02-44 ギルドカード
加筆・修正しました(2019/05/21)
ネイロ王国にやって来た。
「うん……やっぱり違うな」
ただし、そこに古びた壁や地面に敷かれた魔法陣など存在しない。
ここは現在のネイロ王国、イベントによって異なる未来を歩んだ史実とは異なる国だ。
「まずは調査かな?」
食べ歩きをしながら、店の店主たちに軽い情報収集を行う。
プレイヤーが過去の世界でとはいえ、アイデアを提供したからだろうか? 若干見覚えのあるような品々が売っている。
ただ、知っている料理なら【生産神】の恩恵付きで何度も試して作成済みだ。
なので今回は、できるだけもともとあったような品をチョイスしていく。
「──この、桃兎の串焼きをください!」
予想通り、街は変わっているが変わっていなかったことが分かった。
史実として語られた悲劇──魔物たちと邪神教徒による壊滅は、神々の使徒たちによって防がれた……的なことを誰もが口を揃えて言われてしまう。
「……神々の使徒、ねー」
少なくとも彼らはそう認識している。
神々が遣わせた祈念者たちが、国に起きた危機から救ってくれたのだと。
祈念者という存在は、別世界から肉体を得て活動をしている。
そしてその身体は、神様が創造してくれたものという設定らしい。
「本当、嫌になるな……って、旨いな」
「おっ、イイこと言ってくれるじゃねぇか」
「だから、別の味も味わいに来たんだろ。約束通り、もう五本追加で頼む」
「あいよっ!」
最初に買った焼き串屋に戻って、集めた情報を纏めてみる。
だがまあ、そんな面倒臭そうな陰謀よりもその味が忘れられないわけで……可能な限り注文させてもらった。
「また来てくれよ!」
「ああ、また金が溜まったらな」
ペロリと肉を平らげ、串は魔法で綺麗にして“空間収納”に仕舞っておく……いや、投擲とかに使えるし。
そして、今回訪れた本当の理由を達成するために目的地へ向かう──
「ああ、こっちも改築されてるな」
建物に掛けられた看板には、こう記されている──『冒険者ギルド』と。
そう、俺がやってきたのは冒険者たちが屯するギルドである。
「やっぱり、情報を集めるなら偉い人からが一番だろうよ」
それを言うと、国のトップに訊かなければならなくなるが……やっぱり、知っている分野に違いがあるのかもしれない。
俺の訊きたいことならば、こっちに居るあの人からの方が欲しい情報があるだろう。
まずは、アポを取るところからだな。
◆ □ ◆ □ ◆
「わざわざすまなかった、こういう時間を用意してもらって」
「君がいずれ来ることは、とっくに分かっていたさ。それこそ……十年前からね」
「説明した通り、ということだ」
俺が会いに来たのは、ネイロ王国の王都支部のギルドマスターであるアーチである。
相も変わらずイケメンフェイスの彼は、長寿種である森人……この再会があることは予想していた。
「けど、本当だったんだね。あのときとまったく変わらない……いや、ちょっと成長したみたいだけど。見た目に関しては、いっさい変化がない」
「俺から見れば、そっちも変わっていないように見えるんだが?」
「他の人からそう言われても、私のことは私自身がよく理解しているよ……なんせ十年だよ、あのときと同じような動きはもう無理だろうね」
「まだまだ現役で行けるだろ」
魔力の衰えなどはたぶんない。
あくまで身体的な部分が、鈍ってしまったのだろう。
……どうせなら、顔の方も少しは衰えてくれればよかったのに。
さて、本題に移ろう。
そう伝えるとアーチは、引き出しの中から一束の書類を取りだした。
「君に頼まれた通り、あの頃からの情報を纏めておいた。この国、この都市で何が起きていたのかをね」
「ああ、先に充分な依頼料を払っておいて正解だった」
「期待していたからね。それに、興味深いとも思っていた」
まあ、十年という期間もやらせるのだから事前に説明はしておいた。
当時は仮説ばかりだったが、今となってはかなり正しい情報を伝えていた気がする。
置かれた紙の束を受け取ると、一度プレイヤー特権である[アイテムボックス]の中に収納する。
すると、言語理解スキルが対応する限りの翻訳がされたテキストデータを見れるようになるのだ……うん、全部見れるみたい。
「ジークさんは……亡くなったんだな」
「惜しい人を亡くしたよ。この感覚だけは、何回味わっても辛くなる」
「そう、なのか……」
はたして、人は言えるだろうか。
つい先日も、そんな話題の人物と野球拳の話題で盛り上がったなど。
それを奥方に嗜められ、二人揃って正座をしていたと……。
「君の種族は天使に属するものだったね? 天使は私たちと同じ長命種、いつかは別れを迎えるかもしれない……そのことは、覚悟しておいた方がいいと思う」
「……気をつけておく」
どこに壁と障子と目と耳があるか分からない、過去の王都に関してはこちらのアーチにはまだ説明できない。
対策については、過去のアーチと……って頭がこんがらがる!
