~マンション(共同住宅)の物語 其の1 「担当者の苦悩」
管理員から、安仁屋さんの破壊行為を聞いた、マンション担当者の井川は、その日の夜の理事会資料作成のため、時間との戦いを強いられていた。
管理会社の担当者は、土日の理事会、総会への出席や、平日は、そのための資料や議案書の作成。そして理事会、総会後の議事録作りと、ピリピリした時間との闘いを繰り返しながら、日々予測できない事件事故に対応しなくてはならず、精神的に追い込まれる職業の為、離職率も高く、神経や精神を壊す者も多い中、井川は生き残って来た。
管理員から、
「井川さん、忙しいとこ悪いけど、住民の安仁屋さんが、副会長の郵便受けを血だらけになって叩き壊して暴れていたので、集会室で諭して部屋に返しました。
との一報を受けた。
井川は露骨に嫌がった。
「管理員さん、俺、今夜も理事会なんっすよ。その準備に忙しいんっすよ。厄介ごとは現場でどうにか収めてくれませんかねぇ。」と、シニカルに言った。
管理員は頭に来るのを年の功でぐっと堪え、
「井川さん、ほんと忙しい中すまんこってすが、器物破損事故ですから、副会長への対応を宜しくお願いします。」
井川は、これを放置してしまった後に考えられる厄介を瞬時に浮かべ、ギアを入れた。
「管理員さん、おっしゃることは判りました。副会長への連絡と対応はオイラでやっておきます。」
本音本心での引き受けでないことは、井川の言葉の端々に出ていた。
その後、井川は副会長に連絡を入れ、案の定質問攻めに遇い、井川の午前は終わった。
「朝が終わり昼になってしまった…。資料作成間に合わないかも。ここは写真抜きで行くか。写真は1枚カラーコピー使って回覧するか。」
そう決め、昼休憩を採ることを諦めながら、理事会資料作りに没頭した。