~マンション(共同住宅)の物語 其の1 「幻聴・幻覚」
入浴中に、聞こえるはずがない隣家からの「悪口」が、ハッキリ聞こえてしまう。
安仁屋さんは、まだm冷静さを辛うじて保っていた。
「おそらく心理的なもの。でも、旦那には、もう、相談できない…。」
安仁屋さんは、「落ち着こう、誰も言ってない。言っていても聞こえはしない。」
そう懸命に自分に言い聞かせた。
夜、理由は旦那の鼾であったが、安仁屋さん夫婦は別の部屋で寝ている。
夜、今日も哀しかったなぁと回想して、泣きながら寝ようとしたそのとき、天井から「メンヘラばばぁ。」と男児の声と、それを聞いて笑っている母親たちの声が聞こえた。
「え!まさか。また幻聴?」
耳に危険なほど指を挿し、何も聞こえないようにした。
しかし、「あれは狂ってますよ。奥さん、安仁屋さんには気をつけなさいや。」と管理員が他の婦人に言っている声が鮮明に聞こえた。
「なんで、耳栓しているのに。どうして。幻聴だから?」
まだ、幻聴ととらえることが、この時点ではできていた。
隣の部屋では、それこそ隣室にまで聞こえそうなほどの旦那の鼾が響き渡っていたが、安仁屋さんにはそれは全く耳に入っていなかった。
幻聴に苦しみ、涙で目を赤く腫らしたまま、翌朝パートに向かった。
すると、甲子園口の職場の駐輪場で、安仁屋さんは聴いてしまった。
「あっ、ママが言ってたメンヘラばばぁだ!」
安仁屋さんは、心臓が止まりそうになっていた。
ついに職場にバレるのか!?
慌てて凄い形相で周囲を見渡した。
しかし、誰も、そこには、居なかった。
筈だった。
しかし、男児の幻影を、電信柱の後ろに見てしまっていた。
「げ、幻覚?」