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【コミック版2巻発売記念】アニマル談話



 契約獣。

 それは、亜人が魔力を用いて契約を交わし、主従関係が成立した動物の別称。

 お互いの信頼があってこその関係であり、大抵の亜人は契約獣をとても可愛がっていた。

 そして同じく契約獣もまた、自分を大切にしてくれる契約主には信頼で応える。


 自分の契約者が一番。

 そう思っている契約獣は少なくない。




(ん? あそこにいる毛玉二匹は)


 契約獣とはまた違う、ルナンの使い魔である師匠は、ペンション内の中庭にある小川でグランとコンを見かけた。


 どちらも小型化した状態で地面に座っており、ふわふわした毛並みをしているので後ろからだと毛玉が並んでいるようにしか見えない。

 なんとも気が抜ける光景である。


(ルナンがおったら、また目を輝かせそうじゃな)


 ふとそんなことを考えながら、師匠は中庭にある一本の木の枝に軽々と登り、今日の昼寝はここにしようと決めてくつろぎ始める。


 グランとコンがいる場所からは少し距離があったが、広範囲の音を拾える耳のせいで、二匹の会話も丸聞こえだった。


『コクランとキー、今日は二人でギルド行っててひまだなー』

『ひまだ〜』


 二人の契約主は北街区のギルドで依頼を受けているらしい。

 ちなみにルナンは今、買い出しのため冒険者街に出ていた。


 そういえば出かける間際に「グランとコンは部屋でお留守番してるみたいだから、念のためよろしくね」と言っていたような気がする。


 部屋にいるはずの二匹が中庭にいるということは、開いた窓から外に出てきたのだろう。


『なんかオレ、動きたいな。じっとしてるの飽きた。追いかけっこする?』

『コンたちだけで?』

『うーん』


 その時、師匠が横になっていた木の他の枝がバサバサと揺れた。

 鳥が留まっていたのだろう。天高く飛び立った鳥を何気なく目で追っていれば、下から強烈に視線を感じた。


『いたー!』


 グランの尻尾がご機嫌に揺れる。

 会話の流れは把握していたので、向けられた視線の意味ももちろんわかっていた。

 だからこそ師匠は二匹から背を向け、改めて昼寝に入ろうとするが、そう上手くはいかなかった。


『『あーそーぼー』』


 そんな声が飛んできて、師匠はげんなりと二匹を見据えた。



 ***



『ほら、わしの勝ちじゃ』


 と、グランとコンから追いかけっこに誘われ、追いかける側に回った師匠はあっという間に二匹を捕まえてしまった。


『もう一回!』

『一度だけと言ったろう』

『えー』


 グランは未だに臨戦態勢、コンは地面にへたりながら「きゅう」と鳴き声を漏らした。どちらもよほど悔しかったようだ。

 一応二匹もこのペンションの客である。

 たまにはルナンを真似て要望を叶えつつもてなしたのだが、こんなに食いつかれるとは思わなんだ。


『コクランとやる時はもっといい勝負だったのに。捕まるけど』

『ほう。お前の主は相当やるようじゃな』


 また追いかけっこをするのは面倒なので、話に乗ってみることにした。コクランのことになると、グランは得意げに鼻をふふんと鳴らす。


『キーちゃんだって、こうやって蹴っただけで魔物倒せるんだ〜』


 キーの真似をしているのか、コンは小さな後ろ足をちょんと伸ばして宙を蹴った。


 そのうち二匹の主自慢が始まる。

 競っているというよりは、ただ二人の栄光を互いに称えている平和的な主張だった。

 前々から思っていたが、グランとコンの思考は随分と幼い。具体的な年齢はわからないが、おそらくどちらもまだ完全に成熟してはいないのだろう。


『キーちゃんね、この間女の人に囲まれてた。コンはあんまり好きな匂いじゃなかったけど〜』

『へー。やっぱりキーってモテモテだ。コクランは女の人とあんまり話さない。あ、でもルナンとは話す』


 気づけば二匹の会話は女性関係の話題になっていた。

 ルナンの名前が出ると、グランとコンは揃って師匠を見つめる。

 そのつぶらな瞳は「キミも主の自慢していいんだよ」と言っているようだった。


『ルナンって強い?』

『戦える?』


 やはり相手を見定めるとき獣は強さを基準にするのか、二匹はそんな質問をしてくる。


『戦えないこともないが、進んではやらんな』

『そっかー』

『へー』


 グランとコンは興味深そうに耳をひょこっと動かした。 


『でも、ルナンのご飯はおいしいから、オレ好き。コクランも食べるとき嬉しそうなんだ』


 食事を思い出しているのか、グランの尻尾は軽快に揺れている。コンも余ったパラードタルトを貰ったことがあるようで、こくりと小さく頷いていた。


『まあ、そうじゃな。あやつが作るものは、美味なものしか思いつかん』


 ルナンが大切にしている「おもてなし」とやらも、普段は言わないが感心している。いくらお金が発生しているとはいえ、他人をあそこまで気にかけられるのは元々の性分なのだろう。


 それによって面倒事に突っ込んでいったり、巻き込まれることもあるが……。

 そんなルナンのことを、師匠は師匠なりに気に入っていた。



あっという間に11月に入りました。

来週の11/7にコミック版異世界ペンション2巻が発売です!

(今回の話の一方その頃コクランとキーは的なものを、コミック版2巻の書き下ろしで書かせていただきました)


予約も始まっておりまして、表紙を公開しているところもあるみたいです…!

今回もコミックをご担当されている野宮先生の素敵なイラストにうっとりしています。

よろしくお願いします。

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