1-1. 悪の組織?
「あ、悪の……」
「……組織だ?」
「いかにも! 我々は、悪の組織だ! 正式名称は特に無い! だからただ悪の組織と呼んでいるだけに過ぎないのだからな!」
すっかりぽかーんとしてしまっている借金の取り立て二人組と私。
そりゃあそうだろう。突然やってきた存在が悪の組織なんてふざけたネーミングでやってきて、驚かないほうがちょっとおかしいと言ってもいい。
「悪の組織だかなんだか知らねえが、俺たちの邪魔をしないで貰えるか? 今、大事な話し合いをしているところでね」
「残念だが、私も彼女に用事があるものでね、将軍!」
「御意」
「切って良し!」
「御意」
ちゃきん、と刀を抜く『将軍』。
するとあっという間にサイコロステーキよろしく借金の取り立て二人組がバラバラ死体になってしまった。バラバラ死体のできあがりだ。これで焼けばきっと美味しい? サイコロステーキのできあがりだ。
「終わりました」
「結構!」
黒スーツの男は、私に近づいてくる。
いったい何をしに私の元にやってきたのだろうか……?
「これを、見ろ」
「え……?」
「見ろと言っているのだ、この鈍臭女」
「何を突然言い出しやがったのですかこの男は!?」
ごすっ。
突然殴ってきた。痛い。
「これはお前さんが抱えている借金を綺麗に纏めたデータだ。……幾らあるか、流石にお前でも分かるだろう?」
「一、十、百、千……一億円!? どういうこと!! 私が知っているのは一千万円までなのに」
そう言われてみればさっき切り捨てられた男も二千万円だとかどうこう言っていた気がする。利子でそれほどまで膨らむものなのだろうか……?
「一応言っておくが、利子でそこまで膨らむことはあり得ない。利子を含まない借金だと、およそ六千万円程度だろうか。残りの四千万円が利子ということになる訳だが」
「だとしても多すぎます!」
「知ったことか。……ったく、綺麗に借金を纏めたこちらの気持ちにも成って欲しいものだ」
「別に纏めてくれと言った覚えはありません」
ごすっ、ごすっ。
痛い、ぶったな! しかも二発も!
「お前のようないたいけな少女を殴るのは良心が痛むが、お前がそのような振る舞いをするならば仕方ないというものだ。分かってくれるな? お前は、一億円もの借金を、この年齢にして背負っているというわけだ。さあ、幾つだ、言ってみろ」
「……十七です」
つまり私はまだ高校二年生な訳で。
というか高校二年生にして一億円の借金を抱えているの!?
「驚いているようで悪いが、その通りだ。そしてその借金を肩代わりしたのも我々だ」
「ん? 借金の肩代わりって言いましたか今?」
「言ったぞ。借金は肩代わりした。だからお前が一億円もの大金を支払う必要は無くなったという訳だ」
「どうして? あなたたちと知り合いな訳でもないのに……」
男は頭を掻いて、私に告げる。
「これを話すと長くなるのだがな……。簡単に言ってしまえば、我々は今『お前を必要としている』。そしてその必要としている状態が今ということだ。どうする? もしお前が断るというのであれば、我々は肩代わりしている一億円の借金を全てお前に戻す。果たしてお前に払いきれるかな? 文字通り、身体で支払わないと不可能な類いに入っていると思う訳だが」
「ひ、卑怯ですよ!」
「別に卑怯と思って貰って構わない。けれど、我々にはお前が必要だということもご理解頂きたい。さあ、どうする? いずれにせよ、ここでこのまま待機していれば殺人容疑で逮捕される疑いも出てくる訳だが」
「………………あああっ! そうか、そうなるんですよね!? それは絶対に嫌だ!!」
「それじゃあ、俺たちと一緒に来い。悪の組織に」
「正式名称はあくまでも悪の組織なんですね……」
こうして、私の正式雇用が決定した。
……きっと言っても信じてくれないだろう、悪の組織への就職だなんて。