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殺されて井戸に捨てられたチート怨霊がイケない勇者とハーレム美少女達にコワーイお仕置きイッパイしちゃうゾ!  作者: 谷尾銀
外伝・暗闇の聖母

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【02】矛盾


 魔王クシャナガンが滅び世界は希望の光に包まれた。

 しかし、長き戦いの旅路より帰還を果たした勇者たちによってもたらされた、聖女サマラに関する訃報は、全世界の人々に大きな衝撃を与える事となった。

 世界の中心たる法皇庁も、その影響からは逃れる事はできなかった。

 現法皇であるドラクロワ・キルシュティンは大司教であった頃、礼拝中にこの世の理を統べる女神より聖女が到来する啓示を授かった。そして、サマラを見つけ出して聖女として正式に認定したのもドラクロワであった。

 この功績により、前法皇の死去後、枢機卿(すうききょう)たちの推薦を受けて法皇の座に就いた訳だが、そのサマラが魔王に下った事で彼の権威は揺らぎつつあった。

「……ジュリアン派の糾弾が日に日に強まっている」

 そう言ったのは、紫檀したんの両袖机に、組んだ両手を置いた老齢の者だった。うねった長い白髪と厳めしい顔立ちが特徴的であった。

「やつらの主張はこうだ。聖女到来の預言は女神からの啓示ではなく、法皇様の譫妄(せんもう)で、サマラは聖女でも何でもなく、そこに魔王がつけこんだ……」

 この人物は、法皇庁における枢機卿の一人で、名前をアレックス・セルゲイと言った。

 枢機卿とは法皇の補佐官であり、法皇が死去した際に候補者を選出し、新たな法皇を選ぶ権利を持っている。

 ここは、そんな枢機卿の一人であるアレックスの自宅二階に位置する執務室であった。その暖炉の前で険しい顔つきのまま佇むのは近衛隊長のマテウス・ホプキンスである。

 アレックスは更に言葉を続けた。

「……サマラは偽の聖女として力を与えられ、勇者に近づき、時期が来たら裏切るようになっていた。そのお陰で勇者たちは危うく敗北を(きっ)するところであったのだという」

 この主張を唱えるジュリアン派というのは、ジュリアン・ベルトモンド枢機卿に与する一派であった。

 このジュリアン枢機卿は女神より勇者の到来を預言する啓示を(たまわ)った事で、次期法皇は確実と言われる人物だった。しかし、以前より贈収賄(ぞうしゅうわい)疑惑などの黒い噂が絶えない人物でもあった。

「まったく、荒唐無稽も甚だしい! あの女はこれを機会に法皇の座を狙っているのだ!」

 アレックスは拳を振り上げて机に叩き付けた。マテウスは、暖炉の炎を見つめたまま、その言葉に「ええ、その通りです」と同意する。自分がこれまで命を賭して使えてきた人物が、そんな妄言を口にするような人物だと思えなかった。

「同感ではありますが……」

「おお……流石はマテウス殿」

「なぜ、今日は、この私を?」

 マテウスは確かに現法皇ドラクロワを敬愛してはいたが、そういった教会内の派閥には属していなかった。アレックスとも面識はあったが、それほど親しい訳でもない。にも関わらず、なぜ自分が呼び出されたのか。

 その疑問にアレックスは身を乗り出して答える。

「勇者たちが嘘を言っているとは思えない。現実に聖女サマラは帰還を果たしていないが、魔王との戦いの旅路で(こころざ)し半ばで倒れたのだとしても、勇者たちに彼女を貶める動機があるとは思えない。しかし、女神に選ばれた聖女が魔王にくだるはずがない。それは有り得ない事だ」

「ですね」と思案顔を浮かべながら、マテウスは視線を天井付近にさ迷わせる。

「ではドラクロワ様の受けた啓示は嘘だったのか? これも信じられない。猊下はお歳こそ召されてはいたが、非常に聡明であった。とうぜん、妄言や虚言を口にする方ではない。この矛盾を解き明かすために、聖女ともに戦い、ドラクロワ様にも近しく接していた貴公に、話を伺う事にしたのだ」

「なるほど……しかし、ドラクロワ様は兎も角、聖女とは、あの大聖堂戦い以降は顔を合わせた事はありませんが」

「そうだったか。それは兎も角、いずれにせよ、この件に関して、何か気に掛かる事があるならば、遠慮せず聞かせて欲しい」

 マテウスは考える。

 アレックスの言うとおり、勇者たちが嘘を吐いているとは思えない。しかし法皇も嘘を吐いているとは思えない。

 そのドラクロワの見解には完全に同意できる。だが、マテウスは一つだけ気掛かりな事があった。

 それは魔王が滅びる以前の事。

 この法皇庁に魔王軍七魔将が一柱“呪眼”のデスゴアが単騎で攻めてきたときの事だった。あのとき、マテウスら近衛隊の聖術は、デスゴアの邪悪な力によって完全に封じられていた。奴の言葉が真実ならば、法皇庁が所在するウンビリクス・ムンディ全土で聖術の力は封じられていたのだという。

 しかし聖女サマラはお構い無しにその力を発揮して法皇はおろか近衛隊までも守ってみせた。しかし……。


 あれは(・・・)本当に聖なる力(・・・・・・・)だったのだろうか(・・・・・・・・)


「マテウス殿……」

 そのアレックスの呼び掛けで、思考の海から引き上げられる。暖炉の薪が、ぱちりと音を立てた。

 アレックスが怪訝そうな顔で口を開いた。

「何か、気になる事があるならば是非とも」

 マテウスは、しばしの沈黙を経て「いや」とだけ答えた。

 このあと、アレックス邸を辞すると自宅へと帰り、信頼できる密偵のジョン・フィリップスとメアリー・スタンを呼び出した。


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