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第73話 補足

 軍議から4日目の夕刻、改良型の探知装置の各部品が完成した。

 主な改良点は3つ。

 一つは魔力波の送受信を行う装置の形状を、お椀型に変更したこと。 

 一つは魔力波送受信装置を、左右だけでなく上下にも旋回できるようにしたこと。

 一つは計測データの表示方式を変更したことである。

 いままでの対空探知装置は魔力波が扇状に広範囲に放たれ、装置の旋回は左右のみだった。

 この場合、目標までのおおまかな方位と距離を素早く知るには有利で、広範囲の索敵には適している。

 反面低高度の目標も高高度の目標も同じような反応となってしまうため、高度を測定できない欠点があった。

 

 改良型では魔力波が円錐状に収束される上、装置の上下旋回が可能。

 このため目標までの方位、距離だけでなく高度も測定できるようになる。

 反面、魔力波を収束させる分、索敵できる範囲は狭まるという弱点も持っている。

 このため最初の広範囲の索敵はこれまでの装置で行い、先ず目標までのおおまかな距離と方位情報を得る。

 続いて反応のあった方位に改良型の探知装置の方位を合わせた後、装置を上下に旋回することで高度を測定する。

 目標の高度が分るようになれば、それに合わせた高度に戦闘機を布陣させる事が可能となるため、邀撃は格段に有利になる。

 これに伴い、方位と距離に加え、新たに高度情報を計測データとして表示できるようにした。

 

 またこれまでの探知装置に関しても、計測データの表示方式と表示板に変更を加えた。

 これまでの表示方式の場合、縦軸に受信した魔力波の反応の大きさ、横軸に目標までの距離を波形として表示していた。

 だがこの表示方式では、他方向に多数の目標が存在する場合、測定結果を一覧することができない。

 このため装置の方位と波形から、どの方向のどの距離にどのような目標が存在するかを頭の中で二次元的に把握する必要がある。

 当然、担当員の負担は重くなり、扱いには熟練を要していた。

 

 新しい表示方式では、円形の表示板の中心を探知装置の位置とし、装置を回転させ、魔力波を放射線状に放つ。

 そして反応のあったポイントが光の点として鳥瞰的に表示されるため、中心の探知装置との間隔で距離を、確度で方位を、即座に割り出すことができる。

 これにより読み取りは簡易となり、担当員の負担は相当軽減される。

 反面、現時点では近接した複数の目標が同一の光点として表示されてしまう欠点も持つ。

 だが僕は扱いの簡易さを優先し、この表示方式への切り替えを行う事とした。


 完成した改良型探知装置の部品は二基分。

 それも設計は全く洗練されておらず、アラが目立つもの。

 敵の低空侵入や故障、攻撃による損傷の可能性を考えれば、性能も数もいくらあっても足りないくらいだが、決戦に間に合わせるとなると、これが限界だ。

 この二基を、クワネガスキと丘の城に一基づつ配備する。

 本来なら出来るだけ早く敵の侵攻を察知するため、前線に近いスオママウ城にも配備したいところ。

 だが防空指揮所の本部がクワネガスキに置かれることと、標高の高いスオママウ城に部品を搬入することの困難さから、この二城への配備が決まった。


 4日目の夜から5日目の早朝にかけて、探知装置の部品搬入と組立、午前10時頃には偵察任務から帰還する味方機を用いてテストが行われることとなった。

 僕は丘の城の探知装置の指揮を執る。

 本来ならば先ずテストを行い、不良を解消した上で実戦配備されるべきだが、それでは決戦に間に合わないため、この順序となった。

 今回は前回の空襲の際と異なり、部品は良品と交換され、整備状態も良好。

 逆に言えば、失敗しても言い訳できない条件である。

 

