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第78話  実感

 暗闇に包まれていた空が濃い紫色になり、徐々にその色を明るく変化させていく。


「間もなく夜明けよ、各所、状況を報告して」


 ティアの言葉に、先ず海軍の将校が口を開く。


「敵の夜間爆撃による艦隊への損害は軽微、損傷が激しかった艦艇を除く残る艦艇は夜間の内にトウルバ港を出港。敵可潜艦の襲撃により駆逐艦1隻が大破損傷し港に引き返したものの、残る艦艇はほぼ予定通り進行。空襲圏離脱まで、残り約3時間となっております」


 返されるその報告に、ゲウツニーは平静な表情を崩さず、だが逆に表情を緩めることもせず、


「この距離であれば、最も機敏で艦船攻撃に向く小型の急降下爆撃機の空襲圏はすでに脱したと考えてよいかと。しかし中、大型爆撃機だけでも敵は相当の戦力を保持しており、油断はできません」


 そう淡々と告げるゲウツニー。

 その言葉にティアも、どこか緊張感をぬぐえない表情を浮かべ頷きを返す。

 続いて口を開く陸軍の将校。


「敵の夜間爆撃により丘の城とクワネガスキの探照灯、対空砲の一部が損傷し現在も使用不能。本部指揮所及び丘の城の探知・無線装置も今だ復旧できず。また揚陸物資の一部を至近弾により喪失。残る物資も現在までに回収できたのは全体の5割程度にとどまり、残りは偽装網をかけ現場に残置したままとなっております。滑走路に空いた穴は翔空機が運用できる程度には塞ぎ、残りは必要に応じて板で覆って対処するとのこと。また先ほど増援の戦闘機が到着したことにより、戦闘機は50機の戦力を回復しております」


 将校のその言葉に、


「バームは間に合わなかったようね。でもこのクワネガスキの探知装置は無事、まだ十分戦える」


 そうあえて自信ありげに答えるティア。

 だがその頬を、一筋の汗が流れ落ちる。

 間もなく、敵機の攻撃が再開される。

 味方は何とか戦える体制を整えはしたが、昨日からの戦闘で確実に消耗している。

 対する敵は昨日の損失を確実に穴埋めし、場合によっては昨日を上回る戦力で、しかも何らかの対策を講じたうえで仕掛けてくる。

 果たして昨日のようにうまく行くのか。

 せめて輸送船団の避難民だけでも守らないと。

 そんな思いがティアの脳裏をよぎるのと、


「丘の城からの通信が回復しました!」

 

 無線員の明るい声が響き渡るのは同時だった。

 その瞬間、その場にいた全員の視線が無線員へと集まる。 


「何!? それで、丘の城はなんと?」


 ゲウツニーの言葉に、無線員は真剣な表情を浮かべ情報を聞き取り、


「全方位索敵用の探知装置が復旧。その探知装置に反応。機数80前後、方位0時40分から1時00分、距離85~105キロ。高度不明」


 そう叫ぶ。

 その報告に一気に色めき立つ本部。


「総員戦闘態勢。戦闘機隊は全機緊急発進!」


 凛とした声と表情で叫ぶティア。

 次の一瞬、彼女が浮かべるのは笑顔。


「やってくれた。やっぱりバームはやってくれる」    


 普段バームには、上司として、歴戦の名将として、あるいは年上のお姉さんとしての姿しか見せない彼女。

 だがその言葉と表情に秘められた安心と信頼が、ひた隠しにしてきた彼女本来の姿と、彼女にとって彼がどんな存在なのかを物語っているようだった。



 


「また出撃か、こちとら昨日の昼から働きづくめだぜ、残業代はちゃんと出してくれよ」 


 けたたましく鳴り響く警報音の中、軽口を言いながら搭乗席に飛び乗るパイロット。

 夜間戦闘ができる技量を持つ彼は、昨日の昼から夜間も含めてほぼ休みなく飛び続けていた。

 だがそれが戦いというもの。

 彼はそう納得し、また離陸する。

 彼に続いて上がる戦闘機は40機以上。

 つい4日ほど前までは、出撃した機体の半数近くが機関不調で引き返していたことを思うと、大きな変化だ。

 大きな変化と言えばもう一つ、


――敵機は現在、方位1時15分から1時30分、距離75~90キロ、高度3000付近及び4000付近の2陣に分かれて布陣。第一班は高度5000に布陣し高空の敵機に対処。第二班は高度4000に布陣し中空の敵機へ対処。第三班はクワネガスキ上空に待機し討漏らした敵機への対処及び追撃に備えよ。


