~マンション(共同住宅)の物語 其の1 「もう…戻れない。」
小学生にまで、「メンヘラばばぁ」と馬鹿にされ、その場を動けなかった安仁屋さんの心臓は目に見えない悪魔に握りつぶされ、弾けて、ようやくため息ひとつついて、安仁屋さんは部屋に向かって歩き出した。
マンション中、小学生にまで知られた。
自転車で少し離れたスーパーでパートしているが、同じマンションに住むパートの女性もいる。
「いずれ職場にも知れ渡る。」
「町内の有名人になる。」
「買い物に行くと、白い目で見られる…。」
「なんで!?私が何をしたっていうの?」
そんな思いに包まれているとき、玄関扉の新聞投函口に、一枚の便箋が挿しこまれていた。
「くっそぉっ!あのアマめぇ!」
安仁屋さんは部屋に入る前、共用廊下でそう叫んでしまった。
それを、また、タイミング悪く、回覧板のやりとりで、玄関を開けておしゃべりしていたふたりの女性に確り聞かれてしまった。
そして、1Fピロティでカードゲームをしていた小学男児が、「うわっ、また、メンヘラばばぁ叫んどる!きっしょいわっ!」と軽妙に言い放った。
安仁屋さんは、副理事長が投函した3日以内の謝罪と修理業者の手配がないと、法的手段に出ると書かれた便箋を、狂ったように引きちぎり、「どいつも、こいつも、死んじまえ!」と大声をあげながらちぎった便箋を廊下から放り投げた。
やっと、少し気が紛れた安仁屋さんは、ソファに深く座り、疲れた心身をクールダウンさせていた。
気づけばもう19時。
かつて味方だった旦那が帰路についた頃、食事を作りながら、夕刊を取りに集合郵便受けに向かった。
すると…
小学3~4年生の男児が、安仁屋さんに差し出された、副理事長からの法的措置をチラつかす、独特な威圧と嫌味が盛り込まれた副理事長からの脅し状を、拾い集めてテープで貼り、掲示板に無許可で掲示していた。
「あっ!ああっ。ちくしょう!!!くそガキどもめ!」
そう叫びながら、掲示板から脅し状を剥がし、足で踏みつけた。
翌朝、小学生たちが、その姿を、コンテストさながらに真似ていた…。
もう、戻れない、もう、無理、もう…
そして…!