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12. 小型化





 あれから数秒間のモフモフ至福タイムを味わった私は正気に戻り、仰天しているコクランさんに失礼致しましたと頭を下げた。


「まさか契約獣にあんなことをするとは思ってもみなかった……俺が言っても説得力に欠けるが驚かせないでくれ」

「すみません、先ほど手に触れた毛並みが忘れられなくて」


 師匠の毛並みはどちらかと言うと艶々なので、また違う手触りのグランは魅力的だったのだが、本当に驚いたのだろう、コクランさんは片手で口を塞ぎながら奇妙なものを見たような困惑した表情をこちらに向けていた。


『オレはべつにいーけどね、さっき驚かせたし』


 ぐるぐる喉を鳴らしながら、猫のように目を細めたグラン。むしろご機嫌な様子でもっと触って欲しそうに顔を近づけてくる。


「……店主が無理をしていないのなら、構わないのだが」

「無理なんてまったく! 大切な契約獣に触らせていただけるなんて嬉しいです」


 さっきは許可なく額をくっつけてしまったが、戸惑いながらも私がいいのであればと言ってくれたコクランさんの言葉に、嬉しくなってグランの毛をわしゃわしゃ撫で回す。

 グランはぐるるるると心地よさそうな声を出してされるがままになっていた。


「そういえば、グランはどうやって宿内に入ったんですか?」


 コクランさんが宿に入って来たとき、手持ちの荷物は麻袋一つだけだった。あきらかにグランは入れない大きさだったが、他に思いつく物がない。


「それは……体を縮めていたんだ。袋に押し込めるのは気乗りしなかったのだが、少しの間だけグランには我慢してもらっていた」


 平然と言ってのけるコクランさんに私の頭はますます疑問が増すばかり。押し込めるって、こんなに大きなライオンを押し込めても麻袋ははち切れてしまうだろう。

 縮めるとも言っているけれど、まさか……。


「ち、縮むんですか? 体が?」

「ああ、可能だ」


 どうやら契約を交わして契約獣となった動物は、契約を結んだ相手と意思疎通ができるようになり、通常サイズよりも体を小さく変えられるらしい。逆に自分の限界までなら、大きくなることも可能なようだ。


「初めて知りました……」

「宿屋の人間で知らない者の方が珍しい」


 コクランさんはまた可笑しそうに微笑む。

 宿屋のくせに知らないのかと馬鹿にしているというよりは、本当にただ無意識にこぼれたような自然な笑みだった。


 亜獣人の話題に街の人は触れたがらない。話したとしても嫌な顔をするか、プラス陰口が添えられていた。それでも冒険者街に出かければ陰口を通してでも亜獣人の話題は耳に入ってくるので、常識の範囲内を知ったつもりでいたのだが、完全に自惚れていたみたい。

 まさか動物が魔術薬なしで体を小さくさせられるだなんて予想外である。


『見せてあげようよ〜、コクラン』


 まじまじとその大きなライオンの体を観察していると、ご機嫌よくガウッと鳴き声をあげたグランの瞳が輝いたように見えた。それが気のせいじゃないと分かったとき、目の前には自分の膝にも乗せられそうなサイズの小さな犬――ではなく、小さなライオンがお座りをして私のほうを見上げていたのだ。


「グラン! いきなり何をしているんだお前は」

「キャン!」

「だってじゃないだろう。自分から体に負担を掛けてどうするんだ、まったく……」


 きゅるんと潤ませたキトンブルーのつぶらな瞳に映っている私の顔は、面白いくらいに口を開けている。


「か……」

「て、店主?」

「か、か……」


 途切れ途切れの声と私の肩が震えていたことに気がついたコクランさんは、どうしたのかと傍に寄ってきた。契約獣も特に怖くない、大丈夫だと説明したのに、やはり彼の中ではまだ心配だったのだろうか、その顔からはまだ不安が拭えていない様子だった。

 いきなりライオンが小さくなったのを見て恐ろしいと思われたか? コクランさんの顔にはわかり易くそう書いてあるけれど。違う、そうじゃない。


 ……だって、こんなの。

 こんなのって!


「可愛すぎる!」

「!?」

「クルル?」


 大きいときよりも気持ち柔らかくなった毛並みを撫でながら、グランを優しく持ち上げた私は、深夜ということも忘れ、お客様であるコクランさんの前で大声をあげてしまっていた。


 時刻はすでに深夜過ぎ。

 あれほど轟々と音を立てていた雨は、その時にはすっかりと止んでいたのだった。






ルナンさん、正気に戻ってませんでした。

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