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第100話 砲撃戦

 艦尾方向より伝わる強烈な衝撃が将兵の全身を打ち、爆音が鼓膜を叩く。


――格納庫側面に命中弾、格納庫大破。


 もたらされる報告に、歯を食いしばる将校達。

 程なく、続けて飛来した砲弾が艦の両舷に巨大な水柱を作り、その衝撃が再び将兵を襲う。

 今や光神国戦艦5隻の砲撃が、たった2隻の帝国戦艦に集中し、絶え間なく降り注ぐ砲弾の嵐が、全長100メートルを超える巨艦を、鉄くずへと変えようとしていた。

 だが無論、帝国側も黙ってやられているわけではない。


――距離15000、照準修正良し、放て。


 号令一下、放たれる砲弾。

 そのしばらくの後、再び先頭の敵戦艦で閃光が煌めいたかと思うと、すでに火災で赤く染まっていた敵艦は、それまで以上に強い光を放つ。

 さらに直後、敵艦付近で再び煌めく閃光。

 後続するリクムの放った砲弾もまた、敵艦に命中したのだ。

 また先行する巡洋戦艦ヒミナと重巡洋艦の砲撃もまた、敵巡洋艦部隊を次々と捉え、炎上する敵艦の炎が、月のない夜の闇を払い、暗い海を赤く照らし出す。

 

「進路変針、敵艦隊と並行、現在の距離を維持し射撃を継続せよ」


 副長の指示に、帝国戦艦は艦首を左方向に旋回させ、敵艦隊との距離を維持する進路をとる。

 

「戦況を報告して下さい」


 至近弾の衝撃と轟音の中、大杉が叫ぶ。


「我が艦は現在、砲弾3発を被弾し中破。リクムも複数発を被弾し炎上中。ヒミナは敵巡洋艦の砲弾多数を被弾し炎上しながらも速力を維持し、探照灯照射を継続。味方重巡はヒミナが囮となり、砲撃をほとんど受けることなく敵艦を砲撃。軽巡洋艦以下の艦艇も砲撃を開始、間もなく進路を変針し、敵軽巡洋艦以下の艦隊と並行し戦闘を展開するものと思われます」


 その問いに、答える士官。

 だがその直後、再びの衝撃がヒナタを襲う。


――3番主砲基部に命中弾、砲塔旋回不能。


 もたらされる報告に、表情を険しくする副長。

 さらに程なく、今度は艦首方向から伝わる、衝撃と爆音。


――艦首水線上部に命中弾。


 短時間の内に次々と累積していく損害。

 発生した火災により生じた黒煙が艦の広範囲を包み、視界を閉ざす。

 だが敵艦からは火災の炎と探照灯の光により、艦の位置は丸わかりだ。

 だがそれでも、


「探照灯は照射を継続、敵の砲撃を引きつけてください」


 大杉は危険を顧みず指示を飛ばす。

 そのうち、ヒナタの砲撃は敵艦を再び捉え、後続リクムの砲撃もまた、敵艦を叩く。

 すると炎上する敵戦艦はそれまでの直進していた進路を変え、単独で隊列を離れ、帝国艦隊から遠ざかっていく。

 

――先頭の敵戦艦が大破落伍、戦列を離れていきます。


 もたらされる報告に、歓声を上げる乗員達。

 これで戦闘力を維持する敵戦艦は、残り4隻。


「目標を後方の敵戦艦に変更せよ」

 

 飛ばされる副長の指示に、ヒナタの主砲は照準を後方の戦艦へと変更する。

 だが程なく、再び艦を襲う衝撃に、ヒナタ艦橋要員たちの多くは立っていられず、床に倒れこむ。

 

――煙突付近に命中弾、高角砲大破、探照灯損傷使用不能、速力低下します。


 さらにもたらされる6発目の被弾報告に、

 

「進路変針、リクムに進路を譲れ、このままでは追突の恐れがある」


 そう慌てて指示する副長。

 艦の速力が落ちた以上、そのままの進路を維持すれば、後続する戦艦が追突してくる可能性がある。

 これを回避するため、ヒナタ左に舵を切って進路を開ける。

 すると程なく、ヒナタを追い越し先頭に立つリクム。

 それを確認し、ヒナタはこれに後続するように進路を戻し、戦闘を継続する。

 その間にも、砲弾は死の雨となって両艦へと降り注ぐが、帝国戦艦も被弾に耐えながら反撃、光神国戦艦付近で再度命中弾による閃光が煌めく。

 だがやはりそもそもの戦力差は補いがたく、戦局は目に見えて帝国側に不利に傾いていく。 


――右舷バルジ内に各所で浸水発生、注水により速力さらに低下。

――修理班に死傷者多数、消火、排水、追いつきません。

――3番主砲と後艦橋の火災が4番主砲に延焼、射撃不能、火災は火薬庫に迫りつつあります。


 次々もたらされる損害報告に、副長は血相を変え、


「中央弾火薬庫に緊急注水。火薬庫要員を急ぎ退避させろ。誘爆は絶対に阻止するんだ!」


 そう滝のように汗を流しながら叫ぶ。

 万が一弾火薬庫への誘爆が発生すれば、艦は一瞬にして大爆発、助かる見込みは全くない。

 程なく、3、4番主砲直下にある中央弾火薬庫への注水が行われ、誘爆の危機は去る。

 だが引き換えに艦の速力はますます低下。

 そこにさらに降り注ぐ砲弾の雨。

 そして次の一瞬、目もくらむような閃光と全身が宙に浮かぶほどの衝撃が、ヒナタ艦橋要員を襲った。


 

