暗い青春
俺はどこにでもいる普通の高校生でいたかった。親友は3人ぐらい、成績は中の下、部活は週3の文化部、そんな青春を望んでいた。
高校の新一年生として、春に田舎から都内に引越した俺に知り合いはいなかった。入学式を終えた教室の中では、直ぐに同じ中学からのグループが形成された。それでも、俺と同じ田舎から来ていた男子が1人だけおり、友達となった。しかし、それも1ヶ月で終わった・・・
ある日の昼休み前、その日は体育の授業があった。教室に戻ると何やら騒がしかった。どうしたのか?そば耳を立てると、どうやら1人の女子生徒替えの下着が無くなっていたらしい。誰かが先生を呼びに行くと言い出て行く。そして被害者女子とその取り巻きは、とんでもないことを言い出した。
「ちょっと、雅美大丈夫・・・こんなことするなんて最低!男って本当最低!」
「そうよ!犯人、絶対突き止めてやるんだから!」
女子が必死に騒ぎ立てたことで、現場の緊迫感が高まっていた。そこで、ある女子が言った。
「でも、休み時間にあったのは確かでしょ?私たちが体育を受けているときって全員体育館にいたわよね・・・」
その言葉で俺の顔が青くなる。男子の誰かがそれに答える。
「そうだよ!俺たちは皆、体育館にいたんだから無理だよ!ただ・・高橋だけは休んでいたけど・・・」
その発言で全員の視線を浴びる。さらに運が悪いことに俺は田舎の出身だった。この学校に俺を知っている人間はいない。つまり、俺がどういう人間でどのように生きてきたか誰もしらないのだ。彼らにとってはよく知らない不安材料でしかないのである。しかし、俺は俺自身が無実であることを知っている。ただ、それを証明することは出来なかった。
「うわ、最低―――!キモッ!」
何気ない女子が俺を犯人だと決めつける。その一言が発端となり何故か皆、俺を睨む。
「なぁ、お前がやったのか?」
ここで「はい」と言う犯人はいない。そして俺はやってない。だから俺は正直に答えた。
「え?い、いや俺はやってない。お、俺は腕を怪我していたから、途中に保健室で包帯を取り替えていただけだよ。」
その言葉に女子が小さい声で、「嘘っぽいわ。」「あいつ怪しい。」と言うのが聞こえた。知らない土地、知らない人間関係は俺にとっては不利でしか無かった。
その後、先生が来て場を収めたが疑念が残った。だからだろう、俺は女子に下着泥棒のクソ野郎のレッテルを貼られ、男子から距離を置かれた。
学校生活は苦痛を極めた。女子には無視をされ授業中には背中にゴミを投げられ、何度かカバンの中身が消えることもあった。さらに、被害にあった女子は男子バスケ部の男と付き合っていたらしく、俺は男子バスケの奴らに度々校舎の影で足をかけられたり、階段で背中を押されたりした。ひどい時には人前を通る瞬間に腹を殴られたと時もあった。
そんなことが半年近く続いた。
それでも俺が学校を中退しなかったのは祖父母のためである。俺は小さい頃から両親がいなく、祖父母が面倒をみてくれた。そんな祖父母に迷惑をかけたくないし、将来は恩返しもしたいと考えている。そのためにはある程度の学歴が必要であった。
そんな境遇の俺にとって、唯一の心の癒しはゲームであった。
それは今話題のネットゲームであった。ゲームでは互いの素性も知らず、純粋にゲーム内の自分を見てくれる。それは現実と隔離された、どこまでも自由な世界であった。学校という閉鎖的な場所とは正反対であり、世界中の参加者と、何時でも自由に冒険できる開放感、それに俺は心の感情をぶつける様にのめり込んだ。
そして今夜、俺は超難易度イベントをクリした。画面には俺の操作キャラクターとそれに付き従うNPC二人の姿が写っている。さらにクリアした直後の獲得アイテムなどボーナス画面が流れている。俺は画面のOKボタンを流れ作業的に連打していき、ある画面で止まった。
それは普段見ないメッセージであった。
『 一から人生やり直しますか。 』
「イエス」「ノー」選択肢を見つめて考えた。本来このゲームはアップデートが続き、終着点は存在しないと考えられていた。それに、最初からやり直す利点が分からない。しかしそこで、下の方の注意書に気づく。
『 リセットプレーヤーはアイテムとポイントの引き継ぎが可能です。 』
その一言に俺の心は揺らぐ。既にこのゲームはやり尽くされ、新鮮味が無くなってきたのも事実だ。アップデート更新が続いているが、長く上級者を続けると、どうしても新規プレヤーと関わる機会が減る。なにより、新しくスキルを開放出来るのであれば、効率の良いアバターを作れる可能性もある。迷ったあげく『イエス』をクリックする。そして、自身の初期アバターに折角なので初期課金をしまくった。その途中、俺は急激な睡魔に襲われた。そして、そのまま気を失った。
・・・大丈夫です・・・どうして、彼が画面の前で寝てしまったのか?どうして疑われたのか?両親の事故とは?彼の飼っている犬の名前は?・・・・全て伏線回収するので無問題です。彼が異世界?に行った『理由』も回収業者が拾いますので・・・・(´Д`;)