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殺されて井戸に捨てられたチート怨霊がイケない勇者とハーレム美少女達にコワーイお仕置きイッパイしちゃうゾ!  作者: 谷尾銀
本編

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【11】地獄絵図


 アッシャー王国から魔法が消えた。

 当然ながら、傷や病を癒やし、炎や雷で敵を討つ魔法がなくなったという事は国防上の大問題でもある。

 しかし、アッシャー王国へと攻め込もうと考える国は皆無だったので、その辺りの心配は無用だった。

 誰もが、原因不明の災禍に触れるのを恐れたのだ。ますます王国は世界から孤立した。

 しかし、それでも各勢力の魔導師や霊術師達は、豚頭病の存在が広まり始めた辺りから、アッシャー王国全土を覆う正体不明の強大な闇の存在を突き止めていた。そして、今回の魔法損失の原因も、その闇の力による呪いが原因であると判明させてはいた。

 しかし、それ以上、闇の正体を深く探ろうとした者は、ことごとく不審な火災に巻き込まれ命を失った。

 結局、正体はわからずじまいで、魔王クシャナガンの呪いだとされた。

 世界の人々は思った。

 勇者ナッシュ・ロウは、結局クシャナガンの邪悪な力を完全に滅する事はできなかったのだと。ならば勇者が、この事態の収束に動くべきだ。

 しかし勇者は一向に動こうとしない。

 日に日に勇者ナッシュ・ロウとその身内へ向けられる憎悪は、燃え盛る炎の様に高まっていった。

 そのナッシュはというと、国王と姫の警護という名目で、王城に行ったきり家にまったく帰らなくなった。




 魔法が消えて半年が経った。

 ある国が武力をちらつかせながら、アッシャー王国に格安で大量のエリクサーを売りつけた。

 もちろん、ちらつせるだけで、その国に武力を行使する意志はまったくない。

 実はその国では、近々エリクサーが禁止薬物に認定されるのだという。それにともない、民間から二束三文で買いあげたエリクサーを王国に売りつけて小銭を稼ごうという目論見であった。

 当然ながらアッシャー王国に、それを断る余裕は一切なかった。

 しかし、それでも魔法で怪我や病を癒やす事ができなくなった今、中毒性が高いとはいえ王国にとって安価なエリクサーが大量に手に入った事はひとまず僥倖ぎょうこうといえた。更にエリクサーは、未だに豚頭病の予防薬として信じられている為、国内での需要は高い。

 アッシャー王国はこのエリクサーを捨て値で販売する事にした。

 初めのうちは、国民もこの安価なエリクサーの販売を歓迎していた。

 しかし、次第に悪どい商人達がエリクサーを買い集め、粗悪な混ぜ物で何倍にもかさ増しした、更に安価な廉価版を売り始めた。

 粗悪な混ぜ物をしたエリクサーは、実質的な効果は大きく落ち込むも、中毒性や依存性は正規品の倍以上という悪魔の薬だった。にも関わらず、値段は同量の穀物の二分の一ほどである。

 因みに、この混ぜ物は、ある魔法物質を精製する際に産まれる危険廃棄物だった。元々、王国の東に広大な領土を持つバエル公が、この廃棄物の処理を国内外から請け負う事業を行っていた為、王国内には掃いて捨てるほどの量が存在した。

