~マンション(共同住宅)の物語 其の1 「誰も解ってくれない。。。」
帰宅した主人は、妻の恐怖さえ感じる姿に、たじろいだ。
愛する妻への視線と思考というより、「殺されないかなぁ。」と、我が身を案じた。
「どうしたんだ。部屋の灯りもつけないで。」
「見えるの。」
「何が?」
「バルコニーに居るの。誰かが居るの。」
「いないよ。心配するなって。大丈夫か?相当疲れてそうだな。もう郵便受けも修理したし、余り思い悩むなよ。」
「ええ、でも、みんな噂しているの。」
「なんて言ってるんだ?」
「メンヘラばばぁ。」
「ははは、子供が、メンヘラかメンフラか、それが何か知りもしないで、親が言うのを聞いていってるだけだよ。」
「それが嫌なの!親が子に聞こえるように言ってるってことは多くの大人に伝わっているってことでしょ?今も聞こえるの。壁の向こうで、一家団欒で、『隣のクレイジーな主婦は大丈夫なのか?あれはイカレているからなぁ。』って言ってるのが…。」
「人の噂は何十日とか言うじゃないか。もう、直に、話題にもならなくなるさ。お腹空いたよ。」
「あ、あなた、ほらっ、バルコニーの向こうから、真っ直ぐ宇宙人がふたり飛んできた。いやっ!イヤッ!ああぁバルコニーの柵をすり抜けた!窓ガラス、あぁ、あなたぁっ、宇宙人が入ってくるっ!きえぇっ!」
そのあと、駈けつけて来た主人の「大丈夫か?」が、くぐもった声で、まるで怪獣ドラマの中の宇宙人のように「ドワイジヨウブクワァッ!」と宇宙語らしく聞こえてしまい、恐怖から、咄嗟に孫の手で主人の頭を滅多打ちにしてしまった…。