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第96話 数倍の敵軍を前に

 光神国軍の通信量が急激に増大したのは、リャグム奇襲作戦から37日が経過した頃だった。

 その翌日以降、光神国軍はクワネガスキ周辺の帝国軍城塞群と航空基地に対し、これまでにない猛烈な砲爆撃を加えた。

 対する帝国軍は戦闘機隊が全力で邀撃を行った他、一部の砲台が発砲禁止命令を無視して反撃を実施。

 だが圧倒的戦力差と搭乗員の疲労、修復が追い付かなくなった滑走路への着陸による損傷が累積し、戦力は急速に消耗。

 最終的に稼働機が15機を下回ったことにより、帝国軍はついにクワネガスキの航空基地の一時放棄を決定。

 残存翔空機は海を隔てた南方のケルシ航空基地へ、撤退を余儀なくされた。

 さらに光神国軍は、このケルシ航空基地に対しても爆撃を行ったが、これは長距離攻撃の不利もあり、比較的軽微な損害でしのぐことができた。

 また砲撃に対し反撃を行った砲台も、発砲で位置を露呈したことから集中攻撃を受け、わずかな戦果と引き換えに壊滅した。

 光神国極東艦隊の出撃を帝国軍の哨戒網が察知したのは、この翌日のことだった。

 



「いよいよ、決戦の時よ」


 ティアさんの言葉に、帝国軍首脳陣はそろって頷く。

 命を懸けた戦いを目前に控えながら、その表情はいずれも精悍で、少なくとも表面上は、揺らぐところはほとんど見受けられない。

 そんな彼らの表情を見、ティアさんは満足げな笑顔を浮かべて頷く。


「では各部署、準備状況を報告せよ」


 ゲウツニーの言葉に、先ず陸軍の将校が口を開く。


「はっ、先ず鉄砲に関してですが、尾栓問題が解決したこと、尾栓問題解決時にできるだけ素早く量産を開始できるよう、事前に準備を進めておいた効果もあり、内地の各所で量産が開始されました。現在、緊急に生産し夜間駆逐艦で輸送した50挺に、以前に敵から拿捕した30挺を加えた80挺を各城に分配、配備しております。

 また敵の事前砲爆撃により各所に被害が出ておりますが、重要設備の損害は防御と偽装を徹底した事もあり大きくなく、戦闘開始までには復旧できる見通しです。砲も敵の砲撃に反撃し破壊されたものもありましたが、全体の約7割が残存しております。その他、疑似魔法石や矢、医療品等の準備も万全に整っております。

 また加えて今回、このようなものを用意しました」


 そう言って将校は首脳陣に対し、縦10センチ、横4センチほどの大きさで、表面に魔法陣と魔術式の描かれた紙片を配る。


「これはティア総帥の提案を受け、バーム殿の助言を受けながら陸軍が開発したもので、『欺瞞紙片』と命名しました。この紙片には探知の魔力波に対し強い反応を示す加工と魔術式が施されており、探知の魔術を利用した誘導・照準に対しこの紙片をばらまくことで、敵の攻撃を吸収する囮とすることができます。準備量と情報秘匿の関係で敵の事前砲爆撃に対して使用することはできませんでしたが、今後は大々的に使用していく方針です」


 陸軍の将校のその言葉に、首脳陣はそろって感心し大きくうなずく。

 さらに続けて海軍の将校が口を開き、


「この欺瞞紙片に関しては、すでに海軍も技術・情報提供を受け量産を開始しており、今決戦においても使用していく方針です」


 そう付け足す。

 そうして陸軍の将校が報告を終えると、続いて基地航空隊を統括する将校が口を開き、


「基地航空隊はクワネガスキを一時放棄し、海を隔てた南方のケルシ、ツルフの二基地に陸海軍合同で展開。現時点での戦力はケルシに戦闘機42、中型機13の55機。ツルフに戦闘機38、中型機15の53機。計108機となっております。作戦機には全機、増槽を使用するための改造を施し、中型機は魚雷も使用可能です。

 また両基地ともバーム殿改修の探知装置を配備、さらに多数の哨戒艇を海上に展開、翔空機による哨戒も強化し、敵基地のみならず、空母機動部隊による奇襲にも備えております」


