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爺さんの旅(1)(更新済み)

年老いた爺さんが一人、とある谷の近くを馬を進めながら見わたしていた。

瞳に映る景色には遠く茶色の大地が広がっている。所々に小草が生えているだけの岩の様な大地には巨大な亀裂が幾つも存在している。

その暖かく乾いた土地をしばらく進むと、視界の先に小さな村が見えてくる。近づいてみると20戸近くの小さな農村であった。農夫達はオアシスの側の畑で仕事をしており、中には小さな子供も数人見える。


(こんなところに村か・・・はて・・・)


爺さんは一通り村を眺めると一人の少年に声をかけた。


「ちょっとそこの少年、悪いんじゃが道を訪ねても良いか?」


少年は爺さんを不思議そうに見て質問してくる。


「どうしたんだ爺さん?こんな田舎には何もないぜ。」


確かに、こんな殺風景な場所には店も無く見るべき物も無いだろう。しいて上げるなら何も無いこの風景ぐらいが見どころか。


「あぁ、ちょっと観光のついでじゃ。それより噂で聞いたんじゃが、この辺りで王女殿下の事故があったと思うんじゃが・・・どの辺りか分かるかのう?ただの興味本位で見たかったのじゃが。」


「王女・・・?そういえば、前に沢山の兵士が来ていたことがあったけど、それかな。」


「おそらくそれじゃ。場所を教えてもらってもよいかのう。」


少年はやれやれという風に面倒臭そうにしながらも手振りで場所を教える。

そして少しだけ考え込んでから思いついた様に、にやけて提案してくる。


「そうだ爺さん!俺が詳しい道をついて行って教えてあげるよ。その代わり駄賃くれよ。」


爺さんはそれを笑いながら承諾した。


------------------------------------------------------------------------------------------


爺さんは少年を馬の前方に乗せ、二人は近くの谷間を進んでいく。

さらに小さな道から谷底を進んで行くと、両側に高くそびえ立つ岩の絶壁が続いていた。その谷底は影に覆われており、谷間に出来た道は遠くまで続いていた。その影の中を少し進んだところで少年が声を発する。


「ここだよ爺さん。たしかこの辺りに大勢の兵士が集まっていたからな。間違い無いと思うよ。」


見渡す限り、そこには既に何も無かった。爺さんは馬から降りるとゆっくり辺りを歩き回る。そして、ある地点で立ち止まる。


「ほう・・これは・・・」


爺さんの足元には小さな金属片が地面に刺さっていた。一見ただのゴミのように見えるが実はそうではない。見る人が見れば分かるそれは間違いなくミスリル金属の破片である。


「ここで間違いないようじゃの。確か噂では、ここを走っていた馬車の上に岩石が急に崩れ落ちてきたらしいが・・・ふむ。」


「どうしたんだ爺さん。何か分かったのか?」


後ろから少年が焦りを切らした様に問う。


「いや、何も分からんよ。ただの観光じゃからのう。」


「こんなところに?」


少年の不思議そうな声が背中越しに聞こえた。そして少年が静かになった次の瞬間、爺さんは振り向きざまに少年が突き刺す短剣の先を、隠し持っていた剣の鞘で受け止めていた。


「何っ!?」


近くに見える少年の顔は驚きの表情で固まっていた。まさかこの至近距離で、しかも背後からの攻撃を防がれるとは想像すらしていなかったのであろう。


「ほっほっほ、どうしたんじゃ?反抗期かのう?」


「くそっ!」


爺さんの兆発に対し、少年は反射的に二つの短刀を両手に握り締めると、目にも止まらぬ連撃を繰り出す。

それは正しく電光石火と言う言葉の体現、舞うコマのような動きである。その目にも止まらぬ攻撃は一撃一撃が急所を狙う必殺の攻撃であり、間違いなく一流のものである。

その攻撃をくらって生きている人間など普通ならいないはずだ。ただ、普通ならばだが・・・

そして再び少年は目の前の状況に表情が凍り、自身の目を疑う。

少年の激しく見事な剣戟は、爺さんの合わせるような剣捌きにより全ていなされたのだった。それも最小限の動きで。どこから見ても明らかにレベルが違うのだ。


「ふむ、この技・・・お主、暗殺者じゃな。」


その一言に少年が咄嗟に距離を取った。


「・・・・」


「沈黙とは正解と受け取っていいのかのう。お主、初対面の時からスキの出し方がワザと臭かったぞ。しかしこんなところに暗殺者とは、王女殿下の事故には裏があるという証拠かのう。」


