1-3. 入社試験です。②
洋館に入ると、中は小綺麗になっていた。流石に『将軍』と呼ばれていたメイドが一人で片付けをしているとは思えない。大方、メイドが何人も居るからこそ出来る事なのだろうけれど。
「わあ……中は綺麗になっているんですね」
「中が汚くなっているという妄想はどこから来たのかね、新人」
「いや、別にそんな妄想はしていないですけれど……。これぐらい広い家だと、少しぐらい汚い場所があってもおかしくないのかな、って……」
「そりゃあ、将軍以外にもメイドはいるからな! いや、正確にはあいつらはメイドとは言えないのだが」
「メイドとは言えない? どういうことですか?」
ごすっ。
痛い! また殴った!
「そんなことは今は知らなくて良いのだ。お前が今からすること……それは何だか分かるか? 分からないだろうなあ?」
「何を…………するんですか。まさか、身体を売れなんて言い出しやしませんよね?」
「そんなことを言い出すか阿呆め。それに貧乳のお前にどこの金持ちが金を出すというのだ。それぐらい、自分の身体ぐらい理解しろ」
「ひどい! 分かっていたけれど、そこまで言うことですか!?」
「それより、準備は出来ているか?」
「準備?」
扉を乱暴に開け、そこへ背中を押して無理矢理に入れ込んでいく。
いったい何が起きたのかさっぱり分からなかったが、部屋の様子を確認して徐々にその風景を理解していく。
そこにあったのは机だった。長机を対面するように、椅子が二つ置かれている。
まるで面接室のようなその風貌は、いったい何をする部屋なのか私には理解できずに居た。
「何だ、未だ椅子に座っていないのか。さっさと椅子に座れ」
向こう側の扉から入ってきた黒スーツの男は、椅子にどかんと座る。
私は言われたとおりに椅子にちょこんと座り、相手が何をし出すのか確認していた。
「それでは『長久手極悪協会』の入社試験を始めます」
「ながくて……ごくあく?」
ごーん。
どこからか落ちてきた金だらいが頭にぶつかる。痛い。
「お前、自分が入る会社の名前も知らないのか? 流石に馬鹿を通り越して頭がおかしいと思えてくるぞ。ここは『長久手極悪協会』。それ以上でもそれ以下でも無い」
「そ、そうなんですね……すいません……」
何で私が謝らないといけないのだろう、と思いながら再度確認する。
「って、入社試験!? いつからそんなことになったんですか!?」
「何だ。入社したくて入社試験に挑んだのでは無いのか? 一応言っておくが、もし入社試験を拒否するようなら君を警察に突き出さなくては成らない。これも決まりであるからな。致し方無い。法律という決まりを破ることは、たとえ悪の組織だろうが許されることでは無いのだから」