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国境沿洞窟内(1)(更新済み)

坑道内は混乱を極め、いつ決壊してもおかしくないダムのように張り詰めた空気が漂う。

同じ空間に『不法脱国者』『盗賊』『兵士』の三つの勢力が入り乱れ睨み合う。

『盗賊』は今や、俺たちよりも兵士から逃げるか戦うかを吟味している。

『兵士』は盗賊と対峙しながらこちらも気にしているようである。

『不法脱国者』の俺たちは両者から狙われている立場から両勢力に警戒する。

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兵士たちを連れ、先頭をきって坑道内に突入した兵士長ワーズは驚く。


先刻、大壁都市の城内で待機していたら上から出動命令が下された。その内容は、この都市に逃げ込んだ重罪人を捕まえることであり、その生死は問わないという珍しいものであった。

国境沿いの大壁都市で起こる犯罪といえば、不法入国を試みたり、税を誤魔化しての通過などを取り締まることがメインであり、重罪人の対処など長年兵士長をしているワーズ自身でさえほとんど聞いたことがなかった。

更に異例だと感じたのは、出動先と人員が予め指示されていたことである。それはまるで相手をずっと監視していたかのように細かいものだったのだ。無論、兵士長は理由など訪ねてみたが、上は何も教えてはくれなく、一方的に指示に従うしかなかった。

そうして言われた通りに坑道内に踏み込むと、目の前には盗賊達がおり、更にその先には平民や農民らしき人影もあったのだ。その光景にワーズは最初こそ混乱するが直ぐに兵士たちを統率した。彼にとって盗賊、野党は明らかな敵であり戦うのは当たり前のことだったからだ。盗賊達の奥にいる人々が何者かは分からぬが、(もしかしたら件の重罪人かまたは連れ去られた平民達か・・・)いずれにせよ盗賊同様に捕まえるしかないと判断を下す。


「我々は国境警備兵だ!全員武器を捨て降伏しろ!」


相手が我々の戦力を見て、戦意を無くしてくれることを期待して叫んでみるが、恐らくは難しいだろうとワーズ自身察していた。


「馬鹿じゃないのか?『はい、そうですか。』って降伏する盗賊がいるかよ。どうせ盗賊は捕まれば死刑だろ。」


盗賊の中でも一際目立つ大男が叫ぶ声に仕方がないとワーズは決断する。

両者は真っ向から対峙して睨み合う状況となった。

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不法入国者達は一体何が起こっているの、自分たちはどうなるのか、どうすればよいのか、余りに移り変わる事態に混乱し立ち尽くす者がほとんどであった。


「さて、俺たちはどうするか?」


「そんなの決まってるじゃない。逃げるのよ。どちらが勝っても私たちに後はないと思わないよ。」


「なんか俺たちって、ずっと逃げてばっかしだな?」


「コウ殿、逃げるのも策略だと存じますぞ。」


3人は無駄口をたたきつつも、少しずつ両者から距離をとる。

そして、


「了解、ってことはあれだな。」


俺はポケットから道具を一つ取り出す。それを見て何をするつもりか一目で悟った二人はため息を同時につく。


「はぁ~またそれね・・・カウントはまかせるわよ。そこの二人もカウントに合わせて目を瞑ってね。私が『良い』と言うまでわね。他の人達は・・・兵士達に任せましょう。運が良ければ保護してもらえるんじゃない。とても全員と一緒は無理よ。」


俺は少女の言葉に唇を噛み締める。その様子に気づいた爺さんが静かに告げる。


「この状況で全員を助けるのは無理かと存じます。コウ殿、今は最も生存率の高い最善の手を選択下さい。」


「またか・・・あぁ、分かっている。今の俺たちに他人まで助ける余裕が無いことぐらいは・・・」


「ちょ、ちょっと待て!お前たち一体何をするつもりだ。」


俺たちの会話を聞いていたヘンゼルが慌てて質問してくる。こんな状況下で何をするつもりなのかヘンゼルには全く想像できかった。そもそも彼らを信じて良いものかどうかの不安もあった。


「いいから、俺たちを信じて合図するまで目を瞑ってるんだ!カウントするぞっ! 3・2・1・・・・」


「お願い、私たちを信じて目を瞑ってちょうだいっ!」


ヘンゼルはギリギリまで思案したが、近くにいるユーリアが既に目を瞑っているのを見て自身も腹を括って追随した。

こんな状況で目を瞑るなど正気ではないかもしれないが、どうせこのままではじり損であったことも理解していた。それならばと、藁にもすがる思いでの行動であった。


俺は騒ぎの中心に落ちるよう【逃亡アイテム】を天井に向け投げ、それは放物線を描きながら見事に集団の中心あたりに落ちる。同時に俺は数えながら目を閉じる。

空き缶を捨てた様な音が坑道内に響き渡り、両勢力が何事かと注視する中、騒動の中心に落ちた小型で強力な消火器からは黒煙が大量に噴出し、辺り一面の視界を一瞬の内に奪った。


「な、なんだこれはー!くそっ、何も見えないぞ!どうなっている!」「誰だっ!何をしたっ!」


兵士達、盗賊達から混乱した多数の声が上がる。一体誰が何をしたのか、もし敵側の攻撃なら視界の見えない状況は非常にまずかった。そのため、いつ襲われるか分からない不安が彼らに大きな恐怖を与えた。

そんな状況下、事態を把握していた俺たちの行動は早かった。


「よし、大丈夫だ!皆目を開けて逃げるぞっ!殿は俺が務める!」


「ええ、分かったわ。じゃあ私が皆を先導するわね。」


「ふむ。では私めもコウ殿と御一緒しましょう。この人数からの逃亡で単独の殿は難しいでしょうからな。」


「えぇ。お願いするわね。彼と協力してちょうだい。気お付けてね。」


コウの声を合図に目を開けたヘンゼルとユーリアは、直ぐに視界に飛び込んできた薄暗い煙に驚いた。どこかで火でも起こしたのだろうかと思うが、匂いもそれらしき気配も無い。

次に目に映ったのは、辺り一面で右往左往する大きな集団の姿だ。彼らは必死に逃げまとい、ある者はひたすらに防御を固め、あるものは地を這って出口を探していた。

しかし、最も不思議なことは、


「一体・・・何がどうなっているんだ!どうして兵士も盗賊も・・・こちらに気づいていない?」


「あら、不思議ですわね。」


ヘンゼルとユーリアがあまりに不思議な光景に目を丸くしている横で、ユリが慎重に声を出す。


「2人共、私について来て。逃げるわよ」

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