000 秘された文献より
大海に浮かぶ、大きな島があった。
単純に島と呼ぶにはいささか大きく、けれど大陸と呼ぶには小さすぎる……それはそんな島だった。
今はいくつもの国に分かれたこの島が、遠い過去にたったひとつの国であったことを知る者は少ない。
その国は、すべての民が貧困にあえぐことなく、平和で豊かだった。
まさに理想の国と呼べただろう。
遠い日に栄えた、その国の名はグラディス。
そして、その国を治める歴代の王達の名もまた同じく。
―――グラディスとは、光満つる楽園という意味を持つ誇り高い言葉。
その国ほど、その歴代の王達ほど、グラディスの名にふさわしいものは他になかった。
神々の祝福を受けし王は、不思議な力を操り、国を守っていた。
どんな人災も天災も、かの国とは長い間無縁の存在だった。
その繁栄は永遠に続くと思われていた。
だが……。
……思いがけない不運が『グラディス』を襲った。
王が天寿を全うし眠りについた後、次の王が即位する―――そのわずかな隙間。
『神の祝福を受けし王』が不在となる期間に発生した地震。
迫りくる、建物を超える大津波。
普段なら王の力で防げていたそれは、神の祝福が途絶えた隙間に滑り込んできた。
大いなる自然の力を前にして、人は為すすべもなくその命を波に消した。
それは、即位する予定の王太子を含めた王族ですら例外ではなく―――。
奇跡的に生き残った人々は統率者を亡くし、途方に暮れた。
そして、世界は混沌を迎える。
あれから700年たった今でも変わることなく争いは尽きずにいる。
国の分裂により次第に言葉も変わっていき、グラディスの意味さえ、今では知られていない。
そう、ほんの一握りの者達を抜かしては……。