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龍使い  作者: しろうさぎ
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012 予定は未定


 


 それはほんのわずかな時間での出来事だった。


 穂波が意識するよりも、体が動く方が早かった。

 気付いた時には、テーブルに飛び乗っていたのだ。






入り口付近で、店員の女性が見るからに厄介そうな男に絡まれていた。

 そこまでは予定通り。

 けれどまだ、足りない、と穂波は冷静に判断する。

 ただ腕を掴まれているだけではだめなのだ。


 せめて―――そう、せめて店員が怪我のひとつでもしてくれて、男を叩きのめすのに足る理由ができるまでは。


 穂波から見れば問題の男共は、戦力として全く驚異とならない。魔力適正を持つ者すらいないのだ。

 数は多くても雑魚は雑魚。いや、雑魚だからこそ集団を作るのか。

 民間人相手ならまだしも、この程度なら穂波一人で苦も無く殲滅できる。

 ―――うぬぼれではなく、冷静な判断としてそう結論を出す。


 実戦経験に乏しい真澄達の練習相手とするならばちょうどいい相手だ。

 攻撃する正当な理由が出来さえすれば、真澄達も躊躇なく実戦を積むことができるだろう。

 だからこのまま様子を見ているつもりだった、のたが……

 

 予定は未定とはよく言ったものだと、思考の端で思う。

 男が下卑た笑みを浮かべながら店員の体へ手を伸ばすのを見た時、穂波の頭の中でプツンと何かが切れた。

 予定とか、計算とか。そんなものは全部―――どこかへ消えた。






 男の所まで行くには、店内は混みすぎていた。

 これだけの人ごみを掻き分けて走るのは不可能だ。普通に歩くより遅くなる。

 ならばどうすればいいか。

 

 この店内で人がいない場所。そんなものは料理や酒の乗ったテーブルしかない。

 そこしかないなら、その上を走ればいい。


 当然衝撃でテーブルからいろいろ飛んだが、そんなものは気にしてる余裕も無かった。

 派手な音を後ろに聞きながら前へ進む。


 最後のテーブルにたどり着いた時、大きく跳躍した。

 距離を詰めるには飛んだ方が早かったし、肩を狙うため高さが欲しかった。


 攻撃の的とするなら腹など広い箇所のほうがやりやすいが、そうするには店員の立ち位置が悪かった。

 店内にいる穂波から見れば、店員が男を隠すような位置取りだったのだ。


 だが肩なら、女性である店員より男のほうが上にあるため、この位置でも攻撃はできる。

 尚且つ男は右腕で店員を引き寄せていたから、左側は比較的広く、狙いやすかった。

 穂波の全体重を乗せた蹴りが男の左肩に奇麗に入った。


 倒れる男に腕を引かれ、店員は反転すように体勢を崩す。


 すかさず穂波は男の右腕を、左足で蹴り上げる。衝撃と痛みに男の腕が店員から外れる。

 男の腕から解放されたとはいえ、一度大きく崩れた体勢を戻すのは難しい。

 当然店員も勢いを殺せずそのまま倒れかけた。


 男が床に叩きつけられるように倒れた直後、穂波は着地の勢いを利用し素早く身を屈め、床すれすれだった店員を支える。

 そして屈めた姿勢を直すと同時に、店員を立たせ、後ろへ逃がした。 


 ここまですべて、何も考えずに、反射的におこなってしまった。

 後先のことなど考える暇もないほど、わずかな時間だったのだ。


(おかしいな、こんな予定ではなかったんだが)


 溜息が出そうになるのを堪えて、足元の男を見る。

 肩の骨でも砕けたのか、足元で男が情けない悲鳴を上げていたが、同情の念はない。


(……まぁ、いいか)


 男が店員の胸に手を伸ばした時点で、強引に介入するための理由は作れただろう。

 多分。


 実は一瞬で頭に血が上ってしまい、細かいところまで確認していない。

 もしかしたら実際は触れる前だったかもしれないが、そんなものは知ったことではない。

 本人の意志に反する他者の強制的な性的行為は、穂波が心底嫌悪する行動のひとつだ。


 男は間違いなく触ろうとしていた。

 未遂かどうかなど誤差の範囲だ。

 その行動をとろうとしたこと自体が問題なのだから。


 となれば、この後の行動など一択しかないだろう。


 仲間が攻撃されたことに激高し、外の男達が店内へ雪崩込もうとする。

 意味不明な声を上げながら殴りかかってきた男を蹴り飛ばし、足元の男の胸倉をつかみ持ち上げると、別の男に投げつけ後退させる。


「すまん。突っ走ったが、結果的には予定を外れてはいない。出てこい。実戦練習開始だ、好きにしてみろ」


 軽く後ろを振り返り、呆気に取られている連れへと声をかけた。


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