プロローグ
処女作です。温かい目で見守ってください。誤字脱字大歓迎です。
この世界には多くの種族がいて、魔法があり、ダンジョンがあり、魔物が存在している。数百年前には幾多の凶悪な魔物を率いて大陸を混乱に陥れた「魔王」と、神の加護を受け魔王を討った「勇者」なんてのもいたそうだ。
なんとまあよくできたファンタジー世界だ。0歳児の俺は少々の呆れと、それを遥かに上回る興奮を覚えていた。
い、いやだって仕方ないじゃん!異世界転生だよ?剣と魔法の世界だよ?ワクワクしない方がおかしいよね?前世ではある女性が「男なんて一生10歳児」とか言ってたし、俺の反応は普通だよね?母親?らしき人が読んでくれた絵本や物語がソースなだけで勝手に自己解釈しているだけだが(もちろん言葉は通じていない)、たぶんあるはずだ。
だって見るからに文明レベル低いし。大人たちの見た目はヨーロッパ人だし。むしろないほうがおかしいはずだ。
確かに前世では流行の異世界転生ものとかネット小説とか読んでたけど、まさか自分が実際にそうなるなんて思ってもみなかった。いや確かに「こんな異世界に転生できたらな…」とか妄想したことは多々あったけどな。どうして俺が転生なんてしたんだろう。
まあ、そこらへんはどうでもいいや。俺は俺の生きたいように生きる!使命なんてものがあるか知らないけどそんなこと考えるのは後回しだ。
さてさて、今の内からやっておくことは何かな?
俺は大きな期待感と興奮を胸に、前世に見た異世界転生ものの主人公の行動を思い出していた。
◇ ◇ ◇ ◇
「夏休みってめちゃくちゃ暇だな」
超有名国立の工学部という、受験生の多くが志す大学に1年浪人した末ようやく受かった俺、須藤 章は2年目の夏休みにも関わらず暇を持て余していた。
なんだか思い描いていた大学生活と違う!と感じ始めたのはいつだったか。受験期ほどではないが、それでも高校生の時よりはよっぽど勉強が忙しく大変な毎日が終わり、いざ夏休みが始まってみるとびっくりするほど暇になった。
ちなみにバイトはしていない。「大学生の内はできるだけしっかりと知識をため込んでおけ。」という父親のアドバイスに従っているだけだ。ぶっちゃけめんどくさいだけなのだが。
また残念ながら、俺はサークル活動にそこまで熱を入れているわけではなく、かと言って友達もそんなに多くない俺はひまつぶしを兼ねて週に数日、大学の図書館で勉強するのが夏休みの日課になっていた。
女?そんな絶滅危惧種なんて知らんよ。女の影が皆無なのは何も俺に限った話でもない工学部の悲しいさだめなのだが。
ほんと当たり前のように彼女作ってるやつすごいと思う。
ブーッとスマホの通知が来る。
『ひまー?夕飯食いに行かね?』
慎二か。あいつも暇してんだな。
「ま、ちょうどいいところだし切り上げるか。」
オッケーと返信して荷物を片付けて大学を出た。そういえば最近ラーメンばっかり食ってるな。そろそろ野菜食べないとまずいかもしれん。
「と言いつつも結局今日もラーメンに…」
その瞬間、俺の視界は反転した。
「え?」
コンクリートの道路に叩きつけられながら最期に見た光景は、トラックが歩道に突っ込んでいく様子だった。信号待ちのところをイヤホンぶっさしてスマホ見てたからだろうか、何が起きたのか全く気付かなかった。
「まじかよ…勘弁してくれよ」
なぜか感じない痛みのせいか、思ったより深刻に考えないまま、俺の意識は闇の中に消えていった。
こうして俺、須藤章の一生はあっけなく終わってしまった。
◇ ◇ ◇ ◇
かくして冒頭に戻る。
俺の意識がはっきり覚醒してきたのは生後約半年といったところか。赤ちゃんの首が座る時期とかハイハイ始める時期とか俺は知らんからそんなのはアバウトだ。
聞いた限りでは日本語とも英語ともかけ離れた言葉を使っているため、まだ周りの大人たちがどんな人で、自分がどういう家に生まれたのかよく分からない。
というか自分の名前すら怪しい。
とりあえず今は頑張って言葉を覚えるのだ!そして魔法はよ!雷とか炎とかかっこいいやつはよ!
「adszxv asdfa asd a wef?」
勝手に一人ではしゃいでいると、メイドさんみたいな人が俺を抱きかかえてくれた。そう、うちにはメイドさんがいるのだ!貴族なのか、裕福な商人の家なのかはまだ分からないが、正直に言って、ド田舎の農家みたいなところに生まれるよりは大分アドバンテージがあると思う。ちなみにメイドさんはアラフォーくらいの女性だった。美少女メイドじゃなかったのは残念だけど、俺をかわいがってくれているので文句はない。ちなみに、何言ってるかはさっぱりわからん!
ちなみに自分の意思にかかわらずいろんなところからいろんなものが出る。けど強引に意識しないようにしている。意識しないったら意識しない!
こんな姿になってまであれだが、思いのほか体も思考も順応している気がする。前世でやり残してきたことなど多くあるし、家族や友達と会いたいという思いは確かにあったのだが、今はそれが気にならないほどに期待感に満ち溢れている。
温かい人肌に抱きかかえられ、何とも言えない安心感と眠気が襲ってきた。赤ちゃんにとっては寝ることも大切な仕事だよね。
俺はそのまま襲ってくる眠気に逆らわず、今日何度目か、グースカと惰眠を貪ることに決めたのだった。




