大壁都市(4)(修正済み)
早朝、日も昇らない薄暗い青空と霧の街を俺たち3人は歩いている。
そして目的地である酒場の中に入っていくと、そこには昨日の男が待っていた。彼は俺達の姿を見ると嬉しそうにし、警戒しながらも直ぐに街の外まで案内した。
街から少し離れた木々の影まで来ると、隠されるように一台の馬車が停まっており、見ためは運搬用の古くボロい屋根付きの馬車であった。
中に入ると既に老若男女6人近く乗っており、親子づれ、やつれた者、全身服で身を隠した者など多種多様である。
「この馬車には魔物避けのアイテムが埋め込まれていますので安全ですよ。中で待っていて下さい。残り二人が揃ったら出立しますので。」
案内した男が和やかに言う。
数分の後、静かに待っていると馬車内に入って来る2人の男女がいた。両者とも顔は見えづらいが一人は男で剣を帯刀して、もう一人は女であった。
好奇心から二人の方を見ていたら女性と目が合ってしまい、見つめるのも失礼だと思い直ぐに視線を外す。
「さて、これで全員揃いましたので出立します。皆さん良い旅を。」
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その馬車は城門の都市から離れていき、さらに山脈の麓にある森の、細いが辛うじて分かる草道の中を進んで行く。
無論、本来なら馬車など進む道では無いため、車体は多少揺れながら進んでいく。
「ねぇ、ヘンゼル、本当に大丈夫かしら?」
「信じるしかありません。これしか国境を超える手段がありませんので。ここさえ超えれば安全でございます。」
俺達のすぐ横に座った先ほどの男女から小声での会話が聞こえてくる。馬車の車輪の音は大きいため、聞こえていたのは俺たちぐらいであろう。
会話の端から俺達と同じ訳ありだと伺える。
「あら、貴方たちも訳ありのようね。恐らく皆同じようなものよ。お互い何らかの事情を抱えている者同士、良かったら道中強力して行きましょう。」
二人の会話から彼らが何かを心配しているのを感じ取ったのか、ルリが優しく話しかける。
「えぇ、そうですわね。ご配慮感謝いたします。私もそれが良いと思います。もし何かありましたらご協力お願い致します。ええっと、私は・・・私はユーリアと申します。そしてこちらがヘンゼルです。」
ヘンゼルと呼ばれた細く少し背の高い男は軽く会釈してくる。
「それにしても、色々な人が乗っているのね。」
緊張を解すためだろうか、ユーリアと名乗る女性の丁寧な言葉使いにルリは笑顔で話し続ける。
「お嬢さん方はご存知ないかも知れませんが、恐らくは農民たちですよ。奥の若い女性が見えるでしょうか?」
ヘンゼルと言う男が目線を送った方には、貧しい服を着た両親と若い娘の姿が見える。
「あの年頃になると領主に奉公に連れて行かれる者がいます。しかし奉公と言っても内容は酷いものです。数日から数年後にはボロ雑巾のような姿で帰ってくることも多いらしいです。だから夜逃げや亡命する者も度々現れる。恐らくあの少女も。」
そう話すヘンゼルの口調からは怒気のこもった声がした。
「そうなのか?国は黙ってそれを許しているのか?」
俺はその話しに衝撃を受ける。平和な日本で暮らしていた俺にとっては許しがたい内容であり、怒りを覚える。
「昔はそうじゃなかった。数年前に国王陛下が病気になり政治に関与できなくなった。しばらくは宰相が行政を維持して事無きを得ていたが、あるときから王子が強行的に行政を指揮するようになったらしい。その時からだ、一部の貴族での横行が目立ち始め、国境付近も規制されるなど異変が起こるようになったのは。特に一番の大事件は第一王女殿下事故死の報道です。」
それは前に酒場で聞いた時の話と同じであった。どうやらかなり有名な話であるようだ。
