【番外編】森の中の霊祭 その1
ハロウィーンということで、死者や霊に関する番外編を書きました。全部で3話です。
よろしくお願いします。
この時のルナンは、11〜12歳ぐらいを想定しています。
この世界でも、とある祭事は大陸中に広まっている。
各地域によって特色は違えど、すべての国において一致しているものは、
──肉体が滅び死を迎えた生き物が、霊となって霊界からやって来る、というものだった。
*꙳☪︎・:*⋆˚☽︎︎.*·̩͙
「……はぁぁあ」
今日一の疲労にまみれた溜め息が、私の口から盛大にこぼれた。
「やっと三日目……明日は片付けが大変だけど、これで余裕ができそう……」
「また今年もこき使われておって。屋根から見ておったが、お前はあきらかに働きすぎだ」
「そんなこと言われても」
「ろくに食事にもありつけてないじゃろう。まったく、今のお前は霊界の死者も真っ青の顔色だぞ」
師匠の言葉に、私は苦笑いを浮かべた。
霊界からやって来る死者を迎えるお祭り。
霊祭と呼ばれる祭事は、私の住むこの村ではかなり特別な行事に分類されていた。
死者を迎える……それはつまり、この村で信仰され続ける魔女の霊すらも村に降りてくるとされ、この準備を含めた期間は村全体が大忙しとなる。
双子の妹リリアンも、霊が地上に漂うとされる三日間は霊を歓迎するため、霊舞という名の踊りをすることになっている。
毎年本人は乗り気じゃないけれど、村の人にうまいこと乗せられながら役目をこなしていた。
その霊祭も、今日が最終日。
夜明けと共に霊は霊界へと還り、村もまたいつもの日常が戻ってくる。
この村で魔女と認められていない私は、霊舞に参加することは許されていない。
だからリリアンが霊舞を披露する間の時間は、私にとっての休憩時間だった。
「……師匠〜。森のみんなが呼んでるって、何かあったの?」
師匠の後ろをついて歩くように、村からそう遠くない場所にある森の中を進んでいく。
霊祭は何も人間だけの祭りではない。
森の中にいる動物たちのところにも、同じように霊がやって来る。
この間、森の熊さんが死んだお母さんに会えることを心待ちにしているという話を聞いた。
人間には霊の姿を目に映すことはできないけれど、動物たちには認識できるらしい。
だからこそ、森のみんなもこの日はそわそわとしているのだ。
「ねぇねぇ……本当に中に入って大丈夫なの?」
「ああ、問題ないと主が言っておった。ルナン、お前はもうこの森全体に認められておるからな」
師匠はそう言ってくれるけど、やっぱり私は不安だった。
森にやって来る動物たちの霊……その中には、人間に殺された霊もいるだろう。
自然の中を生きていれば、いつどのように住処を追われるかは予想がつかない。
動物たちもそれは理解しているし、普段私と接するときも私は魔女であり、他とは別だと割り切ってくれていた。
だけど、わざわざ霊祭にお邪魔するのはどうなんだろう。
これまでも、霊祭期間中は森に入ることはなかった。
だから今年も、ひっそり村の隅っこで過ごそうと思っていたのに。
「ルナン、ついたぞ」
「……え?」
森の中を進みながらも悶々と考え込んでいれば、師匠は立ち止まった。
「ここは……大樹の根?」
辺りを見回して、そこは森の中で最も聖域といわれる場所であることに気がついた。
魔力が根から葉の先端にまで巡る大樹は、森の住人以外に存在を見つけられないように、特別な力で居場所を隠している。
大樹が傷つき、枯れてしまえば森は死に絶え、動物たちも絶命してしまう。
それを阻止するために、大樹は生まれた時から姿を隠し続けていた。
大樹の居場所を知っているのは、森に住まう生き物たちだけ。
「え!? ええ! どうして私が、大樹の根に来られたの!?」
そう、森の動物たちと交流できていた私でも、大樹のもとに来ることは今まで一度もなかった。
だというのに、森に入ってそれほど距離も歩いていないのに、いきなり目の前に現れたことに驚きを隠せない。
「だから先ほど言っただろうに。お前はもう、この森全体に認められているとな」
師匠は呆れながらこちらを振り返った。
「で、でも〜……」
上を向くと、大樹の葉が視界いっぱいに広がる。
風に揺られてさわさわと揺れる葉っぱは、ほんのりと白い光をまとっていた。
というか……この大樹全体が、不思議な光に包まれているような。
じーっと根元を観察していれば、土と根の境目に大きな穴が空いているのを発見した。
「そこに入るんじゃ、ルナン」
「ここに!?」
穴の奥は真っ暗で、ここからではどうなっているのかわからない。
でも、何やらおかしな気配を感じる。
それも複数の気配が、忙しなく動いているみたい。
「安心しろ。なにも掘っただけの穴に落とそうとしているわけじゃないぞ。入ればすぐにわかる」
「で、でも……」
迷った挙句、私はもう一度だけ大樹を見上げた。
温かな空気を纏う大樹。この空気は、森の主さんからも同じように感じられる。
「私が入って、本当にいいのでしょうか……」
大樹の表面にそっと触れて、問いかけた。
すると──白い光に包まれる木の葉たちが、また、さわさわと揺れて音を鳴らし始めた。
「ほらな。大樹も言っておるだろう?」
「……うん、本当だね」
決して言葉が発せられなわけじゃない。
けれど、たしかに聞こえた気がした。
──お入りなさい、ルナン。
そう、囁く優しい声が。
「ほら、さっさと行け」
「ぎゃっ!」
背中をトンっと押され、私は大樹の穴に目掛けて頭を突っ込んだ。
受け身を取る暇もなく、ただ穴の中へと吸い込まれていく。
ふわふわと心地よい空気が身体に吹き抜ける。
そして次の瞬間には、私は全く別の場所にいた。




