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隣国(1)

俺たちは数十秒間すごい速さで流されていった。

意識が朦朧とする中、遠くに白い明かりが見えてきたのに気づく。


(出口か?早くっ!早くっ!!このままでは息がもたない!)


手をつないでいる爺さんがどうなっているかは分からなかった。俺は自分のことで精一杯であった。

そして・・・・

ついに莫大な水は勢いよく坑道の出口から噴水の様に吹き出した。そう、人や魔物ごとであるが。

水と共に地面に転がる感触がした。その瞬間俺は直ぐにポケットの水を止めた。


「はぁはぁはぁ・・・・・」


ただただ、全力で空気を吸った。今は何よりも空気を吸いたい。

こんなに呼吸をすることに感謝することなど初めてである。

何度も新呼吸をした後、ようやく落ち着き始める。

肌が暖かい風を感じ、目をゆっくり開けると強い日差しが差し込む。近くは岩肌や草があり地面は水浸しであった。ちょうど強雨がとおり過ぎた時のように大きな水溜りが多数もある。

その直ぐ先には森林が広がっており緑陽が強く輝いている。

振り返ってみると、俺たちの出てきた坑道は木々の岩肌に隠れるように大きな口を開けていた。


「ふ~・・・どうやら国境を・・超えたらしいな・・・本当死ぬかと思った・・・」


今回もかなり危険だった。短期間の内に俺の人生においてここまで死ぬかと思ったことなどない。

とりあえずの危機感の去った安心感と共に、その場に仰向けになり青空を見上げる。

身体がだるく今は余り動きたくない。


「こんなに空気が美味しいと思ったのはいつ以来だろうか。」


「はぁ、はぁ、本当にどうなっているのよこれ・・・」


聞き覚えのある声の方に顔を向ければ、水溜りの一つにルリ達の姿があった。

3人はずぶ濡れになったまま地面に両膝、両手を付き荒く呼吸をしながら周りを警戒していた。

さらにその近くには黒い巨体の魔物が横たわっていた。魔物は仰向けに横たわり動かない。口からは水が垂れ出ている。

魔物を見た瞬間、俺は疲労した身体を無理やり立たせ、警戒しながら魔物に近づく。

もしも、生きていたのなら全力でここから離脱しなければならない。


「ふ~・・・・どうやら奴は死んだようですな。まさか我々のレベレで強クラスの魔物を倒せるとは。水責めにによる攻撃とは!まさかこれを狙っての事だったとは・・改めて私、コウ殿を尊敬致しますぞ。」


いつの間にか直ぐ隣に爺さんの姿があった。勿論彼もずぶ濡れであった。

しかし、まさか魔物まで倒せるとは思っていなかった。ただこれしか方法を思いつかず、しかも博打に近いものだった。魔物にしてもまさかここまでのダメージを与えられるとは夢にも思わなかった。

俺はゲーム時代、海や湖で『水』というアイテムを収集することだ出来た。アイテムはあればあるほど良いと思う欲から、大量にストックしたことがあったのだ。実際に砂漠や火山で役にたった。

しかし、以前はこのように一度に『水』を大量に開放することなど出来なかった。水はアイテムの一つとして『飲料用』や『冷却用』に一回一回使用するものであり、使用方法や回数には限りがあった。

しかし、この世界ではもっと現実的な使い方ができるようであり、ゲームとは違う摂理が働くということである。


「ま、まぁな。全ては俺の計算どおりだ。」


「・・・そうなの・・・全ては貴方の計算通りだったのね。」


少し離れたところからルリの声がした。その目はジト目で何かを訴えていた。前髪が濡れており、その髪の隙間から見える目が怖い。


「い、いやすまない。これしか方法が無かったんだ。」


「まぁ、いいわよ。私たち全員無事に坑道を抜けられたもの。どうやらまた生き残れたようだしね。それに、これでやっとまともな休息が取れそうだわ。」


確かに俺たちはここまで何度も死地をくぐり抜けてきら。常に追われ続け警戒をしていたため、本当に気を休められる時間などなかった。


「あぁ、どうやらついに安全地帯までついたらしいな。」


「ねぇ、それより、そこの魔物はなんなのかしら?知っているなら説明してもらえるかしら。」


そういえば、彼女は知らなかった。

俺たちは洞窟内の経緯を彼女らに話す。

その説明を聴きながらも彼女は怖い顔をする。


「そんな、これがユニーク個体ですって!しかも、ランクA!?」


「爺さんの話ではそうらしいな。しかし、どうして爺さんはこの魔物に詳しかったんだ?」


「あぁそれね。簡単な話よ。何時もは私と組んでいたけど、たまに情報収集やアイテム調達の為に他のパーティーと強力することも多かったらしいのよ。いつも私のいない間に行っていたらしいのだけれども、どうせ私の為に裏で色々やっていたのでしょう。」


ルリは少し不機嫌そうな顔で話しつつ、チラリと爺さんを盗み見た。


「・・・はっはっは、まさか気づかれていたとは思いませんでしたぞ。流石お嬢様。その通りです。こいつはかつてアイテム収集の上級冒険者達が戦った隠れイベントの魔物でした。確かあの時はお嬢様が新しい武器が欲しいと呟いていたのでその素材探しの一環で私も参加したのです。」


「でも不思議ね。仮に高ランクな魔物であるならほとんどの魔法や属性に耐性があり、こういった『水』なども効かないと思ったけど・・・何かあるのかしら?」


「そうですな。実際この魔物の水耐性も強いのですが、やはりほとんど全ての攻撃に耐性があったのも事実ですな。しかしこの場合・・・」


「窒息死か?」


「ほう、コウ様もそう思いますか。恐らくはそうでしょうな。『水耐性』があってもそれは一般的な魔法でしょうからな。」


「分かったわ・・・ここまで馬鹿みたいな水に溺れる状況事態、想定外だったってことね。」


その時、俺たちに身体の回りから湯気のような光りが溢れ出す。


「な、なんだこれ?」


さらに身体中が暖かく感じる。


「なっ!?魔力が視認できるまで溢れ出ているだと!!」


近くでこちらを伺っていたヘンゼルが急に大声を上げた。少し恐怖を感じているような目で俺たちを注視している。


「魔力だって?」


「あぁ、恐らくそれは魔力の具現化だ。ただ、魔力の具現化など見たことがない。本来魔力など目で見えないのが当然だからな。私も本で読んだことがあるだけだが・・・」


急に魔力が身体に溢れたってことだろうか。そんなこと・・・・


「そういえば俺たちは遥か各上の魔物を倒したんだったな。ってことは莫大な経験値が入ったってことか。それが原因か?」


「その可能性が一番高そうね。でも初期の段階でここまで高レベルな魔物を討伐した事例なんて聞いたことないのだけれども、私たちどうなるのかしらね。」


「これで体力や魔力などが大幅に上昇したのなら、これで俺達は死にづらくなったっていうことだな。今までこの世界の住人を見てきたが、かつてのジョブにおいてスキルを取得すれば恐らく、俺たちに危害を加えられる者はいないはずだ。」


「となると、問題は『転職』方法かしらね。どうしたらジョブやスキルを変更できるのかしら?」

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