「事故死?そういえば酒場で聞いたことがあるわ。確か、王女の乗る馬車が谷間を抜ける途中、落石により馬車ごと潰れたとか。そして生存者はいなかった・・・だったかしら?」
「そんなっ!死んでなどいません!」
突然ユーリアが叫び、周りの視線を集めてしまう。
俺達も驚いたように彼女を見る。
「ご、御免なさい。突然大きな声を出してしまって。私、王女殿下を慕っていたので未だ信じられないのです。」
「あらこちらこそ御免なさい。私の配慮が足りなかったわ。」
ユリが申し訳なさそうに直ぐに謝るが、言葉数は減り、少し重たい空気の中を馬車は走り続ける。
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馬車はそれからも長らく走り続け、突然止まった。
直ぐに場所の背後からシーツを捲るようにして男が顔を覗かせる。
「すみません。ここからは歩きになりますので。もう直ぐ着きますし道も安全ですので心配いりませんよ。」
周りを見渡せば、俺達が居るのは山脈の中腹辺りだろうか、そこで森の中に下ろされる。少し遠くに目を向ければ鉱山の入口が見え、さらに周囲には一輪車やスコップの残骸があるのも分かる。恐らくは坑道に入るのだろう。
「ここですよ。ここを抜ければ隣国はもう直ぐですよ。ささ、誰かに見つかる前に急ぎましょう!」
案内人は急かすようにランタンを持ち薄暗い坑道に入っていく。最後尾には他の案内人が警戒するようについて来ていた。
数分後ぐらい経っただろうか、俺達は坑道内にある大な空間に出た。その先にはまだ道が続いているようである。
そして、俺達が空間の中心を通りかけた時であった。
急に前後から大きな音がした。それも多数の足音が近づいてくる音である。ついに音の正体が見えた瞬間、周りの人達の表情は凍りつき、真っ青になる。
気づけば俺達全員は大勢の男達に囲まれていたのだ。さらに悪いことに、男達は剣や斧、ナイフを手にし、鎧や同宛などの武装をしている。男達の顔には無精ひげが生えており髪も汚く皆、不気味に笑いながら此方を熱心に見つめていた。中には涎を垂れながしている者さえいる。
「やったぜ!女がいるぜ!あの小さい子とか美味そうだなっ!」
「おいおい待て、順番だろ!俺だって早く食いてぇんだっ!」
男達の下卑な笑いが響く。その光景にさらに何人かが絶句し恐怖で泣きそうになる。
彼らが何者かなど既に分かりきっている。ただ、現実だとは認めたくない。
「あっ、えっ?あ、えっ?盗賊っ!!!」
「や、や、や、やぁ・・・・・・・」
その事実は受け入れがたく、殆どが恐怖から震え出し動けなくなる。特に女性は恐怖で目を見開き絶望的な表情で今にも失神しそうである。
「あぁ~~馬鹿だなお前ら!本当に馬鹿だなぁ~!あんな上手い話しある訳ないだろ?」
盗賊達の中から、大斧を肩に担いだ一際大きな男が前に出てきて嬉しそうに叫ぶ。彼らの様子から恐らくはリーダーなのだろう。
そんな俺達が恐怖で固まる中、
「初めから騙すつもりだったのかっ!」
ヘンゼルが大声で怒り叫ぶ。
「当たり前だろっ!でなければ、こんな面倒臭いことしねーよ・・・・男は殺せ!女はババア以外は皆捕獲しろ!抵抗したら健でも切っておけ!さぁー食べつくせっ!お前らっ!!女は早いもの勝ちだ!!」
「「やったぜー!!」」
「「やっほうーーーーー!!」」
大男の言葉を合図に、一斉に坑道内に男達の喜び声が響き渡る。
俺はそれを耳にすると直ぐにポケットから傘と杖を取り出し、近くにいた少女と執事に手渡す。
それを受け取ると同時に二人は武器を盗賊たちに向け構える。
「何だお前ら?そんなものどこから出した!そっさと捨てろ、抵抗したら無ぶり殺すぞ!時間をかけてじっくりとな。」
その言葉に周りからは高い悲鳴が聞こえるが俺たちは構えを崩さなかった。
