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~マンション(共同住宅)の物語 其の1 「縮む世界/幻聴・幻覚」
職場の同僚に、マンションでの奇行がバレることを恐れていたが、当事者の副理事長の知り合いとなれば、もう終わりである。
安仁屋さんの隣町まで自転車で働きに行く「意味」が崩壊した。
帰宅して、安仁屋さんの気持ちは一向に落ち着かず、壁の向こうから「やっぱりバレましたか。仕方ないですなぁ。」
そんな声が、安仁屋さんには聞こえた。
窓の向こう、カーテン越し、ベランダに、悪魔のような黒装束のタイツマンが立っているように見えた。
安仁屋さんに幻聴と幻覚が静かに迫っていた。
もう外は日が暮れ、部屋の中は真っ暗に、安仁屋さんにその変化は伝わっていない。
既に、陽の沈む前に、暗闇の中に堕ちていたのだから。
夕飯どころではなかった。
壁からは「どうする?どうする?」の声。
バルコニーには人間か異性人か判別できない生物の影がこちらを見ている。
「しゃぁっ!」
何語ともつかない言語を天井に向かい叫び、髪をかき上げ、テーブルにつっぷし、
疲れて眠ってしまったところに、早帰りデーで帰宅した旦那が真っ暗な台所に
入って来た。