 ともあれ、この廉価版によって、アッシャー王国ではねずみ算式にエリクサー中毒患者が増加し続け、治安は悪化の一途を辿る事となった。

 いたるところで毎日エリクサーの奪い合いや、頭のいかれたエリクサー中毒患者の凶行が相次ぎ、王国中に死と惨劇が溢れ返った。

 そうして、更に一年が経過した。




 近郊の店に商品の購入を拒否されて以来、ミルフィナ達は遠くの店から、どうにか食料を調達していた。

 しかし、一軒また一軒と食料を売ってくれる店は減り続け、ついには王都プルトで買い物をする事ができなくなってしまった。

 これはナッシュへの嫌がらせ云々ではなく、単に治安の悪化に伴い、王都プルトへ物資が入って来なくなったせいだった。もう金を払おうが何をしようが物がないのだ。

 この頃になるとプルトは、下手なダンジョンよりも危険な魔窟と化していた。

 そこでミルフィナはナッシュに連絡を取って、どうにか王城の蓄えから食料を都合してもらい、糊口ここうをしのぐ事にした。

 しかし、ある時、その食料を運ぶ馬車が暴徒により襲撃を受けてしまう。

 そんな事が二度、三度と続くうちに王城にいくら手紙を送っても、食料はおろか返事すら来なくなってしまった。

 二十人近くいたメイド達も全員いなくなり、備蓄も残りわずかで、あと数日で何もなくなる。

 そんな状況下、ミルフィナは自室に閉じこもり、無気力に窓の外を見上げ続ける毎日を送っていた。

 食事は日に一度。

 魔王討伐の旅の野営時にすら食べた事のないような粗末なスープ。しかし、そんな中でもミルフィナはティナとガブリエラの分の食事も忘れずに用意した。

 その二人の様子はというと、以前がまだましに思えるほど酷かった。

 ティナは何かの病気を患ったのか、手足がむくんで立ちあがれなくなっていた。どうやら指先が壊死しているらしい。もちろん、治す事はできないので、そのまま放置している。

 最近ではめっきり声をあげる事もなくなり、皿を床に置くと動物の様に鼻先を突っ込みスープをすすりあげるだけの存在になっていた。それ以外は、常に部屋の隅で何かに脅えながら、ずっとうずくまっている。

