第104話 上陸作戦
「撃ち方やめ」
上陸艦隊の旗艦からの指示に、光神国艦隊は数時間にわたり休むことなく続けていた砲爆撃の手をようやく止める。
この砲爆撃の間、帝国軍の反撃はほとんどなく、光神国軍は反撃してこない帝国の城と港湾に対しほぼ一方的に打撃を与えていた。
にもかかわらず光神国駆逐艦の指揮官の浮かべる表情はさえない。
「く、重巡洋艦2隻に軽巡洋艦以下7隻を加えた程度の砲力では、やはり全く打撃力が足りん。空軍の爆撃も明らかに威力不足。前日の海空戦での損害がここまで響くとは」
光神国軍の当初の計画では、圧倒的戦力をもって帝国艦隊を撃退した後、戦艦複数隻と空母、それに基地航空隊による集中砲爆撃により、城の防御設備を完全に破壊した後、上陸作戦を実行する予定だった。
しかし前日の海空戦で想定外の甚大な損害を受けた光神国軍は、残った戦艦と空母、基地航空隊約半数を帝国軍の攻撃に備えて温存させざるを得なかった。
結果、事前砲爆撃は中小艦艇と、空軍による当初の計画の約半数の爆撃機による空爆にとどまってしまっていた。
「はい、特に戦艦の不在は痛手です」
指揮官の呟きにそう応じる参謀。
戦艦の砲力は1隻で少なくとも重巡洋艦4隻分以上に相当し、こと地上への砲撃では絶大な威力を発揮する。
この戦艦を事前砲爆撃に使用することができなかったことにより、その効果は当初の計画の数分の一以下にまで明らかに落ち込んでいた。
「だが今はそれを言っても始まらん。先ほどの低空奇襲以降、帝国軍の艦船や翔空機の動きはどうか?」
思わしくない戦況に唇を噛みながら、指揮官が将校たちに問いかける。
光神国艦隊は早朝にも帝国軍翔空機数十機による低空奇襲を受け、輸送船1隻が撃沈された他、数隻に損害が発生していた。
「すでに帝国軍の偵察機が各地で目撃されているほか、空母を発進した我が方の偵察機が、先ほど南西海域に敵空母機動部隊を捕捉。しかしその位置は我が空母艦載機の攻撃圏ギリギリであり、敵空母機動部隊はすでに退避行動に移っているため、攻撃は困難とのこと。また他の帝国軍艦艇の活動については今の所確認されておらず、その他に危険となる要素は今のところ見られておりません」
指揮官の問いかけに、敵味方を示す駒の置かれた地図を指示し説明する参謀。
だが指揮官はその説明にもわずかに唇を噛み、
「空母部隊め、まだ攻撃隊を出せる程度の戦力は残しているはずなのに、昨日の予想外の損害で弱気になっているな」
そう苦々しげにつぶやく。
昨日の海空戦において光神国軍空母は、攻撃圏ギリギリの帝国軍空母に攻撃を行い、その戦闘と燃料不足による不時着で艦載機に甚大な損害を被っていた。
このため昨日同様攻撃圏ギリギリに位置する敵空母に対し攻撃を行うことに慎重にならざるを得なくなっていたのである。
だが上空を守ってくれるはずの味方空母のこの消極的行動は、これから上陸作戦を行う彼らにとっては、あまりに頼りなく映る。
だがそんな中でも、旗艦からは湾内への突入を命じる信号が出される。
「く、この状況でも上陸作戦を強行するか」
「全く、実際に突入するこちらの身にもなってほしいものです」
思わず漏らした指揮官に、同意する参謀。
光神国軍といえども本当にやる気があるのは一部の者達のみで、大部分の将兵は命を懸けた戦いに身を投じることに、大きな抵抗を持っていた。
とはいえ軍法に違反した場合の罰は重く、容易に逆らうことはできない。
やむなく光神国駆逐艦は旗艦からの指示のもと、8000の陸兵と攻城兵器を乗せた輸送船団を護衛し、湾の入り口に向かって前進を開始する。
だがその進撃に対し帝国軍の反撃は一切ない。
「重要港の目と鼻の先にまで侵攻を許しながら一切反撃なしとは、そもそも当初の攻撃計画が過剰だったのでは?」
あまりの順調さに、若い将校が肩透かしを食らった様子で呟く。
だが帝国軍のしぶとさを知る指揮官と老練な将校たちは、険しい表情を崩さない。
果たして周囲の陸地から発砲音が鳴り響いたのは、先頭の駆逐艦が湾の入り口に侵入した丁度その時の事だった。
直後、大小の水柱が船団の周囲にそそり立ち、衝撃に乗員が尻餅をつく。
「く、奴ら、やはり砲を伏せていたか」
老将校が悪態をつき、先ほど楽観的な言葉を口にした若い将校が、蒼白となって床に身を伏せる。
だがすでに狭い湾内に侵入しつつあった艦隊は、急に反転することができない。
「ええいやむを得ん、砲撃で反撃しつつ、突入を継続せよ」
混乱しつつある戦況に、破れかぶれで指示を飛ばす指揮官。