 

「総都督、大杉総都督!」


 聞こえてくる副長のかすれ声に、床に倒れた大杉が目蓋を開き、辺りを見回す。

 今や艦橋の床はあちこちでめくれあがり、壁には大穴が空き、明かりは消え、代わりに艦橋内のあちこちで上がる炎が、多数の乗員の倒れた辺りの悲惨な情景を照らし出していた。

 

「主艦橋に直撃弾がでました。操艦系統は奇跡的に無事でしたが、主艦橋内は死傷者多数。また探知装置を含めた多くの機器が損傷、使用不能。復旧のめどは立っておりません」


 額と左肩から血を流しながら報告する副長。

 その肩を借り、何とか立ち上がる大杉。

 その左足と右腹部には飛び散った破片が突き刺さり、染み出した血が軍服を赤く染める。

 だがそれでも、今すぐ命に関わるような傷ではない。

 大杉はそう判断し、


「戦況は?」


 そう問いかける。


「我が艦は7発被弾、大破。リクムも次々と被弾、損害拡大中。ヒミナは上部構造物を破壊され中破、激しく炎上しながらも未だ重巡部隊の先頭に立ち、戦闘を続行、敵巡洋艦部隊を相手に有利に砲戦を展開中。軽巡洋艦以下の艦艇も進路を変針し、敵軽巡以下の艦艇と並行し砲戦を展開するも、こちらがやや不利な情勢です。雷撃成功の知らせも、未だありません。

 それに総都督、このままここにいるのは危険です。傷も手当てしないと」


 そう答える将校。

 それを聞いて大杉は頷くと、


「僕の傷など大したことはありません、他の重傷者を優先してください。それと、指揮をとるのに他に適当な場所はありますか?」


 そうあえて笑顔を浮かべて答えて見せる。

 だがその言葉と表情にも、将校は表情を険しくし、


「主艦橋内はどこも損傷が激しく、司令塔内は一応無事ですが、装甲に覆われており視界が確保できません。後艦橋も火災が激しく、その他に指揮を執るのに適当な場所など――。それに総都督、その傷、今すぐ命に関わるものではないとしても、このまま放っておいて良いものではありません。せめて応急手当は受けてください」


 そう答え、大杉の答えを聞く前に救護兵を呼ぶ。

 今や艦は全身至る所に被弾し、火だるま、浸水だらけの満身創痍。

 もはや指揮を執るのに適当な場所も存在せず、1、2番主砲だけが砲撃を継続している状況。

 それを見てとり、大杉は唇を噛むと、


「指揮権をリクムに委譲してください」


 そう決断を下す。  

 だがその直後、ヒナタ前方から響き渡る爆音に、将兵は視線を向ける。

 そこには、先頭の入れ替わったヒナタの代わりに集中砲火を受け、大きく損傷し火だるまとなりながらも砲戦を継続するリクムの姿があった。


「あの損傷状況では指揮権を委譲したとしても、間もなく我が艦と同様の状態になる公算が高いかと」


 そう冷静に判断する副長。

 今や帝国軍主力戦艦で健在な艦は1隻もない。

 元から戦艦が囮を務める作戦だったのだから当然と言えば当然だが、戦局は今や絶望的なもののように思われた。

 そして戦艦が壊滅すれば、次は残りの小型艦艇の番。

 そんな戦況に、しかし大杉ははるか遠方の敵艦隊を睨みつけると、


「まだヒナタは沈んでいない。戦闘力も残っている。現在の進路を維持、砲戦を継続して下さい。一分一秒でも長く、敵艦の攻撃を引き付けて下さい」


 そう血を吐くように叫ぶ。

 するとその言葉に応えるように、ヒナタは残された4門の主砲に仰角をかけ、一斉に火を噴く。

 そうして放たれた砲弾はしばらくの後、敵艦で閃光を放ち、これを赤く染める。

 さらに直後、今度はリクムの放った砲弾による閃光が煌めいたかと思うと、また一隻の敵戦艦が戦列を離れていく。

 

「敵戦艦1隻落伍戦線離脱、残りは3隻です」


 見張り員の叫びに、無事な者は力の限り雄叫びを上げ、これに応える。

 だが残る敵戦艦3隻はほぼ無傷。

 そして直後、更なる衝撃がヒナタを襲い、副長とその肩を借りていた大杉は共に床に倒れこむ。

 そのしばらくの後、


――後部機関区の装甲を抜かれました。主缶2基大破、速力さらに低下します。    


 下の階からもたらされる報告。

 これまで装甲に守られた重要区画への損害は何とか免れていたが、ついにそこにも被害が出た。

 もはや健在な敵戦艦3隻を相手取る力など、帝国戦艦には残されていない。

 だがそれでも、


「まだです、まだ主缶6基が生きています。ヒナタはまだ死んでいない」


 そう再び副長の肩を借りて立ち上がり叫ぶ大杉。

 それに応えるように、ヒナタはまた4門の主砲に仰角をかけ、一斉に火を噴く。

 全身傷だらけになろうと、戦闘力を完全に失うまで、戦い続ける。

 そんな決意と共に、将兵が拳を握りしめるのと、それまでの砲戦によるものとは比べ物にならない程の猛烈な閃光と爆音、衝撃が戦場を切り裂くのは同時だった。

 

 戦局に大きな変化が訪れようとしていた。

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