偽善者と海激団
「なるほどなるほど……ご苦労だった。とりあえず今は、眠ってもらうぞ」
「は、話が違うじゃ──」
「これでよし。死なないだけ、俺の偽善ぶりが働いていると思えよな」
男たちの尋問を終え、全員を眠らせてから空間魔法で仕舞っておく。
意識が無ければ、人間すらもものとして扱える……やれやれ、少し怖いな。
「組織『海激団』。これって、何が由来なんだろうか」
組織の名前、そして居所も吐かせた。
特に鍛えられた組織というわけでもなく、下っ端に拷問耐性もしていなかったようだ。
これ、たぶん探しても何も分からんな。
「(──ってわけで、これからアジトに行って、さらに上の組織を探してみる)」
《分かりました。では、向かう間にこちらで尋ねた情報を話しておきましょう》
「(ああ、頼む。できるだけ簡単に纏めておいてくれよ)」
念話を維持したまま、『海激団』の本拠地へ移動する。
《──ということがあったそうです。彼女自身に、薄暗いことはありません》
「(へー、意外だな)」
《何がですか?》
「(いや、リーがまともに仕事をできているのがだけど)」
《失礼な! ワタシは最初からまともじゃないですか! あっ……》
突然大声を念話越しに上げるリー。
最後の部分は、突然表情が変化したリーに女性が驚いたからかな?
やっぱり、リーはからかうと可愛いな。
《と・に・か・く! そっちはどうなってるのかしら!》
「(そろそろ目的地に着く。一度念話を切るから、ゆっくりカウンセリングでもしてやってくれ)」
《……分かりました、ご武運を》
あいよ、と答えて念話を切る。
たしかに縛っているスキル的に、通常戦闘は少し面倒なんだけど……これもまた、こういったときに練習をしておけという神からのありがたーいお告げだろう。
キツいが仕方ない、それなりにやってみることにするか。
辿り着いた『海激団』の根城は、町にある倉庫を改造した物だった。
傍から観ればごくごくありふれた物なのだが、望遠眼で視てみれば光景はまったく異なる物となる。
「薬物漬けか? 麻薬は錬金で作れたけど、やっぱりこういう方法で使われるのか……」
建物の中に大量のコンテナがあるんだけれど……そこに粉や液体、固体状の薬物が大量に収納されていた。
中に居る者の大半が『状態異常:薬物』になっているし、パクったのかな?
「おまけに高利貸しまでやっていて、女性は金を返済しようとして今回の件に至ると」
よくある──『知られたからには死んでもおうか』というヤツだ。
これまでよくバレてなかったなと思うが、それもまた運命の悪戯なんだろう。
「ま、そろそろ始めるとしますか」
「──んぁ? テメェ、何者だ」
覚悟を決めて倉庫に近づくと、さっそく外に出ていた下っ端に発見される。
この中に居る者も含め、『海激団』に優れたスキルの持ち主はいない。
あくまで、薬物関係のことを行わせるための末端なんだろう。
「初めまして、チンピラさん。私は心優しき善人でございます」
「……善人と口で言う奴は、たいていがそうじゃねぇんだよ」
「ハハハッ、これは手厳しいですね。では、その中で薬物を大量に所持する貴方がたは、いったい何なのでしょうね?」
「…………チッ、狗だったのか」
「いえいえ、海船ギルドはいっさい関係ありませんよ。私個人として、篤き<正義>の元に動いているだけです」
狗というのは、ギルドの依頼を受けて動いた者たちのことだ。
上からの命令であれば、なんでもしそうな感じが犬っぽいだろ?
「では、先に潰させてもらいます」
「し、侵入しゃ──ぶっ」
「まあ、そもそもこの辺りは叫んでも声が届かないようにしてあるんですけどね」
魔法で声の振動が外部に漏れないようにするだけだし、思考さえ持てば結構簡単にできるやり方だ。
そうして声を遮断しておいて、ササッと鳩尾を殴って気絶させておく。
こいつも回収してから、倉庫の扉をゆっくりと開ける。
「──改めて、初めまして。篤き<正義>を宿し、女性を救うために動いた善人です」
「へっ、善人だって自分から言う奴は、たいていが善人じゃねぇってのが相場だろ」
入口の見張りをしていた奴と、同じことを言いだすボスっぽい人。
武器や詠唱済みの杖の先をこちらに向けているので、余裕のつもりなんだろう。
……もちろん、気づいているがな。
「入り口の奴を倒したからって、こっちには武器も魔法も大量にある。本当の目的を吐いてもらったら、テメェは用済み。くたばってもらうぞ」
「やれるものなら。独りで来た意味を、よく噛み締めてくださいね」
「っ……! や、やれぇええ!」
ボスのその言葉に、手下たちはいっせいに攻撃を始める。
魔法が発射され、煙だらけの場所へ武器を持った男たちが追撃を行う。
まあ、コンビネーションなのかな?
逃げれば武器を持った奴らが動くし、まだ魔法を待機状態にしている奴もいるし。
一度に攻撃させると見せかけて、実際は煙幕で全員攻撃させましたと誤魔化しているだけみたいだ。
「──けどまあ、今回は『眼』を解放しているから意味ないけど」
「ば、馬鹿な……」
さて、二度目の尋問を始めようか。





