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龍使い  作者: しろうさぎ
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006 準備期間

「一応旅の予定を聞いておきたいんだが、この街にはどれだけ滞在するつもりなんだ?」


 すぐに次の場所へ移動するのか、それとも数日滞在するのか。

 それによって組み立てる訓練方法も変わってくる。


「それが……旅の目的が人探しでして、滞在期間は決まっていないんです。この街にいるかどうかも分かないのですが……」


 困ったように笑って真澄が言う。


「ただ、これだけ大きな街ですからね。見つからないとしても、納得いくまで探すにはそれなりに時間がかかると思います」


 どうやら期間的にはそれなりに余裕がありそうだ。

 午前中を訓練に充て、午後から夜までを探索時間とするのが妥当だろうか。

 目的が人探しだとすると、訓練だけに時間を取られるわけにもいかないだろう。

 もしどうしても人探しの方を急ぎたいと言うなら、訓練時間を短くすることも可能だが、それでは短期間で実力を上げるというのは難しくなる。

 このあたりの調整は難しいが、臨機応変にやっていくしかないか。


「その人物の特徴はわかっているのか?」

「…………」


 申し訳なさそうに無言でかぶりを振る真澄に、思わず目を見張る。

 問いかけの形を取りはしたが、実際のところ、探すべき相手の特徴を把握していないとは思っていなかった。 

 そういう形をとって情報を得、何か手助けできないかと思ってのことだったのだ。


「ちょっと待て。まさか特徴もわからず探そうってのか? ……さすがに、名前はくらいは知ってるよな?」


 最低限このくらいは、と思った質問にも真澄の表情は沈んだままだった。

 つまり、それさえも分からない、と……。

 そんな情報すらない状況で、どうやって探し出すつもりでいるのかと頭を抱えたくなる。


「で、でも、会えばわかります。詳しいことは説明できませんが、私なら、会いさえすれば判別できるんです」 


 穂波が呆れたのが伝わったのか、真澄は慌てて言い募る。

 何やら秘密があるらしいが、それが本当だとしても街の全員に会って回るつもりだろうか。

 せめて性別だけでもわかれば対象は人口の半分程度には絞られるのだろうが、名前も特徴もわからないのに性別だけわかるってのもおかしな話だ。

 これは長期戦になりそうだな、と腹をくくる。


 短時間での強化を考えなくて済むのが唯一の救いだった。


 会話を続けながら、真澄の体格を確認する。

 あくまでも、ひっそりと。

 目の動き等で悟られぬよう、視線は真澄の全体に固定しておく。

 相手にばれないように気を付けたのは、いくら同性とは言えども、じろじろと体を見られ、評価されるのは不快だろうと思ったからだ。


 細い体だ。基礎体力は期待できないかもしれない。

 まずそこから改善していくべきだろう。


 とりあえず、これからの予定を先に決めておこう。


「訓練も人探しも毎日行ったほうがいいし、しばらくは午前を訓練に、午後を人探しにあてようと思うんだが、どうだろう。それで見つからなければ、午前と午後を逆にして、できるだけ多くの時間帯で探せるように工夫すれば見つかる確率も上がるんじゃないか?」


 二人とも特に異論はないとのことなので続ける。


「あ、外出するときは俺も護衛として同行するつもりだ。ただ、それだと都合が悪いと言うなら、二人での外出は日が出ているうちの人目のある場所に限るなら目を瞑る。それ以外の時間帯や、人目のない場所へ行く場合は絶対について行くからそのつもりでいてほしい」


 これについては少し悩んだようだが最終的に承諾は得られた。

 実際問題安全の確保というのは重要なものだ。


 そんなことをなんやかんやと話し合っていたらすでに結構な時間になっていた。

 今から準備し、移動した後に訓練を……と言うには中途半端な時間だ。

 さてどうするかと考える。

 広々とした部屋。広々とした空間。

 つまり、ある程度動ける、安全な場所が今ここにある。


「とりあえず動きやすい服装に着替えて、しっかりと柔軟運動した後、腹筋50回、背筋50回、腕立ては……まぁ、最初だし30回でいいか」


 良い笑顔を浮かべ、穂波は爽やかに二人に言い渡す。


「あ、夜中、寝る前にもやるようにな。慣れてきたら回数を増やすぞ。大丈夫、温泉で疲れもとれるし余裕だ」


 あまりにも良い笑顔の穂波に、真澄は遠い目をし、風羅は頬を引き攣らせていた。

 

  




 昼食後、真澄と風羅の二人だけで人探しに出かけた。

 何らかの事情を抱えた人探しのようだし、やはり部外者がいないほうが都合がいいのだろう。

 事情は分かるものの、当然ながら最初に交わした約束は守ってもらう。

 二人が出かけるときも再度安全確保の確認をし、見送った後は穂波も自由行動として街に出る。

 ある程度の広さと人目のある、運動に適した広場がないかを探すためだ。


 出発前に宿から借りた地図で候補は4か所見つけてある。

 さすが観光地というべきか、季節ごとの行事や祭りを行う場所がいくつか準備されているのだ。

 それらは普段は公園のような形で一般に開放されている。これを利用しない手はないだろう。

 ひとつひとつ自分の足で回り、作り、周囲の環境、動きやすさ等を調べていく。

 1番目の場所は神を祀る場所のようで、神聖な場所ということもあり除外した。

 2番目に見たのは開放された広場で、使い勝手はよさそうだったが中心地から遠く、訪れる人も少なめだ。タイミングによっては人がいなくなる時もあるかもしれない。

 剣を持っての訓練や模擬戦を行うのには丁度良いが、今の段階でここである必要はない。

 3番目の場所は子供が多く、家族連れに人気がある場所のようだった。

 4番目は2番目よりはやや手狭の広場だが、観光区より居住区の近くにあり、地元の人間の運動場代わりになっているようだ。広場の利用者もそれなりで、利用者目当てだろう屋台も数店ある。

 これならば悪くないかもしれないな。


 そんなふうに色々と見て歩いているうちに、便利なものを見つけた。

 小馬車と呼ばれる、観光地向けの小型の貸し出し馬車だ。

 作り自体も小さくせいぜいが2人乗り。

 引く馬も小さく改良されており街中での小回りを優先している。

 その分乗り心地がいくらか犠牲になるが、長距離を歩き続けるよりはましだろう。

 借りるときに御者の有無を選べるのも都合がいい。

 そして何より、4番目の広場に近かった。


(明日には多分、必要になるだろうし……ここにするか)


 下調べが終わり、宿に戻る。

 その後約束通り日が落ちるまでに戻ってきた二人と合流し、夕食を取りながらお互いの今日の動きを簡単に報告しあう。

 人探しの方には進展はなかったらしい。

 初日ということもあるし、何より前提条件が悪いのだ、これは当然と言えよう。

 予想通りの結果のため、二人にも大きな落胆の色はない。

 宿の格に会う豪勢な夕食終えると、雑談を交わしながら部屋へ向かう。


「寝る前の運動忘れるなよ」


 そう伝えると、悲鳴を上げながらも笑顔で了承の返答があった。


(明日の夜もこの笑顔を見れればいいのだが)


 今はまだしも、明日の訓練を超えたなら、二人の態度も変わるだろう。

 笑顔を見せる余力は残らないだろうな。

 それを少し寂しく思いながらも、穂波に予定を変えるつもりはなかった。

時間がかかったのに短くてすみません。

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