その間にも帝国軍の砲撃は光神国艦隊を襲い続け、複数隻が被弾、炎上する。
とはいえ、やはり素の砲力では戦力に勝る光神国艦隊の方が圧倒的に上。
程なく護衛の駆逐艦の反撃の砲撃が、砲撃で位置を露呈した数の少ない帝国軍陸上砲台に向け放たれる。 さらにしばらく後には、駆逐艦の物とは比べ物にならない猛烈な爆発が帝国軍砲台を襲う。
湾外で待機していた光神国軍重巡洋艦部隊が、味方撃ち覚悟で支援砲撃を行ったのだ。
「重巡部隊か、いいぞ、もっとやれ、帝国の化け物どもを叩きのめせ!」
味方の猛烈な砲撃に、興奮して叫ぶ将校の一人。
だが直後、それまでとは比べ物にならない巨大な水柱が艦隊を襲い、一隻の輸送船が大爆発を起こして炎上する。
光神国重巡洋艦の砲撃が、味方の輸送船に命中してしまったのだ。
「バカ野郎、俺たちは味方だ、どこを狙ってやがる」
思わず悪態をつく将校。
だがこれで帝国軍の砲力はいよいよ弱まり、上陸部隊は狭い湾の入り口という不利な地形を、いよいよ戦力と速度で押し通ろうとする。
「狭い湾の入り口さえ突破してしまえばこちらのものだ。上陸艇をおろし港を占領、そのまま陸と海からクワネガスキ城塞を挟み撃ちにするのだ」
そう興奮して叫ぶ若い将校。
だが直後、艦隊の先頭方向から猛烈な爆音が鳴り響く。
思わず視線を向ければ、そこには巨大な水柱と黒煙に包まれながら、真っ二つとなって波間に没していく味方駆逐艦の姿があった。
「な、なんだ? い、一体何があった!?」
蒼白な表情を浮かべ、震える声で誰ともなく尋ねる将校。
「海面上に何かが結び付けられたワイヤーのようなものを複数確認、先頭の艦はあれに接触した模様です」
それに対し見張りの兵が、そう慌てた様子で報告する。
「まさか、あれが昨夜、味方水上艦隊を葬った帝国の新兵器だというのか?」
指揮官の呟きに、揃っておびえた表情を浮かべる将兵。
昨夜の戦闘の詳しい戦況や損害は、士気に与える影響を考慮され彼らには伝えられていなかった。
だがそれでも、帝国軍の新兵器によって光神国艦隊が大損害を被ったという事実はすでに噂として広がっており、その恐怖はここにきて彼らの目の前で現実のものとなったのである。
さらに程なく、
「10時方向より敵快速艇6隻接近」
艦橋内に響き渡る見張り員の叫び。
視線を向ければ、そこには駆逐艦よりはるかに小型だが快速を誇る小型艇が、猛然と艦隊に迫ってきていた。
「全砲門反撃、近寄らせるな!」
指揮官の指示に、駆逐艦は全力で小型艇に対し砲撃を行う。
だが小型かつ快速の敵艦に対し砲撃は容易に命中せず、敵艦はどんどん艦隊に迫ってくる。
「くそっ、沈め、沈むんだ!」
そう焦りと恐怖に叫ぶ将校。
程なく砲撃で3隻を撃沈ないし撃退するが、残る3隻が艦隊に接近し、円筒形の発射機のようなものから、何か細長いものが海中に放たれる。
「敵艦が発射した細長いもの、あれは一体なんなんだ!?」
事情を知らない兵が恐怖と困惑に呟く。
だがその言葉に指揮官は血相を変え、
「いかん、取り舵一杯、急げ!」
そう慌てて指示を飛ばす。
程なく駆逐艦が左方向に回頭すると、その両脇の海面を先ほどの細長い何かがすり抜けていく。
それらはやがて駆逐艦の後方を航行していた輸送船に達すると、巨大な2本の水柱を立て大爆発を起こす。
駆逐艦の乗員らが驚愕と恐怖に視線を輸送船へと向ければ、艦は瞬く間に傾斜横転し、多くの将兵を巻き添えに海中へと没していく。
さらに周囲では他の味方の艦数隻もまた次々と同様の大爆発を起こし、巨大な水柱と黒煙に包まれ海中へと引きずり込まれていく。
一瞬でも判断が遅れれば、自分達がああなっていた。
あるいは輸送船を護衛するという任務の性質を考えれば、あえて回避せずに身代わりとなる方が正しかったのかもしれない。
だがそんな指示を下した指揮官を、乗員達は感謝こそすれ、批判する者など一人としていない。
程なく指揮官は蒼白な表情を部下達に向けると、
「は、反転180。全責任は私がとる。今すぐこの湾を離脱せよ」
震える声で指示を飛ばす。
明らかな任務放棄、軍法会議は避けられない。
それを理解しながら、部下達は誰一人として反論せず指示に従い、戦場からの離脱を図る。
他の光神国軍艦艇も同様に、旗艦からの撤退命令を待つことなく退却を開始。
ここに昨夜の悪夢は再び現実のものとなり、これまで圧倒的戦力で強引に抵抗を押しつぶして勝利をものにしてきた光神国軍は、再び無惨な骸をさらすことになったのだった。