 そう報告を締めくくる。

 すると続いて、海軍の将校が口を開き、


「海軍主力艦隊は現在、クワネガスキから海を隔てた南西に位置するムンガ軍港に集結。戦力は正規空母2、商船改造空母1、戦艦1、巡洋戦艦1、航空戦艦1、重巡洋艦3、軽巡洋艦2、駆逐艦15。その他可潜艦7、駆潜艇6、哨戒艇多数が各海域に展開、哨戒任務にあたっております。また中、大型艦艇にはバーム殿設計の探知装置を、軽巡洋艦と駆逐艦には連繋機雷と先日到着したばかりの酸素魚雷を搭載しております」


 そう報告を終える。

 そうして最後に口を開いたのは、トウルバ港の守備を担当する将校だ。


「トウルバ港の防御に関してですが、火砲が小型の上数も少なく、高所設置の有利を加味しても、敵艦船と正面から砲撃戦を行って勝てる見込みはありません。よって敵艦船の砲撃に対しては反撃を行わず、ひたすら砲を伏せて位置を隠し、敵陸上部隊の上陸を待って反撃を開始する予定です。

 また損傷などが原因で港に残っていた駆逐艦以上の味方艦艇は、先日の空襲でほぼ全艦が大破着底。しかし小型快速艇8隻が洞窟や簡易壕、桟橋への偽装等で残存しており、決戦当日はこれに魚雷と連繋機雷を搭載、湾の入り口を包み込むような形で配置し、上陸阻止作戦を展開する予定です」


 そうして締めくくられる各部署の準備報告。

 ティアさんはそれを聞いて再び頷くと、


「ゲウツニー、敵軍の動きは?」


 続いてそう尋ねる。


「はっ、大陸側に展開する敵陸上部隊は現在も砲撃を継続しておりますが、歩兵による突撃の気配は未だ見られません。海上からの陸上部隊上陸を待ち総攻撃を仕掛けてくるのは、ほぼ間違いないと思われます。敵の攻城陣地はさほど前進しておらず、大型攻城兵器の存在も、未だ確認されておりませんが、恐らくは4万という兵力を頼みとし、物量で押しつぶす計画かと。

 敵極東艦隊に関しては、現在クワネガスキ東南東の海上を南西方向へ進行しており、戦力は空母5~8隻、戦艦4~6隻、巡洋艦10隻以上、その他駆逐艦、可潜艦多数が確認されております。またこの他に、敵軍港には上陸部隊を乗せた輸送船団と護衛戦力が待機しております。

 今後予想される敵艦隊の動きとしては、全艦隊をもってケルシ、ツルフ基地の制圧に向う可能性が最も高く、次いで直接クワネガスキに向かう可能性、あるいは二手に分かれ、一方がクワネガスキへ、もう一方がケルシ、ツルフ基地制圧に向う可能性が考えられます。敵艦隊出現予想時刻は明日早朝となっております」

 

 ティアさんの言葉に、そう冷静に答えるゲウツニー。

 だがその口から飛び出した敵戦力は、帝国軍を圧倒するものだ。

 僕は自身の開発した新兵器に絶対の自信を持っているし、今日までにできることは全てしてきたつもりだ。

 だがそれでも、これほどの戦力差を、果たしてひっくりかえせるものか。

 思わず不安に駆られていると、ティアさんはそんな僕を見、心を見透かしたように微笑み、


「大丈夫よバーム、あなたはやるべきことを、全てやってくれた。その働きはそれこそ、一騎当千の将や数千の兵にも匹敵するものよ。だから後は私たちの仕事。あなたの働きに報い、必ず勝利をもぎ取ってきてみせるわ。そうでしょう、皆!」

 

 そう勢いよく叫ぶ。

 するとそれを聞き、他の将校たちも笑顔を浮かべ、一斉に、


「おう!」


 そう自信を持って答えてみせる。

 そんな皆の反応に、僕も心の奥底から、何か熱いものが湧き上がってくる。

 今は自分の努力と、皆の活躍を信じるのみ。

 そう考えると、僕は大きく息を吸い込み、拳を握りしめ、


「……はい! 勝ちましょう」


 渾身の力で、叫んでみせる。

 そんな僕の反応を見、ティアさんは全将校に視線を送ると、


「さあ出撃よ、勝利に向かって!」


 そう叫んでみせる。

 そしてその言葉に、この場の全員が雄叫びで応じるのだった。

 

 そうして軍議を終えた帝国軍将兵は、それぞれの持ち場に向かって散る。

 そんな彼らの先に待ち受けているのが希望か絶望か。

 この時見通せたものは、誰一人としていなかった。

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