 ガブリエラは相変わらず自室で人形相手に延々とままごとに興じていた。

 呼吸器を病んでいるらしく、時折、腐臭を放つ血反吐を吐き散らかしていた。

 二人とも、かつて美少女だった頃の面影は一切なく、今にも朽ち果ててしまいそうだった。

 ミルフィナは朝起きると、その二人にスープを運んでから、誰もいない食堂で自らの分を口にして、あとは自室の窓辺で意識が途切れるまでずっと空を見上げていた。

 以前はナッシュとの幸せだった日々を思い出し、頬を涙で濡らす事もあったが最近はめっきりとそれも無くなっていた。

 彼女の死人の様な瞳に映るのは、過去の栄華などではなく、代わりばえのしない空であった。

 ミルフィナは、ここのところずっと空が灰色の様な気がしていた。エルフの森にいた頃、見上げれば空はなく、木立が頭上を覆い隠していた。

 そんな薄暗い故郷の森が大嫌いだった。

 自分は綺麗な青い空の下で生きたかっただけだ。日差し照りつける明るい空の下で。

 だから、ナッシュと共に、こんなところまでやって来たというのに、ここでも綺麗な空はどこにも見えない。

「どうして、こんな事になってしまったんだろう……」

 ミルフィナは、ぽつりと呟く。

 しかし愚かな彼女には、いくら考えても、その答えを見つけ出す事はできなかった。




 魔窟と化した王都プルト。

 その近郊に点在する長閑のどかだった農村部はまだマシかといえば、それはまったくの勘違いだった。

 そこはマグダラ村。

 あの稀代の毒婦サマラの生まれ故郷とされる村だった。

 その村の外れにある、かつては広大な麦畑だった荒れ地。

 人の背丈はある丸太が無数に林立していた。

 丸太にはりつけられているのは、襤褸布ぼろきれの案山子ではなく、生きた人間である。

 このマグダラ村の村民達であった。

 乾いた地面に突き刺さった丸太の足元には、油まみれの枯れ草で覆われていた。

 全員、苦悶の表情を浮かべながら絶望のまなこで灰色の空を見上げている。

 このはりつけられている人間達の合間をぬって練り歩く男達が、右手に持った松明で次々と枯れ草に火を放ってゆく。

 やがて荒れ地の至る所では断末魔の叫び声と煌々とした火柱が立ちのぼり、脂の塊を大量に燃やした時の臭いが立ち込める。

 それを畑の縁から眺めながら、オイオイとむせび泣くのは、マグダラ村の女子供達であった。

 全員、後ろ手を縄でしばられて、地面に正座させらている。

 その女子共達を見渡して凶悪な面構えの男が笑いながら大声を張りあげる。

「……今、この国は、かつてないほど荒れ果てている。なぜだかわかるか?」

 誰も何も答えない。

 ただ、すすり泣く声だけが断続的に響き渡っている。

「魔王クシャナガンの呪いだよ! つまり、魔王に与した稀代の毒婦の生まれ故郷……この村の一員であるお前らにも、責任の一端は当然あるわけだ!」

 無茶苦茶なこじつけであった。

 勿論、男も本当に、この村の者達に責任があるとは思っていない。

 しかし、何かのせいにでもしないと、良心の呵責に耐え切れそうになかったのだ。

 男達は全員、王都から逃げ出して来た食い詰め者達である。

 農村を襲い、物資を奪い、女子供をさらって奴隷商人に売り渡そうというのだ。

 世界中に忌避されているアッシャー王国出身の奴隷など普通だったら売れる訳がない。しかし海を渡った遠くの言葉が通じない異国で産地を偽装・・・・・すれば、まだまだ商品として通用するかもしれない。

 南の港町で、そういった異国につてを持つ奴隷商人達がいるという噂を耳にした彼らは、食料を調達するついでに稀代の毒婦の故郷であるマグタラ村を襲う事にしたのだ。

 このあと彼らと女子供達は、南へ向かう途中で山賊に襲われてしまう。


 こうして稀代の毒婦の生まれ故郷は、人知れず消滅したのだった。




 ミルフィナは夢を見ていた。

 それは、まだ彼女がナッシュと出会う前。

 故郷のエルフの森だった。

 青々とした木立からわずかに差し込む木漏れ日。

 風に揺られて歌い出す草木のざわめき。

 静かで、見慣れていて、何の変哲もない光景。

 毎年、季節ごとに繰り返される変わらない閉じた世界。

 ミルフィナが大嫌いだった場所。

 しかし夢に見た風景は、とても懐かしくて、温かく感じられた。

 共に恋だの幸せだのを語り合った幼なじみの友人達が楽しそうに笑っていた。

 村を出て行く時に猛反対していた両親が朗らかに微笑み、手招きをしている。

 些細な事で喧嘩別れしたままだった昔の恋人が白い歯を見せながら、そっと手を伸ばす。

 その手を取ろうとした瞬間に、彼女は夢から目覚め、自分が泣いている事に気がついた。

 目尻をこすり窓の外を見ると、そこにはミルフィナの大嫌いな、王都プルトのくすんだ空があった。

「……おうち帰ろ」

 ミルフィナは幼子の様にポツリと呟いて窓辺の椅子から立ちあがる。

 窓硝子に映る力ない微笑みを浮かべた自分自身の顔を見詰める。

「パパとママの所へ帰ろ……」

 もうナッシュがいないのであれば、ここにいる意味はない。

 なぜ、今までそれに気がつかなかったのか。自分は何にこだわっていたのか。

 心がふっと、軽くなった様な気がした。

「よし……」

 ミルフィナは旅の荷物を纏める為に立ちあがる。

 残ったわずかな食料をすべて持ち、自室で旅に必要な荷物をまとめる。

 すると、そこで、ミスリルのブレスレットが目に止まった。特に魔法の効果がある訳ではないが、かなり高価な品物である。

 それは、ナッシュから一番最初にもらったプレゼントで、ずっと大切にしていた物だった。

 たっぷりと迷い、歯噛みして、ブレスレットを壁に向かって投げつけようとする。

「……」

 しかし結局、ミルフィナは、そのブレスレットを路銀の入った革袋にしまい込んだ。

 それから、ずっと手にしてなかった弓と矢筒を肩にかけて、ついに彼女は愛の巣と呼ばれたその館の外へと出た。


 ライバルであり仲間であった二人を見捨てて……。

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