「おぃおぃ良いのか?指を潰して焼いて切り落としすぞ。そうだなぁ~今からなら抵抗しなければ殺しはしない。それに逃がしてやってもいい!だから、さっさと武器を捨てろっ!!この数で勝てるわけ無いだろっ!!!!」
盗賊が怒気込め叫び俺達を威嚇する。言葉の内容は残酷であり考えるだけで悍ましく、彼らには実行出来るだけの暴力がある。普通の者なら直ぐに武器を捨て土下座してでも赦しを乞うところだろう。
そんな空気の中、俺は声を出す。
「全てが嘘だったのか?俺達が隣国へ抜ける抜け道っていうのも?」
「いや、全てじゃないぜ!実際に俺たちは密輸もやってるからな。そのような抜け道があるのも事実だ。それがどうした。」
「そうか、それを聞けて安心したよ。ここからは俺たちで勝手に行けば良いしな。」
「そうね、私もあいつらの汚い顔をいつまでも見ているのは嫌だわ。」
「確かに不快ですな。せめて風呂ぐらい入って出直して来れば良いでしょうに、まるでゴミクズみたいですな。」
俺は遠慮していたが、ルリと爺さんは容赦無く火に油を注いでいく。
そのせいか、3人の軽口を聞いていた盗賊の顔が怒りに染まる。
「な、なんどとキサマら・・・・殺してやる・・・拷問に掛けて・・・いたぶって殺す!泣け叫んでもやめねぇー・・・そこの女は全員で回したあと、少しずつ時間をかけて、ゆっくり・・・・ゆっくり殺してやるっ!!!」
俺は直ぐに逃走用の魔法をその場で放つ。瞬間、坑道内に閃光が煌き、一瞬相手の視界が奪われる。
「クソっ!小癪な真似しやがって!!」
俺が放った閃光の中を執事が突風の様に颯爽し、盗賊達の腹に的確にステッキの先端をめり込ませていく。
「ぐふっ・・・クソがぁぁぁーーー!!!お前らっ!一斉にやれ!こいつらを殺せ!殺した奴には俺の女を一晩貸してやる!!!」
それを聞いた盗賊達は喜びの雄叫びを上げ、我先にと一斉に俺達に襲いかかって来る。盗賊は集団で行動し、坑道など狭い空間にいることで職業による上方修正をうける。一般的な職業的立場は下級だが、無職である今の俺たちよりもステータスが上なのは確かだろう。
「ユーリア様っ、後ろへ!」
少し騒然とする場でヘンゼルが剣を抜き放ち構える。彼に盗賊の一人が早速襲いかかるが、彼は流れるような動きで攻撃をいなし、一瞬の内にねじ伏せていた。
「へ~驚いたわ、あの人やるわね。」
その動きは余りに意外であり驚きだ。剣を中段に構えた姿も様になっている。一流冒険者にはとても及ばないものの、一般人としては恐らくだが強い部類に入るであろう。あの様子なら二人は自分達の身は自分達で守れるだろうと思う。
盗賊達と戦いながらも、俺達は周りの動向にも注視する。俺達の背後には戦えない人もいるのだ。全員を守りながら応戦するのは難しい。俺達だけなら十分なんとかなるだろうが、出来れば彼らを見捨てたくは無い。
さてどうすれば良いか。いくつか使える道具もあるが・・・
その時、坑道の入口の方から更に大多数の人影が現れた。
一瞬だけ盗賊達の増援かと思い焦るが、その姿は皆、同じ鎧と武器を装備している。そしてその恰好は俺達にとって近頃よく見る馴染み深い姿であった。
俺はその姿に思わず呟く。
「おいおい、正気か?この忙しい時にまさか兵士達かよ・・・」
それは王都や大壁都市で見かけた兵士であった。
「なっ!!兵士だとっ!!なんで奴らがこんなところまで来ている!見張りはどうしたっ!!それに何だあの数は!!」
「お前たち盗賊だな!!全員武器を捨て降伏しろっ!でなければ武力行使する!!」
現場は騒然となった。坑道内には俺たち【密入国者】に【盗賊達】、さらには【兵士達】がひしめきあい、お互い睨みを効かせる三竦み状態となってしまった。
そんな状況を一瞥したルリが静かに呟く。
「これがゲームだったらクソゲーね。序盤から難易度の高いクエスト立てすぎよ。運営はどこかしら?」
「・・・あの王子じゃないのか?」




