偽善者と増えないメンバー
「メル、何かしました?」
「ん、なんのこと?」
「町にいるヤの付くご職業っぽい方々が、先日よりも減っているような気がして……」
「……キノセイダヨ」
まったく、クラーレも変なことを言うな。
仮にそれが事実だとして、俺にどういった関係があるというんだ。
俺は俺、ヤの方々はヤの方々さ。
……決して、ほとぼりが冷めるまで伝えなかったわけじゃないよ。
さて、あれから地球では一日が経過し、学校を終えたクラーレたちがログインしてきている。
そこまでに時間のズレがあったので、その短期間にお二方が『天粉』関連の問題を完全に終わらせたのが実状だ。
お蔭で、思考停止状態の浮浪者やヤの付く下っ端が観光客に絡むといった問題がなくなり、治安が少し安定したとも言える。
「ますたーたちは、何をしていたの?」
「わたしたちは……ここの情報を調べていましたね。なんだか掲示板で、二つの意味で物凄く怪しい情報を見ましたよ」
「…………どんなの?」
「錬金術を使えるプレイヤーだったんですけど、町の方々に売っていたアイテムでケチを付けられて捕縛されたという案件です。最後にどうなったかだけは、掲示板に晒していなかったんですけど……知ってますよね?」
「し、シラナイヨ」
クソ、あの野郎情報を出しやがった。
もう少し、念入りに教え込んどいた方が良かったのか……ハッ!
「──その反応からして、やっぱりメルが何か関わっているみたいですね」
「どど、どうしてそう思うのかな?」
「メルが自称偽善者で、わたしたちが町に来てから起きた事件だからです。それなのに、メルを疑わない方がどうかしています」
そこまで言われると……納得するけど、心が痛くなってくるな。
俺の偽善活動に対する認識が高いことを喜ぶべきか、それとも落ち込むべきか。
俺的には、前者なんだけど。
「ほ、他に情報は無かったの?」
「あとは……別の大陸に関する情報ぐらいでしょうか? 船もしっかりと動いてますし、船員から情報を聞きだせたプレイヤーもいたそうです」
「おおっ、別大陸! 海外には私、行ったことないんだよ!」
終焉の島? あれは漂流だ。
行ったわけじゃなくて、逝っただけだろ。
「そうなんですか? ……ですが、大陸を渡るのはその方でもできず、今は条件を満たすために日夜活動していると」
「条件?」
「渡航許可状の所有です。プレイヤーは、特別な試験を受けて合格でなければそれが貰えないそうなんです」
渡航許可状か……表か裏、そのどっちかに働きかければすぐに手に入りそうだな。
「へー、大変だねー」
「メルは……持っているんですか」
「断定形!? そこは疑問形にしておこうよ」
クラーレの信頼が厳しい!
翼を生やして無理矢理飛べば海外にも行けるけど、特にやる予定はないな。
アマルたちが大陸ごとに転移陣を設置してくれているし、さらに言えば船も要らない。
あれ? それってクラーレの予想をはるかに超えているだけで、その方向性は正解ってことじゃ……。
それから、この町のギルドに向かった。
ギルドと言っても冒険者ギルド、先ほど会話に出た渡航許可状を申請する時に向かうギルド──海船ギルドではない。
彼女たちも、すぐに海外に向かいたいというわけではなさそうだ。
「それで、何かいい依頼はあったー?」
「あ、これはどうでしょ──「却下」……どうしてですか?」
「なんで『ファンションモデル』をまたチョイスしてるのさ。ますたーたちだけでやるなら、もちろんお好きにどうぞ」
「何を言っているんですか、当然メルもわたしたちといっしょにやるんですよ」
「だからこそ、それは却下なんだよ」
時魔法で依頼書の時間を遡らせ、元あった場所に戻しておく。
本当は指パッチンで燃やしたかったが、勝手に依頼書を燃やすのはご法度だしな。
「採取とか、討伐とか……ますたーたちならもっと凄いのも受けられるでしょ? というか、いつになったらこのギルドには生産系のプレイヤーが生まれるのさ。最初に生産職に就いたはずでしょ」
「……だって、メルの方が良品質じゃないですか。あんな物を見せられて、胸を張って自分で作れると思いますか?」
「ハァ……。そう思っているのは、ますたーだけだよ。そうだよね? みん……な……」
あれれ~、おかしいぞ~? 誰一人として俺と、目を合わせようとしてくれないなー。
クラーレだけは目を合わせてくれるけど、なんだかドヤ顔をしているし……二次元補正で凄く可愛いです。
「シガンお姉さん、いつかメンバーをスカウトするって言ってなかったっけ?」
「……そんなことを、言っていたこともあったかしら? きっと、侵蝕の影響ね」
そんな都合よく侵蝕されねぇよ!
なんでこんなときだけボケキャラ!?
「というか、みんなの活躍ならギルドに入りたいって人も現れるはずだよね? どうして私は、そういう人を一度も見たことがないのかな? ……拒否設定にしているの?」
「募集はいつもしてるわよ。ただ……少しだけ、条件が厳しいけど」
うん、なんとなく察した。
その条件とやらが原因だな。





