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プロローグ


(神だって、悪魔だって、誰だって信じるものか……)


 市内のアパート、その一室にて蓑川茜は泣いていた。

 テレビでは、神殿協会の枢機卿、ルーズベルト・アーチボルトがインタビューに答えている。


「その扉が開かれるとき、世界はどうなってしまうのですかっ?」


 慌てたような口調のインタビュアーに、ルーズベルトは首を横に振るばかりだった。


「分かりません。ですが、我々は救世主を求めています。救世主はどこかに必ずいるはずなのです」

「その救世主の名前は、判明しているのですかっ」

「救世主の名前は、残念ながら。あと一週間後に、この扉、『ヘヴンズゲート』を開ける救世主が現れ、世界は洗い流される……。それが我々の教えの中に残っている教典の一部です」

(そんなこと、言ったって……)


 蓑川茜には、大量の借金があった。

 その額、せめて一千万円。

 理由はいろいろとあった。かつての母親が父親と蒸発した際に身元引受人が借金の引受人にもなっていた。しかし当の本人はまだ茜が生きているのだから茜に稼がせようとした。勿論犯罪だったので直ぐに捕まった。児童保護施設にも何回かお世話になった。そこでやっと希望を持てた唯一の存在である母親――蓑川真紀が、五百万円の借金とともに蒸発したのだ。

 このまま待っていたって仕方が無い。毎日のように借金の取り立てはやってくる。無視したってそれは永遠に変わらない。彼らもそれが仕事だ。いつまでもいつまでもいつまでもいつまでも取り立てにやってくる。こちらが支払いを済ませるまで永遠にそれは終わらない。

 でも、支払うことの出来る母親は、今姿を消してしまっていた。

 テレビでは未だにインタビューが続いている。


「ヘヴンズゲートを開けることの出来る存在、我々はそれを『聖王』と呼んでいます。聖王になるべく器を持った存在が、必ずこの赤沢市に居るはずなのです!」


 赤沢市は、一週間前まではただの太平洋に面する小さな都市だった。

 突如、空に門――神殿協会はヘヴンズゲートと言っている――が姿を見せてから様子は一変した。

 勿論、神殿協会がただの新興宗教だと言われなくなったのも、ヘヴンズゲートが出現してからである。それまではただの新興宗教と同じ扱いを受けていたのに、今や連日マスコミが本部のある赤沢市に駆けつけるようになっている程だ。

 そこまで珍しいのだろうか――茜はそんなことを考えたが、直ぐにその思考は停止された。

 どんどん。

 強いノック音。

 それは借金の取り立てに他ならない。出ないという選択肢も考えられるが、過去にドアを破壊されたケースもあり、出ない訳にはいかなかった。いつも母親が平謝りしていたけれど、それでなんとかなるものなのだろうか。

 ドアを開けると、いかにもチンピラめいた白いスーツを羽織った男が二人立っていた。サングラスをしていてその眼光までは見ることが出来なかったが、鋭かったのは間違い無いだろう。


「なんや、今日はお母さん居ないんか」


 ずかずかと中に入っていく。片方の男がドアを閉めた。鍵も閉めたような気がする。


「お母さん……なら、今はここには居ません……」

「逃げた、の間違いやなくて?」


 はっきりと突きつけられる事実。

 出来る事ならそんなことは考えたくなかった。けれど、そう言われてしまえば、考えざるを得ないのがまた事実だと言えよう。


「なあ、分からないならそれでええんやけれど……。本当にお母さんの居場所が知らないなら、お金は君に払って貰う必要があるんやよ」

「い、いくらですか……」

「二千万」

「にっ!?」


 増えている。倍になっている!

 慌てて否定しようと思った私の肩を掴んで、にっこりと笑みを浮かべて男は言った。


「利子や」

「利子ってそんな膨らむものなんですか……!?」

「おう。そうやで。膨らむもんやで。お前の胸はまったく膨らんでいないようやけれどな! だっはっはっはっは!」


 下品な笑い声だった。言っていることも下品だった。

 もし何の関係もなかったら殴っているぐらいだった。

 男の話は続く。


「というわけで、ここにある家財全般持って行くことになるんやけれど……、おう、四郷。幾らになるか試算出来たか?」

「ざっと五万二千円です」

「五万二千円か……。って、全然足りひんやんけ! なあ、嬢ちゃん」


 肩にぽんと手をやって言う。


「お金が足りないなら、身体で稼いで貰うしか無いなあ……」


 ああ、私風俗に売られるんだ……。


「四郷、腎臓の相場って幾らやったっけ?」


 しかもバラで売られるんだ……。


「今だと二千万ぐらいですね」

「良かったな! ちょうど腎臓一個売れば何とか借金返せるで!」


 それって、嬉しいのやら哀しいのやら。

 そんなことを考えていた矢先――、

 扉の錠前が思い切り吹き飛ばされた。


「わあああああああああああ!! 私の家があああああああああ!!」

「じゃかあしい!! そもそもこのアパート自体お前の家じゃなかろうが!!」


 扉を踏みつけるようにしてやってきたのは、黒いスーツの男と、メイド服を着た女性だった。


「……二対二。数的には五分だが、どうやって扉を破壊した?」

「聞きたいか? 聞きたいか?」


 どうしても聞いて欲しいらしい。

 そうして、男は周りに聞こえるように叫んで言った。


「俺は、悪の組織だっ!!」



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