 無線機から聞こえてくる、聞き取ることが可能な音声。

 つい4日ほど前までは、雑音がひどく聞き取ることは容易ではなかった。

 しかも、


「第一班了解、聞いたか野郎ども、高度5000に上昇だ」


 パイロットが無線機に言葉を投げると、


――了解しました。それにしても無線機で、実際に飛行している機体同士で会話ができるなんて、えらい変わりようですね。


 僚機から返される返答。

 これまでは地上からの通信はまだ聞き取れることがあっても、実際に飛行している機体同士の通信は特に雑音がひどく、会話することはほとんどできなかった。

 それが今では、近距離にいる機体同士なら会話ができるまでに改善している。

 これが総帥様の光神国土産、新しい整備隊長様の手腕か。


「しかしこいつくらいは搭乗員の自主性を尊重してくれたっていいのにな」


 そうパイロットは一人悪態をつきながら背後に視線を送る。

 そこにあるのは明らかに重そうな防弾板。

 元々は機動性を上げるために下してもらっていたのだが、整備隊の方針で再び装備させられたのだ。


「こいつのせいで被弾するようなことがあったら、とっちめてやる」


 そう悪態をつくのと、眼下に敵機の集団が見えてくるのは同時。


「行くぜ野郎ども、攻撃開始!」


 パイロットは無線機に向かって叫ぶと、機体を翻し一気に急降下に入る。

 それと同時、視界の中で点のようだった敵機は見る間に大きくなっていく。

 最初の相手は高度4000に布陣する敵戦闘機だ。

 パイロットは敵に気付かれぬよう、敵戦闘機の斜め後方から突撃をしかける。

 接近するうち、敵はこちらの存在に気づき、機体をひねり旋回を始める。

 だが、


「もう手遅れだ、逃がすかよ!」


 パイロットは急降下の加速を利用してあっという間に間合いを詰めると、引き金を引く。 

 わずか数秒の攻防、敵機は穴だらけとなり戦列を離れていく。

 だがここで足を止めてはいけない。

 こちらが有利なのは急降下による加速と、斜め後方からの奇襲という有利があるうちだけだ。

 それを知るパイロットは、再び機体を急降下させて加速し、さらに高度3000に布陣する敵爆撃機の集団へと突撃を仕掛ける。


 巨大な爆撃機も、上空から見下ろせば羽虫か木の葉のようだ。

 だが急降下し距離が詰まれば、やがて自機の数倍という巨体が視界の中でどんどん大きくなっていく。

 敵機から撃ちあげられる防御砲火の弾幕が、閃光の雨を作る。

 そこへ搭乗員は雄たけびを上げながら突撃し、照準器に入りきらない程に大きく広がった敵機の巨体に、引き金を引く。

 瞬間、自機から放たれた閃光は真っ直ぐ敵機の巨体へと吸い込まれ、命中した箇所から煙が上がる。

 だが一瞬の内、敵機に接触する寸前まで肉薄する機体。

 

「ぶつかってたまるかよ!」


 叫ぶと同時、機体をひねる。

 刹那の内、敵機の主翼後方、機体一機分も無いところをすれ違う。

 敵一機と刺し違えるのでは割に合わない。

 何より生き残って、何度も出撃と帰還を繰り返し、味方を守る、それが戦闘機乗りだ。

 そう思いながら、地面にぶつからないよう機体を引き起こす。

 難しいのは高度と奇襲という有利を失ったここから。

 再攻撃を仕掛けるには上昇しなければならないが、上昇の際は速度が落ちるため、最も危険なのだ。

 敵戦闘機も体勢を立て直し反撃に入っている、敵の隙を伺わなければならない。

 

 そう思いながら敵の編隊に追従するうち、機体はクワネガスキの山を越える。

 だが次の一瞬、起こった出来事にパイロットは目を疑う。

 敵の爆撃機の全てが、爆弾をクワネガスキ周辺に落とし始めたのだ。

 そうして山の麓で次々と巻き起こる猛烈な爆発。

 それらは地上の施設や陣地、航空機や、港に集積されたままの物資を次々と吹き飛ばしていく。

 だがおかしい、敵の攻撃目標はこちらの輸送船ではなかったのか?

 あるいは、


「輸送船への攻撃を諦め、揚陸した物資に狙いを絞って来たのか?」


 そう考えていると、


――こちら本部、現在味方輸送船団に向かう敵機は確認できず。また情報解析の結果、敵は攻撃目標を揚陸物資に切り替えた模様。戦闘機隊は敵機への攻撃を続行。また輸送船団に向かう敵機がないか注視するように。


 無線からもたらされる情報。

 どうやら考えは正しかったようだ。

 そして一番大切な輸送船団と避難民は守りきる事が出来たらしい。

 勿論まだ油断はできないし、港に残置されたままの揚陸物資も守らなければならない。

 だがそれでも、脱出した避難民、特に子供達の事を思うと、肩の荷が少しだけ下りた。

 そう思った正にその瞬間、機体を襲う鈍い衝撃。

 

「くそっ、油断した」

 

 絞り出すように呟きつつ背後を振り返れば、風防は大きく割れ、座席後方の防弾版が砕け、上半分がなくなっていた。

 もし防弾版が無かったなら、今頃どうなっていたことか。

 あるいは防弾版が無ければ、被弾せずに済んだだろうか?

 何にしても、防弾版が自分の命を救ってくれたのは間違いない。

 そう、何より生き残る事、それが戦闘機乗りだ。

 パイロットはそう再び心に刻み、操縦桿を握る指に力を込める。

 そして守るべきもののために、愛機を駆るのだった。

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