とある国王の話
これは、ある国王の話である。
A国の国王は優しかった。
仕える者、家来だけでなく、民に対しても。
だから、住民は朝、7時に城に集まり、王を称えた。
周りの民は、収入のない者にも、税を課せられたが、
Aは民に税を課さなかった。
それどころか、逆に私財を民に分け与えた。
しかし・・・
そんな国は長く続かない。
最後は隣国に滅ぼされ、ギロチンにかけられ、首をさらされた。
残された従者は王の遺産を隠し、像を作った。
今も民を見守っているという。
B国の王は厳しかった。
彼の民に労働を課した。
それは堤を築いたり、耕地を開拓するものではなかった。
彼の趣味のためだろう。
「城から桜が見たい」と言ったそうだ。
三千本の桜が城の周りを埋め尽くした。
しかし、Bは満開の桜を王として見ることはなかった。
桜が芽吹く前に城を追われていた。
しかし、『Bの桜』として後世の観光地となったそうだ。
これらの話は事実である。
教科書に載らない歴史・・・
「Aコースはいかがでしょうか」
地味ではあるが、仕立ての良いスーツを身にまとった男が言った。
「ふ~ん」
夫婦は顔を見合わせる。
「最後がな・・・」
「これは私がお勧めした結末です。
『ギロチンは良かったよ。いい思い出になった』とお客様に満足していただきました」
男は笑顔で答えた。
「でも、ギロチンはね~」
ふかふかのソファーに背を任せ、夫婦は見つめ合う。
「だったら、Bコースはどうでしょう。
少し値は張りますが。
自分の名前を残すこともできます」
男は豪華な装丁のメニューを見せる。
夫はメニューを見つめる。
「じゃあ、50億円ので」
夫はメニュー指を差す。
「『XXの池』としましょう。
またこの国に名所が誕生します。
お買い上げありがとうございます」
男は立ち上がり、深々と頭を下げる。
「ちょっと待って」
夫は手で止める。
男はドキリとした。
金額が大きいだけに躊躇する客もいる。
だが、彼もプロ表情には出さない。
「『結子の池』にしてください。
妻への誕生日プレゼントです」
男が言うと、妻は彼の胸に飛び込んだ。
「ありがとうございます。
それでは、国王戴冠式は2026年4月1日とします。
在位期間は六か月、前々日に新潟県X市の城にお越しください」
男は契約書を二人に渡した。
『国王になってみませんか?』、
これは名探偵藤崎誠が発案した地域活性化プロジェクトの一つだ。
住民参加で、国王になれるのだ。
それも当然、住民にはそれなりのギャラが払われる。
豪華な西洋風の城で、王様気分が味わえる。
詳しい話を聞きたい?って。
でも、あなたには無理だ。
ネットで検索しても、ヒットしない。
これは、富裕層向けなのだ。
日本だけでなく、世界各国の。
ジュリアは世界各国の富裕層にパイプを持っている。
そう、これは藤崎がジュリアのために発案したモノだった。