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プロローグ

 ある時、トカゲは言った。

「ケイニャや、今から話すことは、とっても大事なことだから良く聞きなさい」

 ロッキングチェアを前後に揺らす爬虫類の膝の上で、非獣人の幼子が瞳をキラキラさせてトカゲを見上げた。

「なぁにぃ、おばあさん?」

「ケイニャが、この星の子供でないのは知っているね?」

「うん。しってゆよ」

 トカゲとは異なる肌の質感。顔つきどころか歯並びまでが近所の子供たちと違うことを幼子は知っていた。トカゲはそんなケイニャを見て、絵本でも読み聞かせるかのように静かに語る。

「あなたはね、遠い星から来た子供なのよ」

「ケイニャは、とおいお星さまぁの子なのぉ?」

 幼子は絵本の物語に出てくるお姫さまの姿を自分と重ね合わせると、嬉しそうに顔をホクホクさせた。

「そうよ。そして、あなたには2人の姉妹がいるの」

「しまい?」

 小首を傾げてトカゲの膝へ凭れかかる幼子。

「そうよ。あなたは三つ子のうちのひとりなの。まだ産まれたての赤ん坊だった頃、この星に不時着した宇宙船の中で、ケイニャたちが救難カプセルに入れられていたのよ」

 幼子は意味が分からないとばかりに、サラサラの栗色の髪をクシャクシャとかき上げ、意味もなく体をクネクネさせる。

「大事なことだから、分からなくても聞いて頂戴」

「はぁーい」

「そのときの事故で、あなたのお父さんお母さんは亡くなってしまってね、お前たち3人を私たちンカレッツア人が引き取ったのよ」

「おとうさんはいないけどぉ、おかあさんならぁ、おばあさんがいるからいーもん」

 育ての母であるトカゲが何よりも好きだった。特にチロチロと舌を出す仕草は大のお気に入りだ。頬をりんご色に染めて無邪気に笑う幼子に、トカゲが寂しげに笑う。

「私も歳だからね。いつまでも一緒にってわけにはいかないの」

「いやっ! いつまでもケイニャといっしょにいるのぉっ!」

 膝の上で駄々をこねる幼子に、トカゲは胸を痛めた。

「私もそうしたいけど、そうもいかないの」

 そして……

「そんな風にわがままをいわないで。それともケイニャは私を困らせる悪い子なの?」

「ううん」と泣きそうな顔で首を横に振る幼子。

「じゃあ、良い子?」

 ケイニャは口を尖らせ、嗚咽しそうなのをグッと堪えて健気に頷いた。

「良い子ね」とトカゲは細腕でもって幼子の小さな頭を優しく撫でた。

『もし、大人になって困ったことがあったら『シアス』へ行きなさい」

「しあす? どこ、それ?」

「あなたが望む幸せがある場所よ」

 もしくは楽園ユートピアかもしれないわね。と付け加え、ケイニャの頭を優しく撫でるトカゲ。

 ユートピア。

 幼子がその意味を知ったのは、育ての母であるパルチが亡くなって、しばらくしてのことだった。

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