「・・・お前、一般人ではないな。何者だ。」


少年の細く睨み付けるような視線と、低くドスの効いた声は先ほどまでとは別人であった。


「おっと・・・分かっておっとが、やっと本性を現したかのう。儂はただの見た目通りの年寄りじゃよ。ただ少しだけ剣術が得意のな。」


「ぬかせっ!」


少年は怒ったような顔と共に手を上げて合図を送る。すると直ぐに頭上から炎玉が数弾飛んでくる。

それは谷の上に潜んでいた仲間の魔法攻撃である。

その攻撃に対し爺さんはただ静かに立ち止まり、目を瞑る。


「驚いたかっ。流石にこの数の魔法攻撃はかわせないだろう?」


少年は次こそ爺さんが丸焦げになって焼死する姿を想像する。上級冒険者でも全てを防ぐことは難しいだろう。まして相手は老人、物理攻撃を防がれたことには驚いたが所詮はそこまでである。


炎玉は尚も爺さんの間近に近づくが、未だ彼はじっとしているだけである。

やがてその攻撃が爺さんに直撃するかと思われた瞬間、彼は目を見開き、魔法の攻撃そのものを剣で切り裂いてみせたのだ。一度の斬撃で数弾を切り取る軌道、その内でも最小の回数で済む斬撃軌道に沿って切り裂いたのだ。


「うそだろっ!いや、まさかその剣、ミスリルか!!」


それしか考えられなかった。

ミスリル鉱は希少で高額な金属であり特性は軽く丈夫であることだ。しかし、もっとも特質すべきは魔攻魔防での使用である。ミスリルは魔法伝導率が非常に高い特性をもつ。そして、防御にあったは敵の魔法攻撃を吸収し活用できるというメリットがあった。従ってミスリル鉱は剣士にとっても魔術師にとっても喉から手がでるほど需要の高いものであるのだ。その希少性と需要の多さがミスリル鉱が高額で取引される要因であった。

いずれにせよ、一介の剣士風情がもっているような品物でないことも確かである。


少年は状況を素早く理解し、手で合図を送ると再び接近攻撃を仕掛ける。

それは先ほどの単体攻撃と異なって、数人の息のあった連携攻撃である。攻撃を加えているのは先ほど頭上から魔法を放った魔術師達である。彼らは落下対策の魔法を用いて下降し、連携攻撃に加わったのだ。


「ほっほっほ、これで一人一人相手をする手間が省けるのう。」


爺さんは落ち着いて周りを見渡した後、恐ろしいことに数人の連携攻撃さえいなす。しかもただいなすだけでなく暗殺者達が圧され始めているのだ。


「はっ!!!」


爺さんは掛け声と共に次々と攻撃を繰り出した。その攻撃は不思議なほど魔術師や少年の身体に吸い込まれるように命中する。その攻撃全てが急所を的確に突いた当身であった。気づけば地面には5人ほどの人影が倒れこみ全く動かなくなっていた。

そして静かになった谷間の日陰には、今はただ涼しい風が吹き抜ける音だけが響いていた。


「さて・・・儂のところは大当たりだったし、いろいろ分かったことも多いのう。それに、こやつらからも情報が手に入りそうじゃ。やれやれ、老体にはちときつい旅じゃわい。」


爺さんは大きなため息を一つすると、ゆっくりと地面の暗殺者達を徹底して縛りあげていったのだった・・・

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