表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【更新不定期化】AllFreeOnline~才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します~  作者: 山田 武
偽善者と生命最強決定戦 十三月目

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

814/2525

偽善者と一回戦第三試合 後篇

孤独だった少女は、力を欲する

身に余る力が体を蝕み、癒すために傷つける

無限の苦痛に耐えながら、挑むのは劉の帝王

覇を成す英なる霊は、苦しむ少女を憂い闘う

終わりが訪れる時、舞台に立つのは──



「不味いな、ミシェルの奴……」


「やはり、リスクのある代物か……」



 会話を訊き、首を傾げる王子(ムント)王女(リント)

 ジークさんは優勢に見えるミシェルの危うさが、どうやら理解できているようだ。



「劉の力は人の身にあまる。たとえ勇者と魔王の娘だろうと、あの娘は生命としての限界には達していない。本来なら、耐えがたい激痛で倒れているはずなんだが……」


「それに耐えうる、経験をしてしまっているというわけか」


「強すぎる肉体が、終わることを否定しているんだ。おまけにあの剣には、劉の血で力を得る効果もあるからな……」



 中には劉眼を与える能力もあるのだが……実際、ミシェルの瞳孔は縦に収縮している。

 すでにそこまで親和性を上げ、劉の力を引きだしていた。



「まだ勇者としても魔王としても未覚醒のまま使えるのは、想定外だったな。因子を取り込むことはできないだろうけど、魔力の吸われすぎになりそうだ。あれ、かなり吸われるからな」


「そんなにか? お主たちを見ていると、その程度では驚けぬ儂が居るのだが……」


「例えるなら──あれを一秒使うだけで、従来の宮廷魔法士数十人単位の魔力が減る」


「……なぜ、耐えられるのじゃろうか」



 それは俺が訊きたいよ。

 眷属たちが秘めた可能性の力は、凡人たる俺にはまったく理解できないんだから。


 俺は与えられた力を、その力が振るえる限界までしか使うことができない。

 だが才ある者たちは、その限界すら超えて力を振るうことができる。


 ──ミシェルに起きている現象もまた、そうしたことと同じなのだろう。


 本人の意志と剣の機能が魔力を爆発的に増幅させ、シュリュから血や魔力を奪おうと苛烈な攻撃を行っている。

 吸う度にミシェルは劉の力を理解し、肉体の強化へ理解した力を回す。

 ……無限連鎖の類いだろうか。



「さっきも言ったが、それには限界がある。流血だけじゃシュリュは止まらないし、重ねれば持たなくなる。いつまで持つか……そこが勝敗を決めるだろう」



  ◆   □   ◆   □   ◆


「朕の眼、翼、血……よくもまあ、耐えておる。未完の品とはいえ、朕の力がふんだんに揃えられた一品。其方も限界であろう? 降参するがよい」


「まダ、マだヤレる!」


 激しい頭痛がミシェルを襲っていた。


 減りすぎた魔力を劉の力で補い、劉の力を用いてシュリュから魔力を奪う。

 処理能力が落ちた思考は限界を迎え、舌も回らなくなっていた。


「……その覚悟は良し。しかし、このままでは堕ちるぞ」


「?」


「ドラゴンの血は人を酔わす。朕の覇道を阻む者には、そうして血に酔って狂う者もいたものだ……奴らもまた、今の其方のような言動をしていた」


 古来より人間たちは、さまざまな理由でそれを求めた。

 不老不死、魔力増量、錬金触媒……用途はバラバラだが、常に求められている。


 ドラゴンたちの血には、膨大な量の魔力が籠もっている。

 時にその血を流すドラゴンたちですら、身の丈にあまる行動を起こしてしまう程、所有者に多大な幸悦感を与える代物。


 そして、驕った果てに……悲劇を生む。

 死を以ってそれを知るまで、酔った者たちは止まらない。


「“劉の脈動”」


「……心臓まで、まだ止まらぬか」


 擬似的に劉の心臓を生みだし、さらなる魔力強化と回復を促すミシェル。

 すでに思考は放棄した……意志はとっくに定めていたから。


「──カたナキゃ、勝たナキャ……」


「面妖な……運営よ、試合はどうなる!」


 シュリュは大声を上げ、ミシェルの異常を訴えかける。

 何もしなければ、今後の生活に支障が起きる可能性があった。


≪──えっと、主催者様からのご連絡ですけど……≫


≪『任せた』、だそうです≫


 劉の血のことは劉に任せるべき。

 傍観を決め込んだメルスは、ただ一言だけシュリュにメッセージを送る。


「其方が生みだした剣であろうに……」


 呆れるように、ため息を吐く。

 だが、その言動とは裏腹にシュリュは自身の口角を吊り上げていた。


「任せるがよい。朕が成すべき覇道に、狂う道化など必要ない」


 ミシミシと姿を変え始めるシュリュ。

 人としての形は崩壊し、巨大な獣がその場に現れる。


 ──劉。


 この世界にたった一匹。

 理から外れた孤独なドラゴンが、紛い物の劉を救うために現界した。


『一撃で終わらせる。観客よ、縛りをルールへ入れるでないぞ』


 口内に膨大な量の魔力が集まる。

 ミシェルが心臓を手に入れ、集めた魔力など比べることもできない。


 圧倒的な真の劉の力、永久機関に近しい精製速度で魔力が生みだされていく。


『一度やってみたかったのだ。結界があれば壊れはせんだろう──“劉神雀火”』


 放たれたのは、紅蓮の炎。

 煉獄を生みだし、世界を終わらせる破滅の息吹。

 あらゆる概念を喰らい、炎はどこまでも広がろうとする。


「“聖劉迅翼”、“邪劉迅翼”」


 ミシェルは本能的に危険を察知し、二種類の翼を広げて炎から逃れようとする。

 劉の力によって強化された翼は、光に近い速度での移動を可能とした。


『無駄だ。朕の炎から逃れることは決して許されぬ』


 炎がうねり、どこまで伸びていく。

 やがて、逃げきれなくなったミシェルの翼へ炎が接触し──魔力を燃やす。


 翼に籠めた力の分、『燃える』という現象から逃れようと粘る。

 その間に翼を切り離し、対応策を練る。


「──“聖劉迅盾”、“邪劉迅盾”!」


 盾を球体状に生成し、自身を包み込む。

 翼が一時的にとはいえ抵抗できたことで、勝機を見出したミシェル。


 盾で時間を稼ぎ、魔力を溜めこむと──再び動きだす。


「“聖劉迅剣”、“邪劉迅盾”」


 剣に聖気と劉気を籠め、会場の至る所へ足場となる盾を展開する。

 炎が盾を燃やすことも計算に入れ、踏める箇所を踏んではシュリュの元へ向かう。


「“聖劉迅盾”、“邪劉迅盾”……」


『二発目だ──“劉神雀火”』


「……“邪劉迅剣”、“聖劉迅盾”」


 自身の横に盾を生みだし、立体的な機動を行いさらなる炎を避けていく。

 翼はすべて燃え尽き、二発目の炎で盾もすべて消え去った。


 宙を舞うミシェルの眼前には、漆黒のドラゴンが咢を開いて待ち構えている。


『よくやったぞ、誇るがいい。其方は立派な劉殺しである。安らかに眠r──』


「“擬似劉帝化”」


 シュリュの言葉を遮るようにして、ミシェルの体からオーラが噴きだす。

 メルスの干渉で剣に宿った、仮初の劉帝となる力。


 劉とは別に、帝王の能力を使用者に与えるそれは──


「……諦めない。私は、まだ闘える」


『余計な仕掛けを入れおって』


 長としての正しい判断を使用者に齎す。

 暴走した思考も冷静になり、ミシェルは正常な判断を行い始める。


“擬似劉帝化”を行うことで読み込めた、剣に秘められた最後の力。


「──“劉気解放”」


 ミシェルの中から、すべての劉の力が抜けていった。

 そしてそれは……剣へ纏わりつく。


「終わり!」

『そうはさせん!』


 三度目の炎が、振るわれた剣とぶつかる。

 瞬間、世界は眩い光に包まれる。


 光を失い、音だけが残った世界。

 激しい爆発音がその中で木霊し、沈黙が訪れる。




 そして、両者共に立っていた。

 ミシェルは剣を杖にしながら、どうにか。

 シュリュは人化した姿で、片膝を突いて。


≪──勝者、シュリュ選手! この激しい試合を勝したのは彼女だ!≫


 だが、明確な差が存在する。

 ミシェルの立っている場所は、舞台の外であった。


「……負けちゃった」


「朕もここまで苦戦したのは初めてだ。()き試合であった」


「……苦戦は、初めて?」


「メルスを入れるでない。アレは一種の理不尽であろう」


「ぷっ……そうだね」


 笑いあい、楽しげに語り合う。

 こうして第三試合の幕は閉じたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