 うまく行く、それだけの努力をしてきた、大丈夫。

 そう自分に言い聞かせながら、汗のにじむ拳を、ぐっと握りしめ、テストの様子を見つめる。

 だがここでハプニングが起こる。

 新部品の接続や不良部品の交換に万全を期した結果、準備に遅れが生じたのだ。

 準備が完了したのは、テスト予定時刻のわずか30分前。

 果たして、装置が稼働し始めるのと、丘の城の上空を任務を終えた味方機が通過するのは同時だった。

 予定より早く任務から帰還した味方機を、整備兵たちはため息と共に恨めし気に見上げる。

 一方で探知装置を扱う兵士は、新しい表示板をプロの目で鋭くにらみ、その反応を読みとる。

 そして数秒の内、旧型の探知装置を扱っていた兵士が、改良された円形の表示板を読み取り、険しい表情を崩さないまま呟くのだ。


「南に向かうこの光点が今の味方機として、北北東から接近するこの光点は――!?」


 その呟きに、周りの全員の視線が表示板に集まる。

 だがその道に熟練していない僕たちに、表示板を読み取ることは容易にはできない。

 そんな中で旧型の探知装置を扱う兵士は、険しい表情を浮かべたまま、


「探知装置に反応。機数不明、方位1時00分から1時20分、距離80~110キロフェル」


 そう叫び声を上げる。

 その言葉に、一瞬の間の後、慌てて空を睨む目視の見張り員たち。

 そして新型の探知装置を扱う兵士が、報告のあった方位に装置を向け、続いて上下に送受信装置を旋回させる。

 一度目は反応が無かったようで、方位をずらしつつ装置を何度か上下させる。

 そして装置を上下させる事3回目、

 

「新型探知装置に反応、機数5から10。距離70~100、高度4000~6000フェル」


 そう叫び声を上げる。

 果たして、その叫び声から遅れる事6、7秒、


「敵機発見、機数5。方位1時30分、距離約80、高度5500フェル」


 目視の見張り員の上げる叫びに、整備兵達は感嘆の声を上げる。

 これは帝国軍の誇る熟練見張り員に、探知装置がおおむね勝ったことを示していたからだ。

 

「やりましたな、バーム殿!」


 無線員が敵機襲来の情報を発し、城に厳戒態勢が敷かれる中、整備兵の一人が声をかけてくる。

 だがこの時、僕はとっさに素直に喜ぶことができなかった。

 というのも自分自身が開発しながら、探知装置の表示板を全く読み取ることができなかったからだ。

 むしろノイズだらけのあの表示板から、どうしてまだ装置に不慣れなはずの兵士が敵機を読み取ることができたのだろうと不思議に思う。


 城からの対空攻撃を受けたことで、敵機は間もなく北方に去って行った。

 どうやら帰還する味方機を追撃してきたらしい。

 警戒態勢が解かれたのち、僕は探知装置を扱っていた兵士に話を聞く。


「バーム殿にはあの表示板がノイズだらけに映ったでしょう。ですが探知装置を長く扱ってきた私に言わせれば、あれでもノイズはぐっと少なくなっています。それに表示も鳥瞰的になって、頭の中で思い浮かべなくてすむようになった分、ずいぶん楽になりました。

 ですが、経験と勘に頼る部分は依然大きいですね。新しい表示板になったばかりで慣れていないのも事実ですし、今回は幸運でした。それに敵の機数や種類に関しては全く読み取れませんでした。今回は敵が5機の編隊で、ある程度の高度を飛行してきてくれたのでよかったですが、もし敵機が1機のみだったり、低空飛行で反応が小さかった場合、読み取れなかった可能性は十分あります」


 その兵士の返答に、僕は納得し頷く。

 やはり確実に表示を読み取り敵を補足するには、以前ほどではないにしても訓練は欠かせない。

 それに機数や機種、少数の編隊の読み取りには、いまだ難がある。

 そういった弱点や情報の確度を考えれば、目視の熟練見張り員もやはり欠かせない存在だ。

 

 新型の探知装置と円形表示板の威力は、早くも味方全体に伝わり、歓喜の声で迎えられた。

 前回の邀撃失敗の汚名も、これで幾分か返上できたように思われる。

 だが僕に言わせてもらえば、今回の結果は喜ぶ以上に、焦るべきもの。

 決戦まで残りわずか、それまでに可能な限り、新しい装置に慣れてもらわなければならない。

 何か手を打たなければ。

 そんな風に考えを巡らせる僕に向かって吹きつける風は未だ冷たく、しかし確かに、風向きを変えようとしているように感じられた。


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