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【コミック版3巻発売記念】魔術薬の保管にはご用心【マンガUPにておまけ漫画更新】


本編更新おやすみ中ですが、今回は12/7発売予定のコミック版3巻(最終巻)発売を記念して番外編を投稿します。


一章が終わったあとぐらいの時系列(カノ&シュカ従業員として加入)コミック版3巻後あたりをイメージして書かせていただきました。


同じくマンガUPさまにて【ある日の朝食】というおまけ漫画が更新されています。




 魔術薬の調合を上達させるには、センスや知識、魔力の操作が大切な反面、数をこなすことも重要である。

 師匠から口酸っぱく言われていたので、私も練習は欠かさずにおこなっていた。


 失敗は成功のもと、なんてことわざを前世ではよく耳にしていたけど。調合練習によって生み出されたいわゆる未完成な魔術薬が旧館の備品庫にはある。


 再利用するもの、完全な廃棄するものと分けていたけれど、従業員も増えることになって自分だけが使う場所ではなくなったのだし、これを機会に整理しようと思い立ったのがつい先ほどのこと。


「けほっ、けほっ……どうしよう」


 備品庫に座り込んだ私は途方に暮れていた。


 いつもより高い自分の声と、低くなった目線に、背筋には冷や汗がたらりと流れる。

 それからおそるおそる、自分の手のひらを見た私は、思わず声をあげていた。


「体、小さくなってる……!」



 ***



「はははは! お前、なんだそのこじんまりとした姿は」


 この緊急事態を知らせるためラウンジに向かうと、昼寝をしていた師匠から盛大に笑われてしまった。


「笑いごとじゃないよ……」


 見覚えがない魔術薬の瓶を開けて中身を確認しようとしたら、思いのほか臭いが強烈で、手を滑らせてしまった。

 浮遊術で瓶が床に落ちることはなかったけれど、中身の液体が半分ほど体にかかってしまい……目眩がしたと思ったら、いつの間にかこの姿になっていたのである。


「幼児化になる魔術薬だな。前に一度、試しに調合してみろと言ったろう。保管していたことを忘れておったな」

「間違って使ったりしたら大変だと思って、調合したその日に処分したはずだったんだけど……一個だけ残っていたみたいで」

「なんか変な感じ。ルナンがこんなに小さいなんて」


 私も変な気分だよ。いつもは同じくらいの身長のカノくんからこんなに見下ろされるなんて。


「いまのルナンさん、シュカと同じくらいだねっ」


 そう言って隣に並んでくるシュカちゃんは、どことなく嬉しそう。たしかに年齢でいったらシュカちゃんと同じ8歳ぐらいの見た目なのかな。


「……業務に支障はでないけど、この姿をお客様に見せるのは」


 と、言っていたそばから、カランコロンと扉のベルが鳴った。


 振り向くとそこには、コクランさんとグラン、キーさんとコンが立っていて、全員の視線が私に注目していた。


「店主、か……?」


 動揺したコクランさんの声音に、ひとまず私は事情を説明することにした。



「つまり……幼児化の魔術薬の効果で一日はその姿のままということだな」

「はい……あの、いきなりて驚かせてしまい申し訳ございません。姿はこんなですが、お食事はいつも通り出せますし、普段と変わりなく過ごしていただけますので」


 とはいえ店主がいきなり子どもの姿になるなんて、それだけで普段とはまるっきり違っているんだけどね。


『すごいすごい! ルナンがちっちゃくなってる!』

『子どもルナンかわいい〜』


 小型化したグランとコンは、幼い姿の私が面白いのか、二匹して興味津々にこちらを見あげていた。……くっ、可愛いのは安定にあなたたちだよ!


「お嬢さんが調合したって言ったけど、とんでもない効き目だね」

「練習がてらに調合したものだったんですが、こんなことなってしまいすみません……」


 肩を落として頭を下げると、キーさんは少し間を置いてから「ああ、うん、いや」と曖昧な返答だけをした。

 もしかして私が子どもの姿だから、いつもの調子が出せないのではないだろうか。


「俺たちにできることがあればなんでも言ってくれ。普段世話になっているんだ。その、こんなときぐらいは力になりたい」

「コクランさん……ありがとうございます」


 優しいお言葉に恐縮しつつ、私は通常通りの業務に努めた。

 目線が低くて落ち着かないけれど、魔女術があるのであまり不便はないだろうから。


「久しいな、その姿は。お前がうまく箒で飛べずに泣きべそをかいていたのが、それぐらいの歳の頃じゃったか」


 思っていた通り業務にはまったく支障が出なかったものの、こんな姿だからか師匠にはいつもよりやけにからかわれてしまった。


「そろそろ夕食の下ごしらえをしないと……」


 そうして明日までの辛抱だと耐えながら、二階の休憩スペースの清掃を終わらせ、食堂へ移動しようと階段を降りようとしたときだった。


「……わっ!?」


 段差の感覚が普段と違って遠くに感じ、私は階段を踏み外してしまった。

 そのままバランスを崩した私の体を、誰かが後背後から力強く引き上げてくれた。


「……っ、店主、大丈夫か」

「コクランさん!?」


 両脇を抱えるようにして助けてくれたのは、コクランさんだった。

 こちらを覗き込むようにして窺う瞳は、今も心配そうに揺れている。


「すみません、大丈夫ですっ」

「そうか……」


 安堵した様子で私をそっと床に下ろしてくれたコクランさんは、まるで幼い子どもと接するように片膝を立てて目線を合わせてきた。


「……足を挫いたりはしていないか?」

「はい、まったく。ありがとうございました」

「それなら、よかった。階段は危ないから、気をつけてくれ」

「そう、ですね……危ないですよね」

「ああ。怪我でもしたら大変だ」


 諭すような声音は、あきらかに子どもに向けるような柔らかさを含んだもので。それはシュカちゃんを前にしているときの優しげな年上のお兄さんそのものだった。


 中身は同じとはいえ、見た目につられてコクランさんから保護者のような眼差しを向けられていることに居た堪れなさを感じてしまう。


「……いや、すまない。今のは、その」


 コクランさんも自分の接し方に気づいたのは、はっと我に返ったように弁明しようとしていた。


「こちらこそ、なんだかすみません……」


 思わず謝り返してしまった私は、魔術薬の保管にはこれまで以上に厳重の注意を払おうと、より強く心に留めたのだった。

 

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