閑話休題
亡くなったこちらのジークさんの代わりとして、こちらでは息子が王になっている。
元の歴史と異なり即位した彼は、父であるジークさん同様に潔白な人だったようで、さまざまな改革をしたらしい。
──奴隷制度もまた、変わったんだとか。
完全には廃止できない、それをしては貧困に苦しむ者が増えてしまうからだ。
しかし、非合法で売られる奴隷たちはこの国から居なくなったようである。
こういう話は街の人々からも聞いていた。
ジークさんの跡を継いだ、とても自分たちに優しい王様だと。
「──十年、いろいろあったんだな」
「三年前なんかは特にね。神代の盟約によって、未開の地のはずだった神域に突如現れた町。世界中の人々に伝わった宣託、そして予期された君たちの誕生」
「それで、今に至ると」
「三年前は数も少なかった。けど、もう一度一年前に宣託が来て、もっと多くの者たちが現れると……それが祈念者だとね」
三年前のヤツはβテスト版だろうか?
たしか、あったらしいし……応募しようとしてたんだが、結局ギリギリに応募しようとした挙句、はがきが無くてできなかった。
あれ以降、うちにはハガキが常備されるようになったよ。
「この時点で、祈念者という存在の特異性を知ることになった……なにせ、神殿で蘇るんだからね。否が応でも理解させられた」
「町との情報交換の手段があったのか?」
「ギルドには、そういうシステムも確立しているけど……これは単純に、その様子を神々が噴水に投影してくれたからだよ。たぶん、世界中どこでも見れたんだろうね」
「観られる側も大変だな」
まあ、始まりの町にも投影されただろうから、完全に知らないというわけでもないんだろうが……それでも、全世界にアップと言うのは現実だとどんな羞恥プレイとして判定されるのだろうか?
などと会話をしていると、突然アーチが俺にギルドカードの提出を求めた。
「何をする気だ?」
「私からのサービスをね。十年の間に、ギルドにも変化があったんだよ」
「……変なことしないでくれよ」
Sランクとなり、ブラックカードとなってことでデザインを気に入っていたのだ。
今さら虹色の光沢を付けられるとか、無駄なオプションは必要ない。
「もちろん、そんなことはしないよ──こうするだけだからね」
判子型の魔道具を、ギルドカードの上に押し付けていた。
受け取って確認してみるが、判子が付いた跡は残っていない。
「魔力を流してみなよ」
「……なんだ、この音譜マーク」
ネイロ王国だからか、『♪』がホログラムとして浮かび上がっている。
そこには五つの枠が存在しており、その一つにマークが映っているイメージだ。
「これは、ネイロ王国とその支部のギルドマスターが君を認めた印さ」
「何にだ?」
「ランクL──レジェンド級にだよ」
「……そんなのあったか?」
最大はSであり、それ以上は無いとヘルプ機能には記されていたはず……あっ、いつの間にか追記されてた。
「祈念者の出現から、各地でさまざまな変化があったんだ。これまで確認できなかった新種の魔物、新たなスキル、表舞台に顔を出していなかった強者たちの台頭……まあ、そういう理由もあって、ランクが増えたんだ」
「……で、この判子は?」
「見ての通りさ。これを五つ集めて試験をクリアすれば、君も晴れてランクLの冒険者になれるよ」
「難易度高くないか?」
国とギルドが、まずソイツの人格やら使い勝手を調査する──しかも五回。
媚を売っているような輩では、間違いなく五つどころか三つも難しいだろう。
「二つ以上あれば、Sランクの中でも優れているという証拠になるよ。一つなら、どうとでもなるからね」
「ああ、今それを体験しているからよく理解しているつもりだ」
「君は特別だよ。なにせ、邪神教団の一人を単独で倒したんだろう? しかも、邪神の欠片を降した……間違いなく、力だけならそれで合格だよ」
「やったことを否定する気はないが……これ以上、集める気はないぞ?」
さすがに目立ってしまうので却下する。
特典はSランクの分で充分だし、偽善者は謙虚でいるべきだ。
「そうかい? それは残念だよ……」
「それじゃあ、俺はもう行くからな」
アーチの返事は聞かずに、さっさと部屋から出ていくことにした。
……特典を言われてしまえば、心が揺れ動いてしまう気がしたし。
「君なら、きっと……届くはずだよ」
次回より三章突入! ……修正の結果、いつの間にか章となっております
現界する二人の少女、そこに関わる謎のノイズマン
はたして、彼女たちの願いはAFOに叶えられるのか!?
気になる方は、このまま次章を!





