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殺されて井戸に捨てられたチート怨霊がイケない勇者とハーレム美少女達にコワーイお仕置きイッパイしちゃうゾ!  作者: 谷尾銀
外伝・殉教者ウィヌシュカ・バエル

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【08】噂話


 その日の昼前だった。

 執務室にて。

 書斎机を挟んでプレラッティが手に持った報告書を読み上げる。

「ついに、我が領内でも、豚頭病が確認されました」

「そうか」と、バエル公は興味なさげに返事をした。プレラッティは話を続ける。

「それから、これは信憑性の薄い噂話なのですが……」

「良い。続けよ」

「実はガブリエラ様の死産した子供が豚頭であったのだとか。時期的に見て、豚頭病のもっとも最初期……もしかすると彼女が最初の罹患者(りかんしゃ)なのではないか、との噂があります。これについては現在調査中であります」

「そうか」

 豪奢(ごうしゃ)な装飾が施された肘掛け椅子に腰を埋めたバエル公は心底どうでも良さそうな声をあげた。プレラッティは、そんな主の態度について、特に気にした様子もなく報告を続ける。

「次に、いくつかの近隣諸国でエリクサーが禁止薬物に指定される見込みだそうです」

「ふむ、魔王が台頭していた戦乱の時代ならいざ知らず、今後世界が平和になって行くにつれ、副作用の大きなくだんの回復薬は不必要になったという事なのだろう」

「でしょうね。貴族の間でエリクサー中毒症が広まっているという噂は、私の耳にも入ってきています」

「……取り敢えず、用法用量を守れば悪い物ではない。市場の動向には注視して、買い集めておくように」

「はっ」

 と、プレラッティは返事をしたあと、どこか言いにくそうに、その話を切り出す。

「あと……これも、その、真偽の程は解っていないのですが」

「言ってみよ」

「はい。長らく病に臥せておられるティナ様は、実はエリクサー中毒症なのではと……」

「そうか。しかし、その手の事をあまり詮索しすぎるのは感心しないぞ」

「確かにそうですね。こ気分を損なわせてしまったようでしたら、申し訳ありません」

「よい」

 再び酷くどうでも良さそうに、バエル公は言ったあと、プレラッティへ聞き返す。

「他には何かあるか?」

「はい。えっと、最近、我が所領の近隣で人さらいが横行しているとの事です。先月だけで五件。確認されただけでも延べ三十五件に登っています。被害にあっているのは、十代半ばの少女たちばかりですね。恐らく船を使って、他の国へと売られているものと見て、今シュトロムの衛兵と連絡を取り合い、情報を集めている最中であります」

「他に報告は?」

「特に」

 と、プレラッティは短く返事をすると、手元の報告書から目線をあげてバエル公をまっすぐ見据える。

「あの……バエル様」

「何だ? 改まって」

「一つ、お尋ねしたい事が」

「だから、申してみよ」

 プレラッティは逡巡(しゅんじゅん)したのちに質問を発する。

「……最近、真夜中に南門から外へ出掛けられているようですが、いったいどこへ? しかも、あまり身持ちの良くない者たちと連れ立っておられるようですが」

「ああ……」と言って、特に何て事のない調子で、バエル公はプレラッティの質問に答えた。

「あれは、金で雇った冒険者たちだ。信頼できる女衒(ぜげん)の元に案内を頼んでいる」

「そうですか」

 プレラッティは呆れ半分といった様子で肩の力を抜いた。それを見たバエル公は悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「最近は気が(ふさ)ぐ事も増えたので、発散しようと思ってな。街の娼婦を城内に入れる訳にもいかぬであろう? 女給共の噂話の種にされてはたまらない」

「そういう事なら構いませんが、ほどほどにしてくださいね?」

 釘を刺すプレラッティに、バエル公は口元をにやけさせたまま言った。

「どうだ? お前も、いっちょう息抜きに」

「私は遠慮しておきます」

 プレラッティは苦笑すると「……では、報告は以上となります」と言って礼をして、執務室の扉口へと向かうためにバエル公に背を向けた。すると……。

「まて」

 声が掛かる。プレラッティは足を止めた。

「お前こそ、隠している事があるんじゃないか?」

「何の事でしょうか」

 プレラッティは背を見せたまま聞き返す。

 バエル公は、その後ろ姿を射貫くような目線で見詰める。

「……最近、人を使って、勇者たちの事を探っているらしいではないか」

「ご存知でしたか」

「いったい、何が目的だ?」

 しばらくの沈黙を挟み、プレラッティはバエル公の方に向き直って深々と頭を下げる。

「まだ、言えません。ですが、必ずやバエル様の益となりうる事であるとだけ……」

「ふむ」

 バエル公はしばらく考え込んだ後に、口を開いた。

「……ならば、深くは問うまい。私はお前を信頼している」

「ありがたき幸せ。すべては時が来ましたら、包み隠さずご報告に上がりますので、それまでの間、今しばらくの辛抱を」

「よかろう。楽しみにしている」

「はっ。では、これにて」

 プレラッティは今度こそ、バエル公の執務室を後にした。


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