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~マンション(共同住宅)の物語 其の1 「放たれた怒り」
我慢強く、沖縄鈍りを指摘されることを嫌い、必要最小限しか話さずにくれしていた安仁屋さんが、とうとう切れた。
「これだけ真面目に、これだけ慎ましやかに生きているのに、よってたかった虐めやがって!どいつもこいつも!」
安仁屋さんは、声を出して、口にして、怒った。
いつもは物音さえ気にして、床に物を落とすだけでも、「あっ!」と心配していた安仁屋さんが、声をだして怒った。
我慢し、我慢し、我慢し、我慢し、我慢して生きて来た。
それらが、充分すぎる屈伸の屈になっていた。
もう抑えられない。
もう我慢できない。
憎しみと、恨みと、怒りは、エネルギーの塊となって、開け放った窓から放出された。
「ああああああああああああああああっ!やってられんわぁぁぁぁぁぁあっ!」
「私が何したっつうのぉっ!」
「よってたかって虐めやがってぇっ!」
「ぐぅうぉぉぉっ!」
この瞬間から、安仁屋さんは気の毒なおとなしい被害者では、なくなった。