偽善者と凡才の思考
夢現空間 修練場
「……さて、先日行われたアルカとの決闘によっていくつか学んだ。やはり、プレイヤーとはいえ眷属との闘いは好い経験になるんだよなー」
《でしたら、わたしたちとも──》
「集団リンチでフルボッコのオチしか見えないんだもん。そこはせめてさ、数人の補助が無いと俺心細いよ!」
生みだしていた魔法を消してしまうほど、つい焦ってしまう。
最初は【傲慢】に受けてしまったが、さすがに今となってはあの頃に驚いている。
よくもまあ、勝つ気で受けたな……と。
「まあ、単独で闘って反省したことを直すわけだし、今回は俺だけで考えてみるさ。能力補助も必要ない」
《畏まりました》
眷属が一人補助に入るだけで、俺の戦闘能力は飛躍的に向上する。
そうなるように武具っ娘たちは生みだしたのだから、当然と言えば当然だが。
それはともかく、“無重力”の魔法を行使してふわふわと宙に舞う。
体の制御はほぼ全自動でスキルが行ってくれるので、俺が気にする必要はない。
「はてさて、思考の数・質ともにアルカにボロ負けだった。努力家や天才と渡り合うためには、もう少し進めないと勝てない」
一握りの天才は、ある意味天災だ。
一般的に天才と呼ばれる努力家たちすらも下に見下ろし、己がレーゾンデートルを満たすために犠牲を厭わない。
努力家たちは努力の果てに天災に足掻こうともがき、大衆から天才として認められるまで自らの才を磨き上げる。
これが世にいう──『やればできる』というヤツだろう。
しかし一握りの天災が居るように、世の中にはどうしようもない無能が存在する。
足掻くことすら許されず、努力した先に何もない非凡の才を秘めた凡才。
勤勉も愚者も関係なく、決して認められることのない天才──無の才を持つ者。
「あっ、俺はそこまでじゃないぞ。意味はなくとも才能はあるし、そこまでダメなら眷属にも見放されている」
《仮定はともかく、メルス様が見放されることはありませんよ。才が無くとも人は救えますし、才が無かろうと皆様を救ったのは間違いなくメルス様です》
「……まあ、メルスがな」
アバターを使ってこっちに来れたからいいものの、俺が俺としてこの世界に来ていたなら……選択は確実に変わっていただろう。
「なあ、アン。俺が俺──メルスとしてじゃなく、ただの地球人としてあの島に飛ばされていたなら──」
《即死します。むしろ、いっさい生き残る未来などなく死に絶えます》
うわー、ストレートに言いやがったよ。
「……そこ、もっとマイルドに表現できないのかな? 俺、心が痛いよ」
《こういったことをはっきり伝えなければ、相手の想いに響きませんので》
「いや、響かせなくて良いと思います!」
つまり……そう言うことだ。
状況に応じて態度を変える、主人公の器ではないと証明された。
別にモブだからそこはいいんだが、そうであったならばすぐに死んでいたのか。
「体に震えがいっさいない……マジで俺としての感情が無いのかな? というか、実感が湧けてないのか」
《メルス様、それは{感情}に負の面が強いものが──その状況に適したスキルが内包されていないからでは? と考えています》
「俺としては、自分が能天気だからという説が一番嬉しいんだが……それだと、俺が発露できる感情の数が少なさそうだな」
大罪と美徳、それに正義。
あとは……眷属が目覚めたスキルと拾い物のスキルがいくつかあるぐらいだ。
前者は俺が習得しているのではないし、今も取れないのだが、眷属との結び付きから借り受けることはできる。
「残りは大神様が持っているとは思うが……あとから取ったスキルが強く発露したことって【知識】か【知恵】、もしくは【智慧】ぐらいしかないよな」
R18な夢を魅せた翌日のことだ。
やけに賢者モードだと思えば、眷属たちから接続されたそれらのスキルが俺の賢者としての冴えを補助していた。
「…………って、魔法の話からよくもまあここまで派生したものだ」
《思慮を深めなくて宜しいので?》
「これ以上は詮索しても何も閃かないさ。欲しけりゃ奪え、スキルか人材。知りたきゃ向かえ、神の元へ。これだけだろ?」
《無駄に厨二っぽく言いましたね》
それならもうちょっと凝ったことを言う。
俺はモドキだから、そこまでらしいセリフは言わないさ。
話を切り替え、魔法の練習に入る。
恐怖を感じたわけじゃないが、あまり目を向けたくない話題であった。
ならなんであそこまで考えたんだよ、と思うがそこは馬鹿だから、といった回答で脳内の全俺が納得したのでスルーの方向で。
「精霊も死霊も召喚獣も、いっさい使わないで闘ったからな。あくまでマイスペックの限界を調べたが……思いの外浅かったな」
並速できる数は少なく、並列か高速かを分けた方がよいと思えた。
無論、アルカはどちらとも息をするようにできるのだが……俺は眷属が最低一人手伝ってくれないと実用的ではない。
「修練用の魔道具を作成、脳に過負荷をかけての日常活動を行うか。{感情}でそれが表に出ることはないし、段階は踏んでおく」
話が逸れた思考に関してはここまで。
次は、魔法に関する考えを深めていこう。





