅子が設置され数人の客が昼から酒を飲んでいた。
そんな賑わいのある酒場に、一人の爺さんが入っていく。
普段着の上から年季の入ったボロい革の鎧を身に纏い、更にそれを軽くマントで覆っている彼の姿は、見た目には冒険者というより年老いた旅人であった。
その年老いた客は店に入るなり店内を一見すると、カウンターの一番奥にある空席まで一直線に歩いて行き腰を下ろした。するとカウンター越しに様子を見ていた若い店員は、爺さんが座るのを待ってから注文を聞いた。
「いや~今日も暑いですね~。それでお客さん、何にしますか?」
「そうじゃの~それじゃあ『ジボラビール』を頼むとしようかの~」
注文を伝えた瞬間、店員の眉がピクリと動く。それは僅かで一瞬の変化であったが爺さんは見逃さなかった。
「『ジボラビール』・・・で間違いないですか?」
若い店員は、爺さんの目を直視しながら慎重に注文を確認した。
その視線を受けた爺さんはというと、一切表情が変わらず慣れた様子である。
「そうじゃ~。忙しいようなら他のものにするがの~」
「いえ、直ぐに・・・奥へどうぞ。」
店員は爺さんと共にカウンターから静かに歩き出し、店の奥にある扉の前まで来ると鍵をさして開ける。
そして爺さんがその扉に入るのを確認してから、直ぐに外から扉を閉めカウンターへ戻って行き、何事も無かったように仕事を続けた。
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扉の先には小さな空間があり、そのすぐ先のもう一枚の扉があった。
爺さんはもう一つの扉に数回ノックをし、中から鍵を開ける音が聞こえた後、ゆっくりとその扉を開け中に入っていった。
その部屋は一見して物置のようであり大棚が壁一面に設置され、その各段には多種多様なアイテムが隙間なく埋まっていた。まるで一流の道具屋のようでもある。
部屋の中央に目を向けると、物が散乱した机が一つあり、その前に一人の中柄の男が座りこんで眼鏡越しに羊皮紙を眺めていた。短髪に白髪が混ざり、顔に小さな傷が幾つかあるその初老の男は、入ってきた人物に視線を移すと大きく目を見開き、口元を緩ませる。
「おいおい、誰かと思ったら随分久しぶりだな!まさかあんたが来るとは思ってなかったよ。よぉ爺さん元気にしてたか!まぁとりあえず座れよ。」
「ふぉっふぉっふぉっ、まだ生きているぞ。他の二人もまだ健在じゃ。」
爺さんは机の前にある椅子に座ると、正面にいる男を懐かしむように見上げる。
少しだけ老けただろうか、と感じながらも、それだけの月日が経っていることを実感した。軽く周りを見渡せば、この部屋の様子も変わっていないことに安堵を覚える。
そんな爺さんの姿を眺めていた男は尋ねる。
「そうかい、さうかい。それよりどうしたんだ?わざわざ王都まで来て情報屋を訪ねてくるなんて。爺さんとっくの昔に引退したんじゃないのか?」
「その通りじゃよ。儂も暇な一日、酒と共に幸せに酔っていたかったんじゃがな。どうやら世間が黙っててくれないらしいんじゃ。周りが五月蝿すぎてゆっくりとできんのじゃ。」
その言葉に、男は爺さんがどうして自分を訪ねきたのかを察し「なるほどな」と納得する。
いや、本当は爺さんの姿をみた時から要件を察していたのだが確信がなかっただけである。
「はっはっは、相変わらず爺さんは変わらんな。その口ぶりだと最近の王国について調べているのか?」
「まぁ~そういうことじゃ。流石に最近の情勢は目に余るからの~。だからこそ王都一の情報屋と言われるここへ来んじゃよ。」
「そうかい。わかったよ。それで?何から聞きたい?」
男は手を組み机の上に乗せ、声音のトーンを落として爺さんの顔を見つめて聞く。
そう、ここは王都一と言われる情報屋であり表向きは酒場の看板をだしている。表社会から裏社会まで幅広い情報が揃い、金額によってはどんな情報でも手に入る。勿論その正体を知っているものなど一般客にはいない。つまり、この部屋を訪ねてくる時点でその者は【ただの客】ではないのである。
「そ~じゃの~・・・では、最近だされた『国内布告』についてじゃが、国家転覆罪にされている3人についてなにか知ってるかの~?」
爺さんの言葉に男は眉を潜める。国内布告など本来滅多にされるものではない。最近は少し多いといえどその数は限られる。だからこそ、その内容に関するものは重要事項である場合がほとんどだ。
「いきなりそれか。いいだろう、そうだな、まずは数日前、昼間にいきなり兵士たちが王都中を大捜索した事件があった。そいつらと同一人物である可能性が高いだろう。その3人に関しては素性が全くつかめなくてな。国家転覆などと重罪を犯したからには、それなりの跡が残るはずなんだがその形跡も一切見つからなかった。どうも転覆罪事態が怪しいときている。」
爺さんはその言葉を聴き、ここへ来て初めて驚いた顔をする。
この店の情報はかなり精度が高く、どんな事件でも小なり大なり手がかりをつかむのだ。それが今回に関しては全くないと言う。
それが起こる場合となると・・・
「裏の人間が動いているのかの~。それもかなり上の方か?」
「ああ、恐らくはそうだろうと俺達も考えてる。それに最近、軍に黒鎧の兵が配備されたが、丁度その事件があった時期と同じだ。何らかの関わりがあるだろうな。その軍団についても調べてみたがかなり情報を閉じられていてな。どうやらこの国の人間ではないらしい。さらに黒鎧ついては嘘か真か強制的に操られているって噂もある。」
「んっ?操られているとは、魔法か魔法具などによってか?」
人を操る手段は思っているより多い。一番有名な方法は魔法か魔法具であるが、他にも薬物や言葉などもあるのだ。ただ、ほとんどが法により使用を制限されているため、使用する人間に真面な者などほとんどいないが。
「そこまでは分からんな。それに大捜索していた夜に不自然な花火が上がったんだが、逃亡している3人とは別の者の仕業らしい。俺達もそれに関して王都中の花火職人や商人、火薬の流通を探ったんだが、そしたらどうだ、その花火に使われた火薬は王城関係のものらしいんだ。」
「ほぉ~、それは奇妙じゃな?」
それでは【王城関係者】が事件を起こし【王城関係者】が調べていることになる。まさに自作自演に近い。
「あぁ、しかもその犯人については王城側も全く素性がつかめてないらしいんだ。もしかしたら王城内でも何か起きているのかも知れんが。」
「そうじゃの~、それが一番怪しい線じゃの~・・・・そういえば、国王陛下の様態は改善しているのか?」
「いや、酷いらしい。部屋には医者と王族、それに一部の世話係しか入れないらしいが、かなり重体らしく病気の原因も判ってはいないらしい。勿論、医者の素性も洗ってはみたが今のところは白だな。」
その言葉を聞き終えると、爺さんはそっと天井に視線を向け難しい顔で思案する。情報を頭の中で整理するが、あまりにも不可解なことが多すぎるのだ。
どうやらあの3人と王城関係者に話を聞く必要があるな、と心の中で思い、これからの自身の行動について考えだす。
「久々に王都に顔をだしてみれば、想像以上に怪しいことだらけじゃの~真っ黒じゃわい・・・もしかしたら嵐でも来るかもしれんの~・・・」
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さて、しばらく忙しいので定期更新が止まります。(´Д`;)ヾ でも一章まではなんとか書き上げますので、許して下さい・・・・m